安田記念、ジャックドールはマイルGIでも勝ち負けを演じられるか
今春のGI大阪杯(4月2日/阪神・芝2000m)を快勝し、GIウィナーの仲間入りを果たしたジャックドール(牡5歳)が、今度はマイルGIの安田記念(6月4日/東京・芝1600m)に挑戦する。
はたして、距離が2ハロン短縮となるマイル戦、それも強豪馬が集うGI戦で通用するのだろうか。
大阪杯を勝って、念願のGIタイトルを手にしたジャックドール
デビューからここまで、ジャックドールが挑んできたレースは14戦すべてが2000m戦。そのため、今回の挑戦には「無謀」「(マイル戦の)スピードに対応できるか」など、否定的な声があるのは確かだ。
しかしながら、大阪杯を1分57秒4のレースレコードで制覇。そのスピードからして、「マイル戦でも通用する」「価値ある挑戦」といった好意的な評価のほうが多い。
現に同馬を管理する藤岡健一調教師も、安田記念参戦には「もともとマイルは合うと思っていた。勝てると思っていく」と、十分に"勝算あり"と踏んでいる。
そもそもジャックドールの父は、安田記念、GIマイルCS(京都・芝1600m)と春秋のマイルGIを制し、香港のマイルGIも2勝している名マイラーのモーリス。血統的に見ても、GIの頂点に立つだけの背景がある。
また、藤岡調教師は"勝算あり"の根拠のひとつとして、大阪杯の通過タイムを挙げている。同レースでは、1600mを1分33秒5で通過。「このタイムを考えても、いい勝負になる」と話している。
過去10年の安田記念において、良馬場で行なわれた8年間の平均勝ちタイムは1分31秒8。ジャックドールが大阪杯でマークしたマイル通過タイムが、トップスピードに入る前と想定すれば、その勝ち時計のゾーンに入ってくる可能性は大いにありそうだ。
ただ、これはあくまでも机上の計算。実際のレースではさまざまな要因が絡むことを考えれば、こうした計算どおりにいかないことのほうが多いだろう。
ともあれ、藤岡調教師が挙げる根拠が「(マイルでも)いい勝負になる」と見るジャックドールの、能力的な下地を示すものであることは間違いない。それに、もともと東京コースのマイル戦は、「スピード一辺倒ではダメ」「2000mもこなすスタミナやスピードの持続力が必要」と言われてきた。
ジャックドールは、その条件もクリアしている。マイルを走るスピードも、そのスピードの持続力も、スタミナの裏づけも、存分にある。
ゆえに、今年の安田記念では、勝ち負けはともかく、ジャックドールが「台風の目になる」と見ている関係者は少なくない。
だが、こうした挑戦の歴史を改めて振り返ってみると、そこで勝ち負けを演じることは、相当高いハードルであることがわかる。
直近でも、いい例がある。GIヴィクトリアマイル(5月14日/東京・芝1600m)だ。大阪杯で2着と奮闘した牝馬二冠馬のスターズオンアースが、単勝2.5倍の1番人気に支持されながら3着に敗れた。
出遅れ癖がネックと言われていたが、この時はゲートもスムーズに出て、これといった不利もなく直線を迎えた。しかし、ふだんであれば同馬の見せ場となる勝負どころで振るわず、もどかしいくらいにジリジリとしか伸びなかったのだ。その結果、先に抜け出したソダシ(2着)を捕まえきれず、内から伸びてきたソングライン(1着)にかわされて3着に終わった。
鞍上のクリストフ・ルメール騎手はレース後、「先着した2頭はマイルのスペシャリスト。瞬発力で負けた」と敗因を語った。
マイルには、マイルのレースで求められる瞬発力がある。いかに本質的なポテンシャルで圧倒するスターズオンアースといえども、マイルのスペシャリストがフルにその瞬発力を発揮すれば、敵わないということだろう。
もうひとつ、大阪杯がGIに格上げされて以降、同レースの勝ち馬が安田記念に挑戦した例が一度だけある。2018年のスワーヴリチャードだ。
同馬も先述のスターズオンアースと同じく1番人気に推されたが、3着に敗れた。勝ったのは、当時マイル路線で頭角を現わしてきた"上がり馬"モズアスコット。2着は前年のGINHKマイルC(東京・芝1600m)の覇者であるアエロリットだった。いずれも、マイルのスペシャリストだ。
距離短縮でマイル戦に挑む実力馬にとって、ルメール騎手が言う「マイル向きの瞬発力」という名の"見えない壁"があるのかもしれない。思えば、史上最多の芝GI9勝を挙げているアーモンドアイも、安田記念には2度挑戦して、2度とも敗れている(2019年=3着、2020年=2着)。
ジャックドールはこの壁を越えられるのか。関西の競馬専門紙記者はこんな見解を示す。
「今年の安田記念は、例年以上に超A級のマイルのスペシャリストが顔をそろえます。ジャックドールにとっては、かなり厳しい戦いになるのではないでしょうか。
それでも、この馬は逃げた時は非常に強い。スプリント路線からくる馬もいるので、テンからハナを叩くのは無理だと思いますが、途中からでもあまり無理することなく、ハナに立つような形を作れれば、もしかすると勝機はあるかもしれません」
今年もマイルGI馬が何頭も集結した安田記念。超A級のスペシャリストたちを相手に、ジャックドールがどんな戦いを見せるのか、注目したい。