突然の閲覧制限で、ユーザーからの反感は高まるばかり(写真:Bongkarn Thanyakij/PIXTA)

ツイッターの投稿が、うまく表示されない――。運営側は「一時的な制限」としているが、障害なのか、仕様変更なのか、いまひとつわからない状況が続き、ユーザーの不安は日を追うごとに増している。

ネットメディア編集者として、長年SNSのタイムラインをながめてきた筆者は、「もはやツイッターは社会インフラの一部だ」と感じる一方で、営利企業による、ひとつのサービスとしては、限界を迎えつつある印象を受けた。果たして、これが「崩壊の序章」となってしまうのか?

一時的な制限というTwitter不具合

2023年7月1日夜(以下、日本時間)、ツイッター利用中に、突如として投稿が表示されなくなったとの報告が相次いだ。とくに公式のアナウンスもなく、日本でも「Twitter不具合」などの関連キーワードがトレンドに入った。

障害ではないかとの推測も出るなか、運営企業X社のオーナーであるイーロン・マスク氏は7月2日未明に「一時的な制限」とツイッター上で説明し、意図的に行ったことをアピール。あわせてマスク氏は、閲覧できるツイート数を、認証済みアカウントは1日あたり6000件、未認証アカウントは600件、新規の未認証アカウントは300件に絞っていると報告した(その後、段階的に基準は引き上げられている)。

マスク氏は制限の理由として、「極度のデータスクレイピングとシステム操作」への対処を挙げている。

データスクレイピングとは、データを抽出したうえで、扱いやすく加工することを指す。ツイッターには、外部とのサービス連携をしやすくする接続部のような「API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」機能が備わっている。

しかし、APIを通さずに、機械的かつ大量にデータ収集しようとする動きがあり、それを牽制すべく強硬手段に出たと、マスク氏のツイートからは読み取れる。


出所:ツイッター

なお、その後7月5日になって、ようやくビジネス向けの公式ブログで経緯が説明された。

予告なく制限を行ったのは「事前に告知を行えば、悪質業者は検知を逃れるために行動を変えることができるから」(以下、日本語版ブログからの引用)だと釈明。ユーザーの影響は「ごく一部」かつ、広告主への影響も「最小限」だとしながら、「ほんの一瞬でも、スピードアップのために速度を落とさなければならないこともあります」と理解を求めている。

マスク氏の「ツイッター改革」

マスク氏の発言を受け、ユーザーからは、一連の背景に「API有料化」があるのではと指摘されている。ツイッターは2月、これまで無料だったAPIに課金すると発表。現在はFree(無料)、Basic(月間100ドル=約1万4000円)、Pro(月間5000ドル=約72万円)、Enterprise(料金非公開)の4プランで展開されている。

マスク氏は昨年秋のツイッター買収から、収益力の向上を図っていて、API有料化もその一環だ。しかし今回のように、企業相手の商売を理由に振り回されるとなれば、一般ユーザーにとっては「とばっちり」でしかない。どれだけデータスクレイピングを責めても、その是非は議論にならず、ただ単に「暴君イーロンのご乱心」と冷めた見方が広がるばかりだ。

マスク氏の「ツイッター改革」に対しては当初、日本のユーザーは好意的だった。買収直後の昨年11月、筆者は本サイト(東洋経済オンライン)のコラムで、それまでの運営体制では「なぜ、この機能を実装・変更するのか」が明確に説明されていなかったとして、「ユーザーが考える『あるべきツイッター空間の姿』と、現状がかけ離れていると認識し、マスク氏を『救世主』だとみなしている可能性」を示していた。

それだけにユーザーは、期待ハズレな印象を抱いているはずだ。API有料化をめぐっても、高額な利用料を払えないサードパーティー(公式ではない第三者)によるサービスが、続々と閉鎖に追い込まれた。採算が取れずツイッターそのものが終了してしまうと本末転倒なのだが、「『俺たちのイーロン』が、ツイッター文化を守ってくれる」と持ち上げていた向きには、失望を与えているだろう。

今後、ツイッターでは何が起こる?

