株主総会の場でも三菱電機の漆間啓社長は、「まずは上層部から順番に行動を変える必要がある」と強調した(写真:三菱電機)

社長再任に対する賛成率が36ポイントの改善。この結果に経営陣も胸をなで下ろしたことだろう。

三菱電機は6月29日、定時株主総会を都内で開いた。後日、開示された漆間啓社長の再任に対する賛成率は94.07%。品質検査不正問題で紛糾し、賛成率が58.46%とまさに首の皮一枚でつながった2022年の総会からV字回復を果たした。

今年の総会は昨年より1時間ほど短い約2時間で終了した。漆間社長は冒頭で、「信頼回復に向けた変化、創生に向けて取り組んでいる」と発言。企業風土の改革に取り組んでいることを訴えた。目指しているのは、「上にものが言える」「失敗を許容する」「課題を共有して解決する」風土だ。

品質検査不正は2021年6月に発覚した。長崎製作所が製造する鉄道車両用の装置では、顧客との取り決めと異なる条件や方法で検査が行われていた。2022年10月に発表された外部調査委員会の最終報告書では、三菱電機の製作所など30拠点中16拠点で計197件の不正があったと認定された。

「言ったもん負け」を変える取り組み

「上司や顧客にものを言いにくい風土で、顧客と合意したことができないと判明した際に、顧客への説明を忌避しがちだった」。最終報告の会見で、外部調査委員会の木目田裕委員長(弁護士)は、不正の背景に企業風土の問題があったと指摘した。

「『上にものを言える』と、社内にどのように発信しているのか」。総会では株主からこのような質問が出た。

2022年11月の東洋経済のインタビューでは、「どうしても相手に対して『そうじゃなくてこうだろう』とか、先に言いたくなってしまう。話を聞くと同時に、相手が言いたくなるいい質問をどう投げかけていくか、実践しようとしている」と、自分自身について語っていた漆間社長。株主の問いにどう答えたのか。

漆間社長は、まずは上層部から順番に行動を変える必要があるとして、「コーチング」を説明。「部下から課題を持ちかけられた際、指示するだけでなく一緒に解決するようになることで、部下も課題を提起しやすくなる」とした。

漆間社長が話していることは至極当然のことだ。ただ、問題点について声を上げれば「社内での調査、顧客への説明で仕事が増える」「声を上げても助けてくれない」など、三菱電機には「言ったもん負け文化」がはびこっていた。それを変えるには地道な一歩を積み重ねるしかない。


「現場に足を運んで従業員とどれくらい対話しているのか」。そのように問う声も、株主から上がった。

不正の発覚で杉山武史前社長が2021年7月に引責辞任。白羽の矢が立ったのが、当時は取締役で専務執行役だった漆間社長だった。社長就任から間もない2021年9月以降、国内44拠点を巡回。今年3月にその2周目が終了した。

その後も現場巡りを続けており、訪問回数にすると延べ100回程度に上る。社員が「会社を変えよう」として壁にぶつかる際には、漆間社長が相談に乗ったり、一緒に改革案を検討したりすることもあるという。

従業員からの信頼は回復途上

ただ、具体的な行動を起こしてはいるものの、従業員による会社への信頼感はまだ回復していない。

三菱電機では、エンゲージメントサーベイという従業員への調査を行っている。三菱電機で働くことに誇りややりがいを感じている従業員の比率は、2022年11月〜12月に行われた最新の調査で54%。

品質問題発覚前の2021年5〜6月に行われた調査での61%という結果と比べると、7ポイント減少した状態でとどまっている。そこで2025年度には、グローバル製造業の平均値である70%を目指す。

品質検査不正を受けて2022年度までは、問題の洗い出しと改善に向けた組織体制の構築を進める段階だった。急回復した漆間社長の賛成率には、取り組みが一定程度進展しているという評価に加え、今後に向けた期待が多分に込められている。来年の総会までの1年、その実効性が問われる。

(遠山 綾乃 : 東洋経済 記者)