ホームランに比べて華はないけど、チームへの貢献度は抜群 田中幸雄が語る「二塁打の価値」
巨人の坂本勇人が5月11日のDeNA戦で通算423二塁打をマークし、王貞治氏を抜き球団記録を更新。同時に歴代単独6位に躍り出た。ちなみに、二塁打の歴代10傑は以下のとおり。
1位 立浪和義/487本
2位 福本豊/449本
3位 山内一弘/448本
4位 金本知憲/440本
5位 稲葉篤紀/429本
6位 坂本勇人/426本
7位 王貞治/422本
8位 張本勲/420本
9位 長嶋茂雄/418本
10位 松井稼頭央/411本
2023年5月25日現在
野球における"二塁打"とはどんな価値があるのか。坂本と同じ右打者の遊撃手として、歴代17位の通算394二塁打を放った田中幸雄氏に聞いた。
5月11日のDeNA戦で、王貞治氏を抜き球団新記録の423二塁打を放った坂本勇人
── 田中さんは通算2012安打のうち394本が二塁打です。
田中 狙って打っていたわけでなく、私は「強いスイングで、強い打球を打つこと」を心がけていました。それが一塁線、三塁線、左中間、右中間、またはフェンス直撃の打球になったというわけです。どちらかと言えば、ボールを引きつけて逆方向(ライト方向)に打つ意識が強かったので、インパクトの瞬間までボールを見極めていました。
── 通算二塁打が歴代3位の山内一弘さんは、坂本勇人選手同様に「内角打ち」がうまく、レフト方向への二塁打が多くありました。
田中 基本、内角の球を打つ時はポイントを前に置いてミートします。内角の球に差し込まれたら、その瞬間に左ヒジを抜いてスイングするという技術を使わなくてはなりません。以前、ベテランの野球記者の方に山内さんの話を聞いたことがあります。山内さんは「内角球に差し込まれても、そのままバットを振り抜け。そうすれば打球は伸びるし、フェンスを越えればホームラン、越えなくてもフェンス直撃の二塁打になる」と言っていたそうです。本塁打の打ち損ないが二塁打になるタイプの選手だったのでしょうね。坂本選手もヒジを抜いて打つ技術は相当高いですよね。
── 田中さんは、インコースの球は得意でしたか。
田中 私もインコースの球は好きでした。ただボール球にも手を出してしまって、凡打になることがよくありました。落合博満さんから「ユキオは内角球のストライク、ボールを見極められたら、(打率)3割は打てるよ」と言われたことがあったのですが......なかなか難しかったですね。
【二塁打のチーム貢献度】── 通算二塁打数の上位30位までの選手は、2000本安打達成者です。
田中 安打数が多いということは、当然、二塁打の数も多くなります。ただ二塁打は、ホームラン打者、足の速い選手など、さまざまなタイプの選手が打っているのが特徴です。チャンスメイクする打者、ポイントゲッターとなる打者の両方に多いのが二塁打なのだと思います。
── 田中さんは坂本選手と同じ右打者の遊撃手という共通点があります。
田中 ともに中距離ヒッターで、いろいろな打順を経験したという点では同じかもしれません。右打者は左打者よりもスタートで2、3歩ほど多く要しますので、どうしてもベース到達が遅くなる。とくに私は足が速いほうではなかったので、三塁打性のあたりが二塁打になったこともよくありました。また、当時は本拠地が東京ドームだったことも、二塁打が多かったひとつの要因かもしれないですね。
── さらに盗塁数もあまり多くないという部分でも似ています。
田中 盗塁についてはチーム事情もありますし、打順によっても大きく変わってきますので一概には言えませんが、積極的に走るタイプでないのはたしかです。昨年、規定打席に到達したなかで、二塁打を30本以上放ちながら盗塁1ケタの選手は5人いました。私も現役時代、それを3度記録したことがありますが、盗塁に積極的ではなかった分、二塁打が多いというのは、自分としてはよかったと思っています。
── 坂本選手には「打率3割で二塁打10本の打者」と「打率2割8分で二塁打30本の打者」は同等の価値がある、という持論があるという話を聞いたことがあります。
田中 二塁打はバントで送ってアウト1つを献上しなくても、得点圏に進めるわけですから、チームへの貢献度は高いと思います。たとえば先頭打者が二塁打で出塁すると、いろんな作戦が考えられるし、得点の可能性も高くなる。ホームランに比べて華やかさはないですが、二塁打は価値のあるものだと思います。坂本選手には、立浪和義さんの記録を抜くつもりで頑張ってほしいですね。