では今回の「閲覧制限」騒動によって、どのような変化が今後、起こると考えられるだろう。

ツイッターに今後起こること1「運営不信の加速」

まずは「運営不信の加速」だ。サービス維持のためには、収益力アップは欠かせない。それはユーザーも気付いているはずだが、とくに日本では「情報はタダで得るもの」といった認識が根強い。そんななかで、強行突破してしまうと、拝金主義的な印象を残しかねない。

課金ユーザーへのフォローアップも大切だ。マスク体制になって以降、月額980〜1380円の「Twitter Blue」が日本にも導入され、これまで無料かつ審査制だった「認証済みアカウント」がBlue利用者へのサービスとなった。

しかし、認証済みアカウントもまた、今回の騒動では、閲覧上限が定められている。無料ユーザーより優遇されていても、告知なく制限がかけられるとなれば、「課金する意味は?」と疑問視されてもムリはないだろう。

ツイッターに今後起こること2「広告主離れ」

もうひとつ予想されるのは、「広告主離れ」だ。かねてマスク氏就任以降、クライアントが離れていると報じられているが、急な方針転換による仕様変更と、それにともなうユーザーの不信によって、さらに広告出稿を足踏みするケースも増えるのではないか。

たとえば「プロモーションしたい時に、十分な効果を発揮できないおそれがある」といった不安は、今回の騒動で露呈している。閲覧制限中の7月2日夕方、人気アニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女 Season2」(MBS・TBS系列)の最終回が放送された。フィナーレを目前に、ツイッターではその数日前から、番組関連のハッシュタグを投稿すると、あわせてキャラクターの絵文字が自動表示される、期間限定の施策が行われていた。

絵文字表示の取り組みは、直近でも「鬼滅の刃」や「【推しの子】」といった作品で行われている。ただ「水星の魔女」はツイッターとの親和性が高く、前シーズンから、毎話放送ごとにトレンド入りしてきた。こうした経緯もあって、最終回放送日にタイムラインの話題を一気に集めるべく、計画的に準備が行われていたと察する。それだけに、水を差すような「一時的な措置」に、関係者は肝を冷やしただろう。

不安定な利用環境が続くなか、ツイッターからの「移住先」を探す動きも見られる。

数年前にも注目されたMastodon(マストドン)や、日本発のMisskey(ミスキー)、ツイッター社の元CEOが関わる招待制のBluesky(ブルースカイ)、あらゆるSNSから「出入禁止」となったアメリカのドナルド・トランプ元大統領が立ち上げたTruth Social(トゥルース・ソーシャル)などが話題になっているが、ここに来て、最有力とされる新サービスがやってきた。FacebookやInstagramを展開するMeta(メタ)が、7月6日にも始めると報じられている「Threads(スレッズ)」だ。

GAFA(FはMetaの旧社名Facebook)の一角を占める、世界有数のIT企業によるSNSサービスの誕生とあって、期待は大きい。しかし、筆者の見立てでは、完全なるツイッター代替には(少なくとも日本市場においては)なり得ないと考えている。

閲覧制限は「崩壊の序章」になるかもしれない

日本のネットユーザーには、SNS上のフォロー・フォロワー関係と、リアルな人間関係をわけて考え、両者の結びつきを避ける印象がある。実名ベースのFacebookに違和感を覚えた経験がある読者もいるだろう。その点、Instagramは属人性が薄れるものの、Facebookとのアカウント連携や同時投稿が推奨されている。

表向きは匿名性が保たれていても、内情は「実名コミュニティー」と隣り合わせとなれば、居心地の悪さを感じるユーザーも多いはず。日常を離れて、特定の趣味趣向で「つながる」気軽さを、ツイッターに求めていた層にとって、しばらくThreadsへの「完全移行」は考えられないのではないか。

競合サービスがどうなるにせよ、ツイッターが苦境に立たされているのは間違いない。いかにユーザーや広告主の信頼を勝ち取るか。そして、これまでの「ツイッターは無料で使えるものだ」との意識を変えて、ユーザーが直接課金したくなるような仕組みを作れるか。今回の閲覧制限が「崩壊の序章」にならないことを願っている。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)