(写真:takeuchi masato/PIXTA)

社長(経営者)になるような人は性格などに特徴があるのでしょうか。これまで、行政と社長の間に立って双方の橋渡しをする仕事に携わるなかで、1000人を超える社長や行政職員などと接してきた筆者による著書『できる社長の対人関係』より一部抜粋・編集のうえ、社長の資質について解説します。

日本には意外と社長が多い

総務省が発表している「令和3年経済センサス-活動調査」によると、日本には507万9000の事業所・企業があるとされています。2割ほど同じ社長が複数の企業を経営しているとしても、日本には400万人程度の社長がいると考えられます。日本の人口は約1億2000万人程度ですから、じつに30人に1人程度は社長だということになります。学校で考えれば、1クラスに1人は社長がいることになりますので、かなりの割合で社長が存在するということです。

それにもかかわらず、世間のイメージでは日本は社長が少なく、起業する人間の数も少ないと思われています。これは大きな誤りです。

社長の多くは、心の底から腹を割った社内の人間への相談や、全幅の信頼を寄せて最終決断を他者に任せられない、という悩みを抱えているのですが、これには理由があります。

社内の人間にきちんと相談、決断を任すことができる人は、つねに他者と信頼関係を築き続けられる人です。言いかえれば信頼関係の構築は、コミュニケーションによる継続力の賜物です。

継続したコミュニケーションをおこなうためには、相手の発する言葉や情報を積極的に受けとり、相手ごとにあわせた広範囲な情報を、つねに収集している必要があります。いわゆる雑談の得意な人ですね。心理学的には、こういう人を「拡散的好奇心の強い人」といいます。

他方で、社長は社会に対し、自分や会社が達成すべき目標を打ち立てることが得意な人たちです。明確な目的を持ち、そこに向かって他人を引っ張っていきます。このような能力に秀でている人は「特殊的好奇心が強い人」といいます。この特殊的好奇心の強い人は、拡散的好奇心が弱くなる傾向があります(反対に拡散的好奇心の強い人は、特殊的好奇心が弱い傾向にあります)。

拡散的好奇心が強い人は、周囲の人間にはたらきかけることや、周囲の人間から情報を引き出すことが難なくできます。その結果、集団に属することが楽と感じることができます。

一方で、特殊的好奇心が強い人は、ある特定の情報への強い関心、既知となった情報の深掘り、特定の目的達成への問題解決手段を導くことに楽しさを感じます。広く浅く、無難に全体最適をおこなう必要がある集団に属することが苦手です。

このことから、拡散的好奇心が強い人は、周囲にあわせた生き方、つまり従業員や部課長に向いています。対して特殊的好奇心が強い人は、周囲にあわせず型にはまらない社長や、フリーランスのような自立した生き方が向いているのです。

また、特殊的好奇心が強い人は、不明瞭なことや、自らが理解できないことを明確にするまで追求しないと気が済みません。得た知識や情報を自分なりに整理して理解することを好みます。周囲の事情でかき乱されず、自らの納得する形で整理、保有し続けて向きあいたい傾向があります。

これは少し古い言葉だと「オタク気質」というものですが、僕は「クセつよ(クセが強い)」と呼んでいます。これらが、社長や個人事業者、フリーランスになる人が「クセつよ」で「コミュ障」の傾向が強い理由といえるでしょう。

社長の集団にも重要な「心理的安全性」

Googleが、2012年から2015年までの4年間におこなった「プロジェクトアリストテレス」という生産性向上の研究プロジェクトがあります。エンジニア以外にも社会学や心理学、統計学などの専門家を集め、極めて精緻に集団における生産性について研究されたものです。

これによれば、組織や集団の生産性向上には「心理的安全性」というものが最重要と結論づけられました。この心理的安全性は、集団の中でどんな意見でも主張でき、互いの個性を尊重しあえる状態をいいます。

「いやいや、特殊的好奇心が強く、自立した生き方を求めている社長に、集団での生産性向上なんて、関係ないでしょ」なんて思われるでしょうか。人が集まった際の心理的安全性がもたらす効果は、次のようなものがあるとされています。

・ストレス軽減やメンタルヘルスケア

・個々のパフォーマンス(性能・成果・効率)の向上

・メンバー間の情報交換量増加による個々の知識量アップ

・集団的思考の改善

・多様な価値観によるイノベーションの創出

いかがでしょうか。これらの多くは、社長が交流会などに参加する動機とリンクするのです。

さらに僕が注目しているのは、集団的思考を改善しつつ、多様な価値観からイノベーションが創出されるという点です。多くの会社における人の集団・組織のあり方は「ヒエラルキー型(階層型組織)」といいます。中央集権的なヒエラルキー型の最大のメリットは「1を10」にすることや「10を100」にすることにたいへんすぐれていることです。


一方、社長に求められている役割は、そもそも大前提の「1を生み出す」ことです。集団の力によって「1を10」「10を100」にすることではありません。この「1を生み出す」ことは、集団思考とは対極にあり、多様な価値観が交錯することで生み出されるイノベーションです。これを実現するためには、集団・組織を「ホラクラシー型(自律分散型組織)」にすることが大事だと考えています。

ホラクラシー型は、アメリカの起業家であるブライアン・J・ロバートンが考案した造語です。従来のヒエラルキー型に替わる集団のあり方として提唱されました。意思決定をトップダウンではなくメンバー全体でおこなうことや、個々のメンバーが主体的に均等に機能するといった特徴があります。

これこそが、まさに「できる社長の対人関係」の理想でしょう。近年は、時代の変化にあわせ社長にとどまらず、多くの人々がこのようなホラクラシー型の集団を結成し、イノベーションを起こすといったムーブメントが広がっています。

(服部 真和 : 行政書士)