アルメリア戦で決勝ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ)

 リーガ・エスパニョーラ第36節、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)はホームでアルメリアを1−0と退け、来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場にまた近づいた。出場枠である4位争いを演じる5位のビジャレアルも勝利し、確定には至らなかったが、残り2試合、勝ち点差は5ポイントだ。

 勝利の殊勲者は、決勝点を挙げた久保建英だった。

 前半アディショナルタイム、久保は右サイドでボールを受ける。敵陣で相手ボールがこぼれたところ、左センターバックのジョン・パチェコからのダイレクトで鋭いパスだった。同じ左利きのパチェーコとは相性がよく、予想していたようにボールをコントロールした。1対1の対峙で優位に立ち、中に切り込むと小さなフェイントで相手を滑らせ、外した瞬間に左足を一閃。美しい軌道でファーサイドに突き刺した。

「練習でうまくいっていた形で、ちょうどいい加減で、ファーポストを狙った。いつかは決めないと、と思っていました。1本目はニアに打っていたので、次はファーって決めていて、うまくディフェンスをかわせて入った感じです」

 試合後、久保はスペイン語のインタビューにそう答えているが、想定内ということか。あっさりと快事をやってのける姿に称賛が集まる。ゲームMVP受賞も、珍しくなくなってきた。 

「久保はチャンピオンズ級の選手だ」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』はウェブサイトの記事の見出しで、そう打電している。

「久保のゴールは称賛に値する。美しく、クオリティが高く、そして(CL出場権争いでも)重要だった。その左足のシュートはチームにCLへの道を開いたと言える」

 アルメリア戦の久保は、あらためて抜け目のなさと胆力を同時に見せている。

 4−3−3の右アタッカーとして先発し、縦横無尽。幅を取りながら縦に抜いてクロスを入れ、クロスに斜めに走って味方のヘディングシュートを引き出し、GKからのボールに空中戦で競り勝って味方につなげた。25分にはカウンターからパスを受け、切り込んで、股抜きから際どい一撃も放った。36分に相手が退場すると数的優位を生かし、じっくりとズレを生み出した。自らのゴールの前も、仕掛けやCKから波状攻撃を作っていた。

【相性のいいアトレティコ・マドリード】

 久保は、以前にも増してタッチラインを使うのもうまくなった。極限まで幅を取って味方のスペースを生み出すだけでなく、ライン際でのドリブルで抜け出す姿も多くなっている。だからこそ、カットインしたあとの怖さも増幅する。前進するドリブルに迫力があり、相手にボールを触られても、不思議と失わない。リオネル・メッシがそうだったように、五分五分のボールを自分のものにできる無敵の感覚だ。

「久保番」

 各チームにとって、それは難しい役目になりつつある。かつてバルサBにいたセルヒオ・アキエメは、GKからのパス1本で抜け出す久保に手を焼き、持ち味の攻撃力を出せなかった。また、ラ・レアルのBチームにいたスルジャン・バビッチも、常に後手に回っていた。ひとりで止められる選手ではなく、10人になった時点で勝負は決していたのだ。

 久保は終盤にもゴールに迫った。マルティン・スビメンディのパスを受け、右サイドを軽々と突破。ゴールラインからマイナスに折り返し、途中出場のアンデル・バレネチェアのシュートをアシストした。ボールはポストを直撃して追加点にならなかったが、要所で押し込み、敵の反撃の望みを粉砕した。

「久保はラ・リーガのスーパースター!」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』も、久保への賛辞を惜しまなかった。

「なぜバルサもマドリードも彼と契約したのか。久保は今ラ・レアルで、その理由を証明している。彼は『来季はCLのアンセムを聞く』と公言してきたが、それを実現しつつある」

 前半のうちにダビド・シルバがケガで交代したあとも、久保は頼もしさを見せている。シルバとのコンビネーションは"最高傑作"だが、それに依存していない。シルバ抜きでも勝負を決めてきたところに、より英雄感が漂う。

 久保はどこまで辿り着くのか?

 5月28日、ラ・リーガのビッグ3の一角であるアトレティコ・マドリードとの一戦は、今後の試金石になるだろう。この試合に勝てばCL出場権が確定する。

 久保にとって、アトレティコは分が悪い相手ではない。マジョルカでの昨シーズンは2連勝に貢献し、得点も決めている。

 ディエゴ・シメオネ監督が作り上げたアトレティコの強固な守備は、一時ほどではない。とはいえ、今シーズンもラ・リーガで2番目に少ない失点で示されているように、難攻不落の面影は残る。全員が闘士となって、ギリギリの戦いを挑んでくるだろう。

 だが、恐れる必要はない。アルメリア戦に90分間、フルタイムで出場した久保はターンオーバーで、途中出場の切り札になる可能性もあるが、ピッチに立てば相手を恐れさせるだろう。ベルギー代表ヤニック・カラスコとのマッチアップになるか。

 今シーズン、久保は9得点を記録してきた。そのたびにチームが9戦全勝している点は瞠目に値する。英雄譚の最終章だ。