八村塁のNBA での4年目のシーズンが終わった。

 シーズン中にワシントン・ウィザーズからロサンゼルス・レイカーズにトレードされた八村は、プレーオフに入ってからはレブロン・ジェームズを支える貴重なサポーティングキャストとして台頭。特にメンフィス・グリズリーズと対戦した第1ラウンドの第1戦では29得点を挙げるなど、生き生きとしたプレーで評価を上げた。


レブロン(左)と手を合わせてお辞儀する八村

 以降も安定した活躍を続け、ポストシーズン中は全16試合中8戦で二桁得点をマーク。レイカーズはカンファレンス決勝で第1シードのデンバー・ナゲッツに敗れ、ファイナル進出はならなかったものの、八村は0勝3敗とリードされた第4戦でスタメン起用されるなど、チームに不可欠の存在となった印象があった。

今オフに制限つきFAの権利を得るため、去就を注目される存在にもなっている。25歳になった八村は、来季以降もレイカーズの一員としてプレーを続けるのか。それとも、レブロン率いる名門チームを離れ、新天地に足を踏み出すのか。米西海岸でレイカーズを定期的に取材する3人の記者に意見を求め、その行方を占ってみた。

【パネリスト】

●デイブ・マクメナミン(ESPN.comのレイカーズ番記者)

●マーク・J・スピアーズ(ESPN.comのナショナルライター)

●ディラン・ヘルナンデス(ロサンゼルス・タイムズのコラムニスト)

Q1、八村の今プレーオフでの活躍に驚かされたか

マクメナミン:シーズン中も能力の片鱗は見せていたが、一方でシーズンもあと2週間というときにDNP(出場なし)となるなど、波が激しかった。ところが、プレーオフでの塁はこれまで見てきたのと違う選手になったかのようだった。

 グリズリーズとのシリーズでのプレーには確かに驚かされた。ただ、グリズリーズ戦のあとも好調を続け、上質なプレーを3シリーズも続けた頃にはもう驚かなくなったよ。ディフェンスで積極的に動き、オフェンスでも自身のショットの機会を追い求めるようになった。

レブロンのように何でもできてしまう選手と一緒にプレーすると、ついそのプレーに見入ってしまうもの。ポストシーズン中の塁はそうではなかった。レブロンにとっても、自らプレーを決められる塁のような選手と一緒にプレーできたことは大きかっただろう。

スピアーズ:私は塁をゴンザガ大学時代から見てきて、いい選手だということはわかっていた。とても才能のある選手だ。時として、適切なホームを見つけることが大事な場合もある。彼は自身のホームを見つけたのだろう。

 塁はウィザーズからの移籍を望んだ。自身はウィザーズにフィットしていないと感じ、もうそこにはいたくなかったのだろう。そこでレイカーズはいいトレードをして、ポテンシャルの高い若手選手である塁を獲得した。今の彼はポテンシャルを開花させ、ロサンゼルスで立派なロールプレーヤーになった。

ヘルナンデス:八村が徐々に大胆なプレーをするようになったことには少し驚かされた。NBAのキャリアを通じて、いや、ゴンザガ大学時代まで振り返っても、彼には積極性が足りなかった。それが不思議なことに、レブロンの近くでプレーすることでよりアグレッシブになった。

 グリズリーズとのシリーズ中、八村はレブロンから「もっとシュートを打て」と言われていた。日本人は上下関係を重んじることもあり、レブロンに「打て」と言われたらそうせざるを得なかったのだろう。おかげで自信をつけていったのだと思う。

 八村が周囲にいないときでも、レブロンはアンソニー・デービスに「塁は"マイ・ガイ(お気に入り)"なんだ」と言っていた、という話も聞いている。そのポテンシャルは誰もが気づいていたが、これまではコーチたちに「もっとシュートを打て」「自信を持て」と言われても、八村はなかなか実感を持って受け取れなかったのではないか。そんな彼が開花した要因として、レブロンの存在は本当に大きかった。

Q2、レイカーズは八村を残留させると思うか

マクメナミン:再契約すると思う。彼はもともとロブ・ペリンカGMが代理人を務めていた頃から目をつけていた選手だ。今のレイカーズは若返りを図ろうとしている。そして、攻守両面でプレーでき、意欲を持ち、闘争心があり、才能がある選手を求めている。つまり、塁は様々な意味でレイカーズにフィットするということだ。

 塁は制限つきFAだから、レイカーズは他のチームが提示したオファーにマッチする権利も持っている。彼が今後、スター選手になるとは思わないが、勝利を目指すチームにはハイレベルのロールプレーヤーが必要だ。レイカーズは塁を、何年もチームにおいておきたいハイレベルのロールプレーヤーだと評価している。

スピアーズ:残留させようとするだろう。ただ、NBAはビジネスだ。どこかのチームが莫大な金額を提示し、レイカーズが支払いたい額や契約年数を超えていた場合、そこで決断しなければいけない。ひとつ言えることは、あのままウィザーズにいるよりも、今ではより多くのチームが塁の獲得に興味を持つだろうということ。そういった意味でもいい移籍だった。

ヘルナンデス:絶対に残留させると思う。GMの役目も半分は果たしているといっても大げさではないレブロンが、八村のことを気に入っていて、給料的にもそれほど高価というわけではない。

八村にしろ、同じくFAになるオースティン・リーブスにしろ、レイカーズの選手たちはレブロンが自身の力を引き出してくれていることに気づいていると思う。今後、レブロンが引退するまではレイカーズで一緒にプレーするのも悪くない。八村はそこで自身の価値を上げ、その後にもっと大きな契約を取りにいくというシナリオがいいのではないか。

Q3、八村の新契約はどんな内容になると思うか

マクメナミン:答えを避けようとしているのではなく、本当にわからない。現状では、今オフのマーケットがどのようになるかがわからない。レイカーズは塁と再契約するという点に関しては自信があるが、年数、金額はわかりかねる。

 塁はプレーオフでスタメン復帰を果たしたくらいだから、チームは先発レベルの選手だと見ているということ。今のNBAではスターターの年俸は平均1000〜12000万ドル(約14億〜16億8000万円)くらいだから、そのあたりが基準になるのだろう。

スピアーズ:それを予想するのは難しい。FA選手に関しては、ひとりでも気に入ってくれる人物(オーナー、エグゼクティブ)がいたら、その選手はとてつもない大金を手にすることになる。今オフは層の厚いマーケットではないので、塁にも巨額を提示する人物が現れるかもしれない。少なくとも年俸にして1000万ドル以上の値段はつくだろう。

 ただ、レイカーズよりも彼を気に入るチームが出てきたら、争奪戦になるかもしれない。残留するなら、キャリアの現時点ではまず短い年数の契約を結び、そこで活躍し、数年後に再びFAになった上でより大きな契約を目指すという方法もいいのかもしれない。

ヘルナンデス:契約年数は2、3年で、4年はないだろう。個人的にはあと2年、レブロンと一緒にプレーし、その後に個人的な勝負に出るのが八村のためになると考えている。年俸は1000〜1200万ドルくらいじゃないかな。