イタリア勢の欧州頂上決戦 ELで流れを変えられず敗戦したローマ、CLのインテルは「守備的」を貫きやすい
セビージャ対ローマ。ブダペストのプスカシュ・アレーナで行なわれたヨーロッパリーグ(EL)決勝は、スペインリーグ11位対イタリアリーグ6位の対戦となった。それぞれの順位は両国内リーグの最終戦を前にしたものだが、欧州の頂上決戦でないことは言うまでもない。
その役割を果たすのはチャンピオンズリーグ(CL)決勝で、そのCLを欧州1部リーグとするならば、ELは欧州2部リーグ、2021−22シーズン新設されたカンファレンスリーグ(ECL)は欧州3部リーグに相当する。
CL、EL、ECL。昨季からUEFA主催のクラブサッカーシーンはこの3層式で展開されている。懐はより広くなった。ナショナルチームイベントも従来のユーロに加え、より重層的構造のネーションズリーグが2018−19シーズンにスタート。欧州は一体感と切磋琢磨する環境がバランスよく共存している。
自ずと鮮明になるのは各国リーグのレベルだ。CL、EL、ECLの過去5年の成績をもとに集計されたランキングにそれは表れる。各カテゴリーの翌シーズンの出場枠はランキングに基づいて決まるので、欧州はチーム間のみならず、リーグ間でも競争意識が働く仕組みにある。日本及びアジアには浸透していない概念だ。
現在のリーグランキングは1・イングランド、2・スペイン、3・ドイツ、4・イタリア、5・フランス、6・オランダ、7・ポルトガル、8・ベルギー、9・スコットランド、10・オーストリアの順だ。
だが今季(2022−23シーズン)に限ると、1・イングランド、2・イタリア、3・ドイツ、4・スペイン、5・ベルギー、6・オランダ、7・フランス、8・ポルトガル、9・トルコ、10・スイスの順になる。
健闘が目立つのはイタリアだ。EL決勝。結果を言ってしまえば、優勝を飾ったのはセビージャで、ローマは延長PK戦の末に涙を飲んだ。しかし、イタリア勢は、CL決勝(マンチェスター・シティ対インテル/6月10日/イスタンブール)、ECL決勝(フィオレンティーナ対ウェストハム/6月7日/プラハ)にも駒を進めていて、それぞれランキング1位のイングランド勢と対戦する。その結果いかんでは今季に限ったランクでは、イタリアがイングランドを抑えナンバーワンになる可能性がある。
【前評判が高かったローマだが...】
来季の出場枠に影響する過去5年のランクでは、イタリアは来季ドイツを抜き3位になることが決まっている。そのタイミングで鎌田大地はドイツ(フランクフルト)からイタリア(ミラン)に移籍すると言われている。ドイツとイタリアの関係を見れば、それが栄転であることが一目瞭然となる。
ミランでは2013−14シーズン途中から4シーズン、本田圭佑がプレーしているが、ミランは2014−15シーズンからの3シーズンで1度も欧州カップ戦(CL、EL)に出場することができなかった。1980―81シーズンから5シーズン、出場できなかった過去もあるが、この時は出場枠が各リーグ1チームの時代。欧州ランクという物差しに従えば、この頃がミランにとって1番の低迷期になる。こう言っては何だが、鎌田がミランに移籍すれば、本田の移籍とは話のレベルが違うのだ。
CL準決勝でそのミランを破り、決勝進出を果たしたインテルでは、長友佑都が2010−11シーズンから8シーズンプレーしている。2009−10シーズンの優勝以降、インテルのCL最高位は長友が移籍してきたシーズンのベスト8だ。12シーズン前の出来事である。今季のインテルは低迷から久方ぶりに脱皮した格好になった。
ミランを攻撃的サッカーとするならば、インテルは守備的だ。イタリア的なチームと言っても過言ではない。今季のセリエAを制し、CLではベスト8に進出したナポリ(CLベスト8)は攻撃的で、CLのグループリーグで敗退したユベントスは中庸だった。全体的にかつてより攻撃的になってきているが、CL決勝に進出したインテル、EL決勝に進出したローマは守備的だった。
EL決勝、前評判でわずかに上回っていたのはローマだった。セリエA6位とスペインリーグ11位の対戦なので、当然の予想かもしれないが、試合は強者と目されたそのローマが前半35分、パウロ・ディバラのゴールでリードする展開になった。注目すべきはローマのその後の立ち位置だった。先制点に至るまでのいい流れを維持するのか、早々と守備固めに入るのか。
【CLも攻撃的サッカー対守備的サッカーの構図】
それまでいいところがなかったセビージャは、前半43分にイバン・ラキティッチのCKに、ブラジル人のベテランMFフェルナンドが惜しいヘディングシュートを飛ばしたあたりからペースを掴んだ。後半開始と同時にアタッカー2人を入れ替えたホセ・ルイス・メンディリバル監督の采配も奏功した。それ以降、前評判で上回るローマをセビージャが攻め立てる図式が鮮明になった。
ローマを倒してヨーロッパリーグ優勝を果たし、歓喜するセビージャの選手たち
守備的サッカーの矛盾が露わになったのは後半10分、セビージャに同点弾を浴びたあとだった。守備的な姿勢を貫いたローマはその流れを変えられず、最後まで後手を踏んだ。前半こそ、攻撃的なセビージャを術中にはめることができていたが、試合をリードする展開のなかでそれがハマらなくなると、解決策が見いだせなくなった。延長戦のまさに最終盤、ジョゼ・モウリーニョ監督は布陣を3−4−1−2から4−4−2にいじり、攻撃的に出たが、時すでに遅し。決着がついたのはPK戦ながら、セビージャの勝利は順当な結果に思えた。
低落傾向が続くスペインにとってこのEL優勝は大きい。来シーズン欧州ランクで3位に上がるイタリア勢を叩いたことで、同ランク2位の座は安泰にした。
欧州のクラブサッカー界はいよいよクライマックスを迎える。7日のECLを経て、10日にはCL決勝が行なわれる。
マンチェスター・シティ対インテル。攻撃的サッカー対守備的サッカーの構図は、EL決勝と類似する。違いがあるとすれば、弱者と強者の関係だ。前評判で上回るのは攻撃的なマンチェスター・シティ。守備的なインテルは自らのスタイルを貫きやすい状況にある。
0−0のまま後半に入れば、マンチェスター・シティが試合をいくら優勢に進めようが、インテルペースという話になる。インテルがもしローマのように先制点を奪っても、もともと弱者なので、迷わず守りに徹することができる。ローマのように立ち位置が中途半端になることはない。
もっとも「攻めるシティ、守るインテル」という関係が長く続けば、試合の噛み合いは悪くなる。撃ち合いを期待する第三者としては、インテルに無欲で攻めてほしいと願いたくなる。
モウリーニョがEL決勝で敗れた後、ジュゼップ・グアルディオラがCL決勝に登場するという、監督絡みの図式も興味深く映る。モウリーニョは2009−10シーズンにインテルを率いてCL優勝に導いている。その準決勝では、持ち前の守備的サッカーで、グアルディオラ監督率いる攻撃的なバルセロナを倒している。モウリーニョが密かにインテルの勝利を願っていることは想像に難くない。CL決勝、勝つのはどっちだ。