「セリエA復権」となるか 欧州3大カップ戦決勝すべてに登場 イタリア人記者が疑り深くも期待する理由
ヨーロッパのシーズンは最終盤に差しかかっているが、そのファイナルを飾る華、ヨーロッパカップの3つの決勝すべてにイタリアのチームが出場する。
チャンピオンズリーグ(CL)ではインテル、ヨーロッパリーグ(EL)ではローマ、そしてヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)のフィオレンティーナ。すべての欧州カップ戦決勝にイタリアのチームが残るのは今回が初めてではないが、そうそうあることでもない。
これまでにあったのは3回(当時はチャンピオンズカップ/チャンピオンズリーグ、UEFAカップ、カップウィナーズカップの3大会)。いずれもイタリアのサッカーがヨーロッパを、いや世界を支配していた80年代から90年代にかけての出来事だ。しかしその最後の93−94シーズンからすでに29年。本当に長い間だった。多くのイタリア人が、この快挙はセリエAの復権への始まりになると期待している。長い闇を抜けて、セリエAのルネサンス時代が来るのではないかと。
その答えが本当に出るのは、数シーズンあとのことになるだろう。今シーズンがただ例外的にうまくいっただけの可能性もある。だが、私はそこまで悲観する必要はないと思う。楽観視していいと思える要素はいくつもある。たとえば準決勝までを見るなら、イタリアのチームはミラン(CL)、ユベントス(EL)を加える5チームが残っていた。これは史上初の快挙だ。ミランはインテルとのダービーで敗れ、ユベントスは90分互角に戦った末、延長戦でセビージャに敗れた。
最高峰のCLに限れば、ベスト8のなかにイタリアのチームが3チーム(他にナポリ)入っていた。これは紛れもなくセリエAのクラブチームが機能している証拠である。
そしてCL、EL、ECLという異なるレベルの大会すべてで決勝に残ったということは、中堅からトップまでのすべての階層で、イタリアのチームが戦う力を持っているということだ。セリエAの平均レベルは、他のヨーロッパのトップリーグと比べても遜色ないことがわかる。
ただし、注意してほしい。私は「セリエA」とは言ったが「イタリアサッカー」とは言ってない。このふたつは別物だ。
【前線にイタリア人はほとんどいない】
たとえばCLファイナリストのインテルの主力選手中、イタリア人は3人。フランチェスコ・アチェルビ、アレッサンドロ・バストーニ、ニコロ・バレッラだけだ。ふたりはDFでひとりはMF。前線にはイタリア人の影もない。アルゼンチンのラウタロ・マルティネスにベルギーのロメル・ルカクに、ボスニアのエディン・ジェコがストライカーを務める。
同じことはELファイナリストのローマにも言える。トップのコンビはイングランドのタミー・アブラハムとアルゼンチンのパウロ・ディバラだ。フィオレンティーナでもFWはブラジルのアルトゥール・カブラウ、セルビアのルカ・ヨビッチ、アルゼンチンのニコラス・ゴンサレスが務める。MFも同じようなものだ。
つまり、どこも「イタリアのチーム」ではあるが、イタリアの三色旗を背負う者は非常に少ないのだ。こうした状況を大いに懸念しているのがイタリア代表監督のロベルト・マンチーニだ。彼は代表に選手を招集する際、いつも頭を抱えている。呼べる選手はどんどん減っていて、特にFW不足は深刻だ。2021年の欧州選手権では予想外の勝利を収めたが、その後のカタールW杯で出場権さえも手に入れられなかったことが、この問題の大きさを証明している。
話が少し暗くなってしまったが、今は目の前にある3つの決勝を見てみよう。
インテルはイスタンブールで、現在世界最強の(あくまでも個人的な意見だが)ジョゼップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティと対峙する。カルロ・アンチェロッティのレアル・マドリードを4−0(準決勝第2戦)で破ったことがその強さを如実に示している。シティは圧倒的な強さと美しさを兼ね備える数少ないチームだ。インテルが劣勢なのは明らか。しかし、この劣勢が逆にインテルの武器となる可能性もある。
「シティを負かせばとんでもない快挙。負けても当たり前だから責められることはない」
こうした立ち位置はインテルの選手たちを重圧から解放する。少なくともシティの選手が感じているようなプレッシャーは彼らにないだろう。大方の予想ではインテルは敗れることになっている。しかし一発勝負の試合では何が起こるかわからない。過去にそんな例はゴマンとある。まあ、どうなるか結果を見てみよう。
【ローマ対セビージャは実力均衡】
ヨーロッパリーグ決勝をセビージャと戦うローマのジョゼ・モウリーニョ監督 photo byAP/AFLO
それに比べると、両チームの力が均衡しているのがELだ。ジョゼ・モウリーニョ率いるローマは昨年のECLの覇者。一方、セビージャは準決勝でユベントスに苦戦したが、2006年から2020年の間に6回もELで優勝している。
モウリーニョは「目的を達成すればどんな手段も正当化される」という言葉を信じ、準決勝のレバークーゼン戦では、GKルイ・パトリシオの前に鉄壁の壁を作った。「時代錯誤のカテナチオ」と批判されたが、準決勝を突破するためには効果的だった。ただ、セビージャ戦ではもちろん、守るだけでは不十分だ。どうしてもゴールが必要になる。リードしていたのに追いつかれ、追い抜かれたユベントスが教訓になるだろう。
一方、ECL決勝を戦うフィオレンティーナは少しだけ不利かもしれない。対戦相手のウェストハムは実に47年ぶりにヨーロッパカップ戦の決勝で戦うチームだが(1975−76のカップウィナーズカップ決勝が最後)、ここまでの成績は13勝1引き分けと圧倒的な強さを見せている。また、ウェストハムにはイタリアのチームを熟知する選手もいる。元ミランのルーカス・パケタ、元トリノのアンジェロ・オグボンナなどだ。
しかし、不利とはいえ、フィオレンティーナが一方的にやられるわけではないだろう。準決勝、フィオレンティーナはホームでバーゼルに1−2で敗れたにもかかわらず、敵地の第2戦は1−3で勝利し、結果を覆した。こうした粘り強さと精神力の強さはフィオレンティーナの大きな武器だ。
5月31日のEL決勝ローマ対セビージャ(ブタペスト)を皮切りに、6月7日のECL決勝フィオレンティーナ対ウェストハム(プラハ)、そして大トリ、6月10日のCL決勝インテル対マンチェスター・シティ(イスタンブール)と続く。もしイタリア勢がすべてのタイトルを制することができたならば「セリエA復活」とまでは言わないが、復権への大きな弾みになるだろう。