三笘薫対マンチェスター・シティの右SBカイル・ウォーカー 引いた目で見た勝者はどちらか?
ヨーロッパリーグ(EL)出場を事実上決めているブライトンが、チャンピオンズリーグ(CL)決勝進出とプレミアリーグ優勝を決めているマンチェスター・シティをホームに迎えた、リーグ戦最終節前の一戦。お互いとって、絶対に勝たなければならない試合でも、絶対に負けられない戦いでもない。そんなノンタイトル戦的な試合にしては面白すぎた。
攻撃的サッカーを志向する今日的な両チームが肩の力を抜いて撃ち合った、お気楽さが吉と出た好ゲーム。現在のプレミアの魅力、もっと言えばサッカーの魅力を再認識させる上等な一戦となった。
マンチェスター・シティはレアル・マドリードと戦ったCL準決勝第2戦から先発メンバーを4人入れ替えてきた。ブライトンよりベストメンバー度では弱冠劣った。だが、それでもアーリング・ハーランドはいた。ベルナルド・シウバもケヴィン・デ・ブライネもイルカイ・ギュンドアンもいた。カイル・ウォーカーも三笘薫の目の前でしっかりと構えていた。
CL決勝を半月後に控えていているマンチェスター・シティは、いま世界で最も注目を浴びているチームだ。そのチーム相手に活躍すれば、市場価値は上昇する。もちろんマンチェスター・シティの目にも留まる。レベルの高い好勝負になった理由は、ブライトンの選手たちのモチベーションの高さに起因する。その結果、10の力が12出たという感じだ。
プレミア王者マンチェスター・シティ戦にフル出場した三笘薫(ブライトン)
それを象徴するプレーが、前半37分、フリオ・エンシソが決めた同点弾になる。ゴールの枠を巻くように飛び込んでいったおよそ25メートルのミドルシュートである。パラグアイ代表の19歳は名前を売ることに成功した。
その1分前には、アルゼンチン代表の18歳、ファクンド・ブオナノッテも、あわやというシュートを放っている。アイルランド代表の18歳、エバン・ファーガソンも後半途中出場するや、強烈なシュートをマンチェスター・シティのゴールに見舞っていた。
この日出場したブライトンの選手の平均年齢は24歳台。10代の選手が相次いでアピールするなか、26歳の三笘も、負けるわけにはいかないとばかり見せ場を作った。最も惜しかったのは前半31分、パスカル・グロスが蹴ったCKがダニー・ウェルベック経由でファーサイドに流れてきたシーンだった。
【ヒーローにはなり損ねたが...】
予測鋭く飛び込んだ三笘は瞬間、胸で押し込もうとした。相手GKシュテファン・オルテガに跳ね返されたボールが、押し込もうとした勢いで転倒していた三笘の前に、再度こぼれてきた。倒れ込んだまま再び胸で押し込む三笘。いったんはゴールの判定が下されたのも束の間、VARが介入。あっさり取り消しになった
。
前半44分にも、三笘がウェルベックに出したラストパスがオフサイドを取られた。ウェルベックはシュートを決めていたので、三笘はアシストを取り消されたことになる。
後半12分にはグロスのクロスボールをボレーで合わせ損ね、後半20分にはペルビス・エストゥピニャンのセンタリングに合わせゴールを狙ったが、GKオルテガにセーブされた。
最も決めたかったのは1−1で迎えた後半36分、グロスが蹴ったクロスボールだ。叩きつければ得点の可能性大だったが,ヘディングはバーをわずかに越えた。結果は1−1の引き分け。三笘はヒーローになり損ねた。
対峙する相手の右SBウォーカーと1対1に及ぶシーンは幾度かあったが、勝負する機会はゼロに近かった。その雰囲気というか、間合いを、ウォーカーに消されたという印象である。相手のほうが一枚、上手だった。ひと言で言えばそうなるが、マンチェスター・シティの右サイド対ブライトンの左サイドという、もう少し引いた目で見れば、軍配は後者に上がる。
なにより、マンチェスター・シティの右ウイングとして先発したリヤド・マフレズにいい形でボールが渡るケースが少なかった。右SBウォーカーの下支えが十分と言えなかったからだ。専守防衛、後方待機になりがちだったのだ。三笘を警戒するあまり、と考えるのが自然である。
想起するのは先日のマンチェスター・ユナイテッド戦だ。三笘が右SBアーロン・ワンビサカに完封された試合として記憶する人は多いかもしれないが、守るばかりが仕事ではないという今日のSBに課せられた仕事内容を勘案すると、三笘はワンビサカの攻撃を抑え込んでいたことになる。ワンビサカは専守防衛、後方待機を余儀なくされたことも事実だったのだ。
引いた目で見れば、三笘はワンビサカに勝っていた。チームの役に立っていた。その理屈はこのマンチェスター・シティ戦にも当てはまる。ウォーカーを縦に抜き去るシーンはなかったが、ウォーカーのもうひとつの魅力を削ぐことには成功した。
トータルの活躍度で勝ったのは三笘かウォーカーか。効いていたのはどちらか。ロベルト・デツェルビ監督はこの日も三笘をフル出場させた。先発したアタッカー4人のなかでただひとり、だ。三笘がまさに効いている、外せない選手であるからだ。エストゥピニャンと三笘がコンビを組むブライトンの左サイドは、ある意味でチームの生命線になっている。攻められる可能性が低い場所とデツェルビ監督は認識しているに違いない。三笘の縦を狙う姿勢は守備面でも効果を発揮しているのだ。
この試合、ボール支配率こそ39.5%(ブライトン)対60.5%(マンチェスター・シティ)と開いたが、試合内容は48対52程度の関係で、1-1は至極、順当なスコアに見えた。その陰に相手の右サイドの攻撃を半減させた三笘の存在あり、と言っても言いすぎではないだろう。