がんばりすぎて疲れきったときや、仕事やタスクが山積みで体調や心理的に負担を感じたときなど、「燃え尽き症候群」を経験したことのある人は多いはず。燃え尽き症候群はどのような原因で発症し、どのような症状を生み出すのか、そして燃え尽き症候群を感じたときに対処する方法はどのようなものがあるのかというポイントを、メンタルヘルスや心理学についてアニメーションで解説するYouTubeチャンネルのPsych2Goがムービーにまとめています。

Your Body Knows You're Burned Out (And what to do) - YouTube

工業化やITの発達により、多くの進歩がもたらされた一方で、副作用として1970年代に生まれたとされるのが「燃え尽き症候群」です。心理学者のハーバート・フロイデンバーガー氏は、持続的な職業性ストレスを原因とした衰弱状態が、意欲の喪失や情緒の減退、疫病等への抵抗力の低下をもたらす精神問題として燃え尽き症候群を定義しました。



近年ではフロイデンバーガー氏の定義よりも拡大しており、肉体的、感情的、または精神的な疲労全般も「燃え尽き症候群」と呼びます。これは、長期的なストレスや、許容できる仕事量を超えた肉体的または精神的な努力に耐えた結果、モチベーションやパフォーマンスの低下、ネガティブな態度を引き起こすと考えられています。



また、新型コロナウイルスの流行を原因として、燃え尽き症候群の概念が復活したともいわれています。リモートワークへの移行が進んだことで、仕事への取り組みが楽になったように見える一方で、自宅でのプライベートな生活と仕事との境界線が曖昧になり、生活に支障が出る可能性があります。結果として、集中力の低下やモチベーションの低下など、燃え尽き症候群の典型的な感情的、精神的な兆候が確認されています。



ムービーでは、燃え尽き症候群には7つの兆候があるとして、兆候とそれぞれの対処法を挙げています。



1つ目は、燃え尽き症候群の最も明らかな兆候である「全体的な疲労感」です。単なる身体的な「仕事の疲れ」ではなく、感情的になりやすいなど精神面にも影響する「疲労」を感じていると、精神的、感情的な健康にも影響します。



疲労の大きな原因はストレスにあります。ストレスは多量のエネルギーを消費するため、慢性的なストレスは筋肉が長時間緊張状態にあるようなもので、じきに痛みやけがにつながります。



慢性的なストレスは睡眠や食生活に影響するほか、生体にとって必須のホルモンとなるコルチゾールを過剰に生成することで、多くのエネルギーを消費し、また消費したエネルギーが補充されません。同様の反応は、命の危機にひんしているような危機的状況で見られるもので、日常生活としては異常な状態となっています。



博士研究員のロバート・ジェスター氏によると、燃え尽き症候群は極度の疲労を引き起こし、睡眠をとっても改善されないそうです。疲労およびコルチゾール生成量を抑える優れた方法は、1日のうち10分間は時間を確保し、目を閉じて自分の呼吸に集中するようにリラックスすることです。



燃え尽き症候群の2つ目の兆候として、Psych2Goは「甘いものへの欲求の増加」を挙げています。過度のストレス下にいる際には体内のブドウ糖を多く消費しており、それを補充する反応として甘いものを求めると考えられています。また、ストレス下にいるときはエネルギーを多く消費するため、エネルギーの補充として糖分を求めていることも考えられます。しかし、ブドウ糖を多く摂取した上で、それを運動などで消費することない状態が続くと、今度はブドウ糖の過剰摂取として糖尿病の恐れが高まります。



3つ目の兆候は、「緊張性頭痛」の症状です。緊張性頭痛は頭痛の90%を占める最も一般的なタイプですが、筋肉の血行の悪さや姿勢の悪さのほか、ストレスや睡眠不足が原因となって起こります。心理学者のアダム・ボーランド氏によると、ストレスが高まると食事や水分補給をおろそかにしたり、手軽だという理由でジャンクフードを多く口にしたりと、食生活が変化するのも頭痛の原因と考えられるそうです。



食事の調整は重要なファクターとなるため、週末には30分でよいのでしっかり時間をとって、次の週に何を食べるか計画し、調理済みの食事には野菜を多く取り入れるようPsych2Goはアドバイスしています。また、あらかじめ計画するのが好きではない場合は、自分で料理することも推奨されますが、シンプルな食事には必要な食材が少なくなるため、インターネット上のレシピを検索するなどしてできるだけ工夫した料理をすると良いとのこと。



燃え尽き症候群の4つ目の兆候として上げられているのは「高血圧」です。燃え尽き症候群の結果、糖分の過剰摂取や食事バランスの変化によって高血圧になってしまう場合もありますが、高血圧は兆候としても現れるそうです。高血圧は食事による影響のほか、多くの場合は慢性的なストレスによって引き起こされます。アメリカの総合病院であるメイヨー・クリニックによると、ストレスは一時的な血圧上昇を引き起こし、血管や心臓、腎臓に損傷を与える可能性があります。また、ホルモンが動脈を損傷することで、心臓病の原因となる場合もあります。



ストレスを改善して血圧をより安定に保つための方法としては、運動が最適とされています。軽いトレーニングやストレッチ、太極拳などを行うことで、体には疲れが生まれますが、ストレスを増加することはありません。



5番目の兆候は、心臓の問題についてです。ストレスによる高血圧な状態が続くと、脳卒中やその他の心臓疾患につながります。心臓病を専門とする医師のマリー・ノエル・ランガン氏によると、動機や脈拍の上昇などの心臓トラブルはときおり起こることがありますが、それが頻繁に起こったり、数秒以上続いたりするような場合は、健康診断を受けることが推奨されます。水分不足も脈拍に影響するため、水分をしっかりとるようにするほか、少しでも不安に思ったら医療機関に相談することが望ましいです。



6つ目の問題として、燃え尽き症候群は胃や腸に大きな負担をかけることで、炎症を引き起こす可能性があります。胃腸と心理状態との関連を明らかにするための研究は近年多く行われており、ストレスを受けると体が多くのエネルギーを生成しようとするため、消化に使うエネルギーを節約しようとすることが原因と示唆されています。そのため、常にストレスを感じていると、食べ物が適切に消化されず、胃腸が危険にさらされることになります。



ノースカロライナ大学チャペルヒル校が2013年に発表した総説論文では、コンピュータ上の心理療法が、ストレスによって引き起こされる胃腸疾患の治療に効果的であることが示されています。そのため、燃え尽き症候群に伴う体の不調に対処が難しい場合は、専門家に助けを求めることで改善する可能性があります。



燃え尽き症候群の兆候として現れる7つ目の問題は「不眠症」です。不眠症はストレスを感じているときによく見られる症状で、不安な事を抱いたままベッドに入ることで、寝る前の自分に不安が襲いかかり、安眠を妨げます。不眠症に対処するには心を落ち着かせるように努めるのが最善であるほか、習慣的に運動することでも不眠症を改善できます。シカゴのノースウェスタン大学が2013年に発表した研究では、不眠症に悩む年配の女性が週に3回30分の運動を4カ月間続けることで、問題を改善できたことが報告されています。



燃え尽き症候群は軽い精神状態と考えられることもありますが、重大な疾患にもつながる深刻なものです。少しでも兆候を感じたら、仕事の休みを取れるよう上司に相談したり、自分のタスクリストを見直して優先順位をつけたり、スケジュールに休憩時間をしっかり確保したりと、生活を楽にする方法を見つけることが重要です。