ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。第59回は「犬とお留守番をした3日間」についてつづってくれました。

父と母が不在の三日間。そのとき犬は…

父と母が2泊3日の旅行に出かけた。出発の前夜、母は犬に旅行の日程を説明していた。2020年の冬、母が骨折して入院した夜があった。そのとき母の不在に犬がひどく心もとない様子になったのだ。とはいえ当時も私は犬のそばにいたので日常生活に支障はなかった。夜が更ければ床についたし、翌朝は散歩に出かけてごはんも食べた。

なので今回は私も兄もいるし大丈夫だろう。大丈夫であってほしい。どうだろう。

結論から言うと3日間、拍子抜けするほど犬はいつも通りであった。少なくとも私はそう感じた。

まず1日目の夜の態度が3年前、母が入院した夜とまったく違った。3年前は寄る辺をなくした迷子のように不安そうで、またソワソワと落ち着きがなかったけど、9歳にもなれば動じないのでしょうか。ベッドに沈み、寝息を立てる犬よ。

年を取ったのもあるし、そうだ、あと前回は怪我という悲しい不在だったから、重苦しい家の空気で不安になったのもあったのか。“他人は自分を映す鏡”なんて言うが犬はキラキラに磨かれた鏡だ。だから今日は「お母さんおらんけどみずえヘラヘラしてっし」なんてグゥグゥ寝てるのかい?

2日目の朝、普段の散歩コースより少し足を伸ばして紫陽花を見に行った。近所のお寺だが、毎年見事な紫陽花を咲かせてくれる。季節の花を犬と眺めるのが風物詩。

しかし紫陽花の根・蕾・葉に含まれる成分は犬が食べたら食中毒を起こすこともあるらしく要注意だ。数年前Twitterでフォロワーの方に教えてもらってから気をつけている。

散歩から帰路につくと、新しいボールを犬にプレゼント。過去にも同じボールを持っていたのだが、気に入って遊び倒して壊れてしまったのだ。やはりよく跳ねてよい!

犬とお出かけをしようかとも考えたが雨が降ったりやんだりと不安定な空模様なのでやめた。窓の外でしとしとと雨が降るなかふたりで昼寝をして憩いの休日となった。

夕方になれば雲間から青空がのぞいて、少し遠くの公園に行くと犬は機嫌よく芝生を駆けのぼっていった。2日目もつつがなく過ごせた。

●いよいよ父と母が帰宅!

いよいよ3日目、夜になれば父と母が帰ってくる。私が仕事を終えて夕方ごろ帰宅すると、ちょうど兄と犬も散歩から帰ってきた。私は靴を脱ぎ、犬はそのままの足で揃って居間に上がる。

そしてボールと一緒に買っておいたおやつを犬に見せて「食べる?」と尋ねれば、漫画であれば“パァァッ”と効果音がつくほどに犬の瞳が輝いた。

お気づきかもしれないが母の不在に合わせてボールやおやつを準備しておいた。常日頃から犬限定で財布のひもが緩みがちだが、今回は寂しさを紛らわせればと少し意識した。

「もう少ししたらお母さん帰ってくるよ」と伝えると、玄関を見張るかのようにいそいそと長椅子の下に身体を潜めた。一体どこまで伝わってるんや。

1時間ほど経過し、すっかり日が暮れた庭先に賑やかな足音が近寄ってくる! 母の足音を聞き分けている犬は吠えず、静かに、ただ静かに帰りを待っている。

「ただいま〜!」母が犬に手を伸ばしながら駆け寄る。犬はその手を受け入れる。こんなとき犬も「おかえり」って言うんかな。いや、もう言うてんのかな。

母が犬を撫でながら「この3日間…」と喋り始める。

「子どもの顔はよぎらんかったけど、犬には会いたくなった」なんてえらい真剣に言うてウケた。笑いながら「分かるよ」と相槌を打つ。出先で犬に会いたくなるのほんま分かるんよ。

犬を撫でながら、母は言葉を続けた。母の眼差しも声も手もぜんぶぜんぶ優しい。

「やっぱり旅先でも色んな所で犬を見かけるし、見たらどうしてるかなって逐一考えたよ。それに携帯ひらいたらおるし」

…なぁ? と犬に呼びかける。お母さんの携帯の待ち受けずっと犬の写真やもんな。犬は安心しきっているのか、穏やかな表情で瞳を閉じた。

あーー何事もなくてよかった! と気が抜けた翌日の夜ですよ。居眠りをする母にいつになくえらい身を寄せる姿を目撃。この日犬が母にめちゃ甘えとって3日間の反動を感じた。

平然として見えたが、その内はわからないな。犬の心は犬だけのものだなぁとあらためて。