これからのマンション生活は、手ぶらでかなりのことができるのだそうです。そんな「手ぶらマンション」と称する、新築マンションを見学してきました。鍵になるのは、「顔」と「声」なのだとか。どういったことが手ぶらでできるのでしょう。

「顔認証」と「スマートホーム」でストレスフリー

例えば、仕事が終わって帰宅するときに、こんな生活ができるのです。

自宅に近づいた時点で自動で風呂のお湯はりが始まり、マンションに着いたらスマホも鍵も取り出すことなく、エントランスも自宅の玄関扉も解錠され、帰宅して「ただいま」と言うだけで、照明やエアコンが自動で点灯して好きな音楽まで流れ出す。

こうした「手ぶら」生活が実現できるのは、顔認証プラットフォームの「FreeiD(フリード)」(DXYZ提供)と総合スマートホームサービスの「HOMETACT(ホームタクト)」(三菱地所提供)が搭載されているからです。

見学したのは、プロパティエージェントの分譲マンション「ヴァースクレイシアIDZ板橋本町アーバンレジデンス」。そのうち、投資用賃貸マンションとしてではなく、実需用に分譲される8住戸が「手ぶらマンション」になっています。

参考:HOMETACT×FreeiDで実現するストレスフリーな手ぶらマンション「ヴァースクレイシアIDZ板橋本町アーバンレジデンス」

顔認証の実力、セキュリティレベルで双子もシャットアウト?

まず、顔認証の実力について見ていきましょう。

見学する前に私も事前に自分の顔を登録しました。これがけっこう手間だったのですが、一度登録してしまえば、FreeiDの顔認証を採用している職場や駅の改札、商業施設などで利用することができます。入退出だけでなく、顔認証で支払いなどの決済が可能な場合もあります。

見学したマンションでは、エントランスなど外部と行き来する出入り口のドア、宅配ボックス、エレベーター、自宅住戸の玄関が顔認証で利用できるようになっていました。本人の顔とマンションの住戸番号が紐づいているからです。自分宛ての荷物が収納された宅配ボックスの扉や自宅玄関の鍵は自動で開きますが、もちろん、荷物を取り出したり玄関の取っ手を引いて開けたりをする必要はあります。一方、エレベーターを顔認証で呼び出せば、降りる階のボタンを押す必要はなく、自動で自宅のある階のボタンが点灯します。

顔認証で宅配ボックスの扉が開きます(筆者撮影)
筆者も顔認証でエレベーターを呼び出しました(筆者撮影)
玄関の解錠はマスクを外して(筆者撮影)

この仕組みでスゴイと思ったのは、それぞれの認証シーンのセキュリティレベルを変えていることです。エントランスのセキュリティレベルは少し下げているので、マスクをしたままでも顔認証されますが、自宅玄関のセキュリティレベルは高いので、マスクをはずさないと認証されません。

テレビ東京の「60秒で学べるNews」という番組内の「顔パス社会がやってきた!」(2023年5月17日放送)というコーナーで、このマンションを使って実験をしていました。本人の顔写真などの画像を見せても反応しませんが、本人がノーメイクとバッチリメイクで試すとどちらも認証されました。一方、一卵性双生児の姉妹で試したところ、エントランスは2人とも認証されましたが、玄関では登録した本人しか認証されませんでした。セキュリティを高めると、双子でもシャットアウトできるなんて驚きですね。

スマートスピーカーを通じて、音声で家電や住宅設備を管理

顔認証のシステムはこのマンション全体で採用されていますが、室内の手ぶら生活を実現するのは、スマートホームサービスが採用された8住戸だけです。

まず、スマホにHOMETACT専用アプリをインストールして、室内のさまざまなスマート家電・住宅設備(照明、エアコン、テレビ、お掃除ロボット、風呂のお湯はり、電動カーテン、玄関の鍵など)とつなぎます。次に「ただいま=帰宅時」などのシーンを設定し、帰宅時には特定の照明やエアコンをつける、カーテンを閉める、音楽を流すなどを登録しておけば、スマホの操作ひとつでこれらが自動で実行されます。

手ぶら生活を実現するには、「OK Google」や「Alexa」といった音声アシスタントと連携させて、「ただいま」などの音声で自動実行するようにすればよいのです。さらに、スマホの位置情報を実行条件にして、「自宅まで○メートルまで近づいたら、自動でお湯はりをする」と設定することで、手ぶらで帰宅前のお湯はりもできます。

スマートスピーカーに「ただいま」と言うと、この部屋では照明がついてカーテンが閉まりました(筆者撮影)

HOMETACTの特徴は、多くのIoT機器と連携できる柔軟性の高さです。IoT機器はHEMS(Home Energy Management System)を使ってコントロールすることもできますが、統一規格であるECHONET Liteに対応した機器でないと連携できません。これに対して、HOMETACT はAPI (Application Programming Interface=ソフトウェアの機能を共有する仕組み)連携なので、特定のメーカーや通信規格に限定されることがありません。

ですから、「行ってきます」の音声でお掃除ロボットが自動で掃除を始めるといったことや、「ただいま」の音声でSonosのホームサウンドシステムがお気に入りの音楽を流すといったことができるわけです。

HOMETACT×FreeiDで広がる手ぶらの可能性

HOMETACTでスマートロックと連携すれば、スマホで解錠できますが、スマホを持たずに出てしまうと締め出しに遭うことになります。顔認証と連携することで、スマホも持たなくても解錠できますし、オートロックなので鍵のかけ忘れもありません。

また、HOMETACTは入居者の管理もできます。HOMETACTの登録ユーザー情報とFreeiDの登録顔情報を連携させ、退去した場合は顔認証の権限を停止するといった方法で、施錠のセキュリティを管理します。

このように、両者のプラットフォームを連携することで、手ぶら生活の可能性が広がります。連携が実現する最も早いタイミングがこのマンションだったとのことですので、今後も三菱地所の新築マンションなどに、手ぶらマンションが登場するということです。

「ところで、停電になったら顔認証などはどうなるのでしょうか?」気になったので、質問してみました。そもそも停電時には、エントランスの自動ドアもエレベーターも使えません。自動ドアを手動で開け、階段を使って家に帰ることになります。玄関の鍵は、顔認証のほかに物理的な鍵も残しているので、停電時は管理事務室のセキュリティボックスに保管してある鍵を使って開けることになります。

ただし、管理事務室に管理会社または警備会社が駆けつける必要があるので、停電時に電池で非常給電するスマートロックを設置して、連携させる方法を検討しているということです。

このように、それぞれのプラットフォームに連携する企業や機器が増えるほど、手ぶらの範囲が広がりますので、マンション暮らしはどんどん便利になっていくことでしょう。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)