浜野まいかインタビュー(後編)

【前編】スウェーデンの地で大きく成長中>>

 浜野まいかが育ったセレッソ大阪堺ガールズ(レディース)では多くのポジションを経験する選手が多い。そんななか浜野は、前線に留まっていた完全なゴールゲッタータイプだ。浜野も今の自分を一番生かせるポジションは「ナンバー10か9.5の位置」だと言う。所属するハンマルビーIF(スウェーデン)ではトップ3枚の左に配されることが多いが、トレーニングや試合を見る限り、フレキシブルな動きも可能なサッカースタイルだ。そういうところも日本のサッカーに似ている。ここで揉まれた3カ月を経て、4月のヨーロッパ遠征では浜野のシュートインパクトからの振り抜きのスピードが上がっていた。


一つひとつ自分で立てた目標を達成しているという浜野まいか

「それ、自分でも感じるんです!なんかパンパン!って感じですよね?」

その擬音語が差す意味をこちらが正しく受け取れているかはさておき、本人にも感じ取れる成長度合いであることは間違いない。

「4月のなでしこジャパンの(欧州)遠征のときに、GKの(田中)桃子さんから『シュートスピードがめっちゃ速くなった』って言われてうれしかった。スウェーデンにきて普通のスピードでシュートを打つと止められてしまうので、止められないように打っていたら速くなっていました」

 この変化を実感しているからこそ、4月のデンマーク戦ではチャンスを決めきれなかったことが何よりも悔しいと表情をゆがめた。

【W杯までに磨き上げたいこと】

 遠征直後には、なでしこジャパンの池田太監督は、ハンマルビーまで視察に訪れている。WEリーグの選手のようにギリギリまで調子を見ることはできないが、7月に開幕するワールドカップまでの残された時間で浜野がどこまで上がってくることができるのか、期待の表れでもある。

 今、浜野自身がワールドカップ仕様にまで磨き上げたい資質は何なのだろうか。

「そりゃすべて成長したいですよ!でも結局は判断スピードなんじゃないかと思うんです。それさえあれば......GKやDFのちょっとした位置のズレを見て一瞬で判断できたら弱くてもパスはとおるし、シュートは入る。この前のデンマークとの試合だって1対1のところでみんな負けてる感じがしましたよね。結局そこでブッちぎられたら戦術もなにもなくなってしまう。だから、そこの基礎もしっかり伸ばしつつっていうのはセットだと思ってます」

 感覚派のようで、目標設定もしっかりと持っている浜野。目標を言葉で書き出すというのも有言実行するために浜野が意識していることのひとつ。

「AFC U-16女子選手権(タイ2019)でメンバーに選ばれた時に5点以上獲る!みたいな感じで部屋に書いて貼ってたんです。そしたら5点獲って得点王になった。中学2年のときも、レディース(セレッソ)のスタメンなんて絶対無理って思ってたんですけど、ベレーザ戦の1週間前にレディースに昇格して、たまたまケガ人が出て何故かスタメンで出られたんです。今は......書いてますけど、人に言ったら叶わないので内緒です(笑)」

 一つひとつ目標をクリアしてきた浜野も、とうとうなでしこジャパンの一員として世界と戦うチャンスを掴める位置にまでやってきた。

「一つひとつのプレーにかける想いが強くなった。球際ひとつで監督やコーチ、選手側からの印象って変わる。試合に出られていても常に危機感を持つようになりました。というか、危機感しかないですよ。大事なのは味方を信じて、信じてもらうこと。最終的に1対2で数的有利なときにどっちにパス出すかって考えたら、やっぱり信じてる方に出すじゃないですか。そういう場面で信じてもらえるように、トレーニングから自分の特長を出して『ここでもパスが届くんや』って思ってもらうこと。これは口で言っても無理だと思うんですよね」

 よく周りを見て、自分の立ち位置を理解している。同じようにU-20女子代表からなでしこジャパンに召集されているのが藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)だ。彼女はもうスタメンとしての地位を確立しようとしている。U-20時も呼応し合うプレーで得点を挙げてきた。この2人の化学反応をなでしこジャパンのピッチで見たいと期待するのは自然のことだ。

【熱さのあるプレーを見せてほしい】

「2月のShe Believes Cup(アメリカ)で1回ありましたよね。自分もあおばさんとのホットラインで崩すのはやりたいです。ゴールって本当に紙一重。ゴールが入るときってチャレンジが大前提にあって、その裏のパスがとおってゴールとなるか、カットされるか----。100%安全なパスだったら"入るかも"にもならない。だから"やっちゃえ!"っていうのは大事だと思っていて、それで入ったら1−0じゃないですか。自分は途中から出ることが多いから、なおさらこの"やっちゃえ!"っていう気持ちは持っていないとダメだと思ってます」


貪欲にサッカーと向き合い、確実に成長している

 代表活動時よりも、言葉数の多いことに新鮮さと驚きを抱きつつ、彼女のものの捉え方が見えてきた。そこに彼女の独特の感性が加わったときにプレーとして、どう表現されるのか。きっと想像を超えてくるに違いない。なぜなら彼女の最終目的地は「女子サッカーで歴史に残る選手になること」なのだから。

「自分にも想像できない選手が"それ"なんだと思います。今までにいないってことは誰にも想像できないもので、それはおのずと自然に(そういう選手に)なっているものなんでしょうね」

 試合後に悔し涙で顔をくしゃくしゃにしていた彼女はもうここにはいない。その時も感情がストレートに流れ込んできて熱いものが伝わってきたが、今の浜野はまた別の熱さが心の奥底にたぎっているように見える。

 昨今、うまい選手が増えた。それと反比例するようにピッチからは熱さが伝わりにくくなったように思う。浜野はその熱さをプレーで見せてくれそうな期待を抱かせる。枠からはみ出ることを恐れない----浜野にはそんなプレーを貫いてほしい。