エルサルバドル戦(6月15日)、ペルー戦(6月20日)を戦う日本代表メンバーが以下のとおり発表された。

GK
シュミット・ダニエル(シントトロイデン)、中村航輔(ポルティモネンセ)、大迫敬介(サンフレッチェ広島)

DF
谷口彰悟(アルラヤン)、板倉滉(ボルシアMG)、森下龍矢(名古屋グランパス)、伊藤洋輝(シュツットガルト)、瀬古歩夢(グラスホッパー)、菅原由勢(AZ)

MF/FW
遠藤航(シュツットガルト)、伊東純也(ランス)、浅野拓磨(ボーフム)、古橋亨梧(セルティック)、守田英正(スポルティング)、川辺駿(グラスホッパー)、鎌田大地(フランクフルト)、相馬勇紀(カザピア)、三笘薫(ブライトン)、前田大然(セルティック)、旗手怜央(セルティック)、堂安律(フライブルク)、上田綺世(セルクル・ブルージュ)、川村拓夢(サンフレッチェ広島)、中村敬斗(LASK)、久保建英(レアル・ソシエダ)、川粼川崎颯太(京都サンガ)

 3月のウルグアイ戦、コロンビア戦のメンバーから外れた選手は谷晃生、半田睦(いずれもガンバ大阪)、角田涼太朗、西村拓真(いずれも横浜F・マリノス ※角田はケガのため辞退)、町田浩樹(ユニオン・サン・ジロワーズ)、冨安健洋(アーセナル ※ケガのため辞退)、橋岡大樹(シントトロイデン)、藤井陽也(名古屋グランパス)、バングーナガンデ佳史扶(FC東京)、田中碧(デュッセルドルフ)、町野修斗(湘南ベルマーレ)の11人。

 代わって招集された選手は中村、谷口、森下、古橋、川辺、相馬、旗手、川村、川粼の9人。森下、川村、川粼の3人は初招集になった。

 多くの選手を入れ替えた点は評価したい。だが中心になるとおぼしき選手に大きな変更はない。それこそが中心選手たる所以だと言えばそれまでである。しかし、そうした概念を大変革すべき時期を迎えていることも確かなのだ。

 ご承知のようにW杯を取り巻く環境は今回、大きく変化した。2026年W杯の本大会出場枠は32から48に拡大。アジア枠に至っては4.5から8.5にほぼ倍増した。2枠だった1994年W杯では落選したが、3.5枠になった1998年W杯以降、日本はプレーオフに回ることなく、ほぼ余力を残しながら本大会出場を果たしている。

【W杯予選は事実上、無風区になった】

 突破の確率およそ9割。少なく見積もっても8割。予選落ちはまさかの大事件に相当するというなかで戦ってきた日本だが、8.5枠になれば状況は一変する。ハードルは思いきり下がる。実力と枠の関係を考えたとき、日本は世界で最も楽な、事実上の無風区に身を置いている。

 W杯本大会に向けた強化策も、それに呼応した中身に改革されなければならない。大きな発想の転換が不可欠である。その自覚や認識を3月のメンバー発表に続き、今回も見て取ることができなかった。3月は森保一監督にとって続投初戦だった。新たな門出を祝う一戦と位置づければ、それに相応しいメンバーで臨むことにギリギリ納得することができたが、今回はそうはいかない。


代表メンバーについて記者会見で答える森保一監督(右)と山本昌邦ナショナルチームダイレクター

 三笘、鎌田、久保、守田、遠藤、板倉、堂安ら、実力、実績ともに十分な選手を、前回に続き今回もすべて選ぶ必要はない。筆者はそれこそが新たな局面を迎えた代表強化策のあるべき姿だと固く信じている。W杯本大会まで丸3年以上あるいまから中心選手を決め、チームを作る必要などないのだ。

 この代表選手発表の記者会見では、現在アルゼンチンで行なわれているU−20W杯を引き合いに出した質問が出た。

「本日、日本が戦ったコロンビアにはA代表選手がいる。世界的にも各国で10代の代表選手が目につく。だが日本のU−20には代表に呼ばれた選手は誰もいない。問題ではないのか」

 森保一監督はこう答えた。

「日本が世界で戦っていくために変えていかなければならない点、変わっていかなければならない点だ」

 かたわらに座る、代表監督を評価する立場の山本昌邦ナショナルチームダイレクターもそれに応えるように、こう続けた。

「そういった意味では今回、よく川粼(21歳)を選んだなと。よく見ている」

 10代の選手は、この会見が行なわれた8時間ほど前に終了したブライトン対マンチェスター・シティ戦のピッチにも4人、立っていた。そのなかのひとりであるファクンド・ブオナノッテ(ブライトンの右ウイング、18歳)は、すでにアルゼンチン代表歴がある選手だが、自国で開催されているU−20W杯には出場していない。世界にはそうした選手がゴロゴロいる。

【知名度の高い選手を外せない理由】

 将来を嘱望される18歳の代表選手にとって、U−20W杯に出場することと、マンチェスター・シティと戦うこととどちらが有益か。将来のためになるか。答えは見えている。

 18歳でアルゼンチン代表に選ばれる理由は、もちろん能力が高いからだろうが、代表チームにそうした若手選手が入り込む余地があるからでもある。ベストメンバーでは常に戦わない文化である。チームの核となる実力者でもあえて招集しない。手を抜くわけではないが、あえて休ませるという考え方が普通に浸透している。

 日本にその文化はない。日本代表戦といえば、国立競技場を満杯に埋めたなかで行なわれるものと決まっている。強化と言いながら、実際は半分、興行だ。そこにはテレビの視聴率やスポンサーのしがらみも関わっているものと推察される。三笘、久保、鎌田ら知名度の高い中心選手は、そうした意味で外せない選手になっている。エルサルバドル、ペルーを相手にした場合でも、だ。

 この日本代表を取り巻く産業構造下に、10代の若手をせっせとテストする余地は存在しない。監督、協会首脳陣の保身もあるだろう。代表は常に勝たなければいけない集団だと称し、勝ちやすいメンバーで臨もうとする。

 10代の選手が代表チームにいないのは、まさに代表監督の責任であり、サッカー協会の責任だ。「変えていかなければならない点、変わっていかなければならない点」と言う森保監督の言葉は、どこか他人事に聞こえる。21歳の川粼を加えただけで、さすがと持ち上げるナショナルチームダイレクターも同様に見える。

 その次に投げかけられたのは以下の質問だった。

「落選した町野、伊藤涼太郎(アルビレックス新潟)、大迫勇也(ヴィッセル神戸)は当落線上だったのか」

 森保監督はこう答えた。

「ここにいるメディアの皆さんもそうですし、この映像をいま見聞きしているファンの方もそうですが、それぞれ推している選手がいて、フラットに見ていると言っても、人それぞれ違うと思います......(中略)......誰かを推すという話をするときには、皆さん、誰を外すかという話も同時に準備して質問していただけたらと思います」

 ならばこう答える。欧州でバリバリに活躍している中心選手を外せと。当選確率90数%の事実上の無風区を戦う、世界で最も楽な立場にいる代表監督であるにもかかわらず、10代選手を26人のなかにひとりも加えることができない。代表監督失格だというのが率直な感想だ。

 全く違った概念で戦わないと、日本は世界から遅れていく。U−20W杯にも参加しないブライトンのブオナノッテが、筆者には眩しく見えて仕方がないのである。