池上彰さん(写真:ヒダキトモコ)

新聞を読む人が減っています。そうした中、池上彰さんは「新聞を読む人が減ったことで、新聞を読んでいるだけで他人に差をつけることが可能になった」と言います。

池上さんの新刊『新聞は考える武器になる 池上流新聞の読み方』よりそのメッセージを抜粋してご紹介します。

拡散されていく「フェイクニュース」

アメリカのトランプ大統領が当選した2016年の大統領選挙の際、「ローマ法王がトランプ支持を公式に表明した」といった、ウソの情報がSNSを通じて拡散されました。

こうした「フェイクニュース」はトランプ大統領の当選に大きな役割を果たしたとされています。さらに、そこにロシアの情報機関が絡んでいたとも言われています。

一方、2017年に行われたフランスの大統領選でもフェイクニュースが飛び交いましたが、こちらは選挙の結果にあまり影響を与えなかったと言われています。その理由について「フランス人は新聞を読んでいるから」とする意見もあります。

日本でもネット上では頻繁にデマが拡散されています。政治的なフェイクニュースも増えています。

日本の場合、顕著なのは、大事故が起こったときは、世論が一色に塗りつぶされてしまうことです。こうした集団ヒステリーは非常に危険です。ネットで炎上し、多くの人が「けしからん!」と叩いているとき、「このニュースは本当かどうか?」と疑う姿勢が大切です。

フェイクニュースやデマに釣られ、あわてて拡散して恥をかくのは避けたいものです。だまされないためには、「おかしい」と気がつく「メディア・リテラシー」を備えておくことが必要でしょう。

メディア・リテラシーとは、メディアからの情報を読み解く、見極める能力です。メディア・リテラシーを磨くには、さまざまなメディアに触れて、いろいろな視点、伝え方があることを知るのが大切です。

「メディア・リテラシー」を備えるためにできること

そのためにひとつおすすめしたいのは、新聞を読み比べてみることです。

新聞によって、同じニュースでも、取り上げ方や伝え方がまったく違う場合があります。


ニュースというのは客観的なものだというイメージがあるかもしれません。実際、新聞は「客観報道」を装っています。しかし、実は新聞によって伝え方は違います。ときには、同じニュースのはずが、正反対のことが書いてある場合さえあります。

子どものころから慣れ親しんでいた新聞からは、気がつかないうちに大きな影響を受けています。1紙を読み続けていると、その新聞が持っているバイアス(偏り)を意識できなくなります。

だからこそ、誤ったニュースにだまされないために、そして、新聞をより楽しむためにも、新聞の読み比べをおすすめしたいのです。

1紙は保守系、1紙はリベラル系といったように、論調の異なる2紙を読むとよいでしょう。新聞の個性やクセを理解し、賢く付き合っていきたいですね。

(池上 彰 : ジャーナリスト)