声かけ、言い換えに関する本は多く出ていますが、「言葉」よりも大切なことがあります(写真:siro46/PIXTA)

【質問】

中2と小5の子どもがいます。子育てをしているとなかなか大変なことが多いのは承知していますが、それでもイライラしてガミガミ言う毎日です。最近は、「言葉かけ」「言い換え」の本がたくさん出ており、私もそれらを参考にして声かけをしていますが、全く効果がありません。声かけ、言葉かけはどうすれば効果が出るのでしょうか?

仮名:倉田さん

どういう「声かけ」をしたらいい?

確かに近年、「声かけ」「言い換え」に関する書籍を目にします。かくいう筆者も、『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』という本を2018年に出していますが、その頃は、まだ自己肯定感という言葉や、声かけ、言い換えに関する本は多くありませんでした。ということはここ5年ほどで急速に目立つようになったのかもしれません。

過去7年間で筆者は1万人以上の母親から子育て・教育相談を受けてきましたが、その相談内容の多くには、ある言葉が共通して使われています。それは質問の最後に「どういう『声かけ』をしたらいいでしょうか?」というフレーズです。

それだけ多くの親御さんは、声かけで子どもを変えたいという気持ちが強いようです。実際、これまでかけていた言葉を変えることで子どもが変わることもありますが、全く変わらないこともあります。その違いは「あることが原因」となっている場合が多く、それを知らないで言葉をただ言い換えただけでは効果は期待できません。

では、その原因とは何でしょうか?

それは、「声かけをするときの親の感情」です。言葉は感情が伴って発せられることがほとんどです。特に子どもに対して親がかける言葉は時に強い感情を伴うことがあります。日常しばしば使われる、「指示・命令・脅迫・説得」するための言葉は、負の感情を伴いやすいことはわかりやすいですが、言い換えられたプラスの言葉であっても、負の感情を伴うこともあります。

例えば、「ありがとう」という言葉があります。筆者は子どもの自己肯定感を高める魔法の言葉の1つとして挙げていますが、言い方が異なると、この言葉であっても効果が出ない場合があります。

「言葉」よりも「どのような感情を乗せるか」

感謝の気持ちを伴っているときは「ありがとう〜」という感じで言いますが、イライラしているときは「(イラッとしながら)ありがと!」というときもありますね。前者の場合は、そのまま「ありがとう」という本来の言葉の意味が伝わるため、相手の自己肯定感を引き上げることに貢献できますが、後者の場合は、ネガティブな印象を相手に伝えることになり、効果がないどころかお互いの感情が悪化しかねません。

活字だけで書かれた書籍や記事の場合、使用する言葉を紹介できても、なかなかニュアンスや言い方まで説明するケースは多くはないかもしれません。会話形式で事例を紹介することはあっても、それは一つの例であるため、そのままの会話を使用することは難しいと思います。

「言葉を使うときに負の感情が乗っていれば、相手には負の印象を与える」とまでは書かれないため、推奨されている言葉を使えば子どもは変わるだろうと勘違いをすることもあるわけです。

ですから、「どういう言葉を発するか」よりも、「どのような感情を乗せて発するか」が大切ということになります。

以上から、倉田さんが子どもに「魔法の言葉」や「言い換え言葉」を使っても効果が出ない理由は、言葉を使うときの感情面に原因があるのではないかと思われます。

しかし、感情面に原因があると言われても、なかなか感情のコントロールは簡単ではありませんね。そこで「言葉を換える」よりも、「言い方を変える」ことを試してみてはいかがでしょうか。

話し方についての本はたくさんありますが、「声かけのときの言い方」を書いた本はあまり聞いたことがないと思います。実は声かけでは、ここが最も大切な部分だと思っており、筆者は講演会で子どもが変わる「魔法の言葉」「言い換えの言葉」を紹介する際、言い方についても必ずお伝えしています。

ただ単に、この言葉を使うといいと言われて使っても、言い方が適切でなければ効果が全くないからです。ちなみに講演の場では「使用上の注意をよく読んでから言葉をお使いください」とトリセツ(取扱説明書)のようにお話ししています。

【子どもへの声かけ版 3つのトリセツ】

(1)軽く発する

声のトーンは少々高めで発します。感覚的な表現でいえば、「ふわっとした言い方」と言ってもいいかもしれません。
例えば、「まだ宿題やらないの? → ゲームはいつ終わる?」に言い換えをしてくださいと言われたとします。そのとき、軽いテンションで「ゲームはいつ終わる〜?」という言い方です(「〜」の部分で軽さを表現していますが、ニュアンスは伝わるでしょうか)。

逆に声のトーンを下げて少々キツめに、「ゲームはいつ終わる?(怒)」と言ったとしたら軽いとは言えません。相手に伝わる言い方としては、「軽く表現する」ことが最大のコツであると考えています。なぜなら、相手の抵抗という心のバリアーを突破しやすいからです。重々しく言えば言うほど、厳かな雰囲気にはなりますが、感情面が出すぎてしまい、内容は何も伝わっていません。

(2)長く話さず、短い言葉で伝える

言葉は端的に伝えることが理想的です。例えば、帰宅したら珍しく子どもが勉強していたとします。このようなときに親は「珍しいのね → 頑張っているね〜」と言い換えてくださいと言われたので、「頑張っているね〜」と軽く言ったとします。その短い言葉で終わればいいのですが、「頑張っているね〜」の後に、「いつもこんなふうに勉強してくれたらいいんだけどね」と余計はことを言ったらどうでしょうか。「頑張っているね〜」の効果は限りなくなくなり、子どもは嫌味を言われたとだけ感じます。

これは極端な例ですが、このような表現でなくとも、余計な一言を付け加えると、せっかく言い換えた言葉の効果がなくなってしまいます。

魔法の言葉や言い換えた言葉というのは、短い言葉だからこそ効果を発揮し、余韻を感じるものなのです。

(3)親または子どもが感情的になっているときは言わない

これも大切なことです。いくら効果がある言葉であっても、使うタイミングがあります。どのようなタイミングで使うかはさまざまですが、避けたほうがよいときがあります。それが、親または子どものどちらかが感情的になっているときです。そのようなときは、どのような言葉を使っても効果がありません。発する言葉はほとんどマイナス的意味を伴って相手に伝わるからです。

前述したように、言葉はただでさえ感情が乗りやすいため、感情的になっているときは感情そのものがダイレクトに子どもの心に伝わります。

以上のように、魔法の言葉、言い換え言葉は、確かに効果を出す側面がありますが、言い方を間違えると、逆効果になる場合もあります。今後、声かけをする際、以上の3つのポイントを意識してみてください。そうすれば、本来の言葉の持つ意味が子どもの心に届くと思います。


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)