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セルティックがリーグ優勝を決めたハーツ戦を旗手怜央が自己分析。出来が悪かった前半を受けてのハーフタイムに、旗手はポステコグルー監督からある言葉をかけられ、自分自身の身体と心にスイッチが入ったという。

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セルティックでリーグ連覇を決め、喜ぶ旗手怜央

【ハーツ戦 前半は難しい戦いを強いられた】

 セルティックに加入して2シーズン目に突入し、相手チームのスタイルや特徴も、だいぶ頭に入っている。

 第34節でリーグ優勝を決めたハーツのタインカッスル・パークは、ほかのスタジアムよりもピッチが狭く、圧迫感を感じる。相手がプレスを掛けてくると、文字どおりプレッシャーを強く感じるし、スピードも速く感じられる。距離で言えば、それはほんの数メートルかもしれない。でも、そうした細かい違いが、プレーや感覚に大きく影響を及ぼすのがサッカーでもある。

 試合に勝てば、僕らの優勝が決まるとあって、相手はなおさら目の前で優勝させたくないという気概で向かってきたし、より守備も強固だった。自分たちのペースで試合を進める状況を作り出そうとしても、ハーツのプレッシャーが速く、チーム全体が縦へ縦へと急ぎすぎてしまっていた。そのため、前半はチームとしても難しい戦いを強いられている感覚があった。もちろん、僕自身のプレーの出来も......。

 0−0で終えたハーフタイムだった。

 セルティックでは、ドレッシングルームに戻ると、選手はクールダウンしながら、まずはチームメイト同士で後半に向けたプレーについて各々に話し合う。指揮官であるアンジェさん(アンジェ・ポステコグルー監督)はその間、試合を分析するアナリストも含め、コーチ陣と改善点について話し合っているため、その場にはいない。

 監督はコーチとの話し合いが終わると、ドレッシングルームに現れ、映像を使いながら、前半のよかったところを挙げ、次に後半に向けて修正すべきポイントを僕ら選手に伝えてくれる。指示を終えたあとは、監督の言葉を受けて、再び選手同士でディスカッションして、後半のピッチに向かっている。

【「全然ハードワークしていないじゃないか」】

 アンジェさんはハーツ戦のハーフタイム、ドレッシングルームに姿を現すと、映像を使いながら、僕に向かって言った。

「レオは攻守ともに求めている役割ができていない。全然、ハードワークしていないじゃないか」

 その言葉を聞いて、自分自身の身体と心にスイッチが入るのがわかった。

「そこまで言われたら絶対に後半は見返してやる」

 闘志に火がついたとでも言えばいいだろうか。それでも頭は冷静だった。

 限られた時間のなかで、前半の自分の動きを整理した。加えて相手は前半終了間際に退場者を出し、人数が1人少なくなっているため、後半はより自分が攻撃に顔を出すことができるようになるはずだと思った。

 また、「ハードワークをしていない」と言われたからといって「闇雲に走る」、もしくは「ただ運動量を増やす」というのではなく、ハードワークすることで、どういうプレーにつなげなければいけないかを模索した。

 自分のプレーの傾向として、特徴が発揮できていないと感じている試合では、ボールに寄っていってしまう癖があるのを思い出した。ならばその逆で、スペースに走り込むことでチームに貢献しようと考えた。

 あの試合であれば、ニアゾーン。攻撃的な位置に顔を出せる回数が増えるため、2列目からDFの背後に走ろうと――。67分、(古橋)亨梧くんが決めたゴールへのアシストは、まさにその動きと発想から生まれた。

 右サイドのハーフライン付近でキャプテンのカラム・マクレガーがパスを受けて前を向いた。トラップが右足で、彼の利き足である左足で蹴れる状況にあると判断した時、僕は手を挙げながら右サイドのDFの裏へと斜めに走った。

 その動きを見てくれていたキャプテンは、縦に浮き球のパスを出してくれた。走り込む際、まず一度、ゴール前の状況を見た。その時、亨梧くんがニアに入ってきそうな気配があった。きっと、そのさらに奥には(前田)大然も詰めてきているだろう。

 そう思うと、大事なのは、どのようなボールを折り返すか、だった。速いボールなのか、それとも(味方に)合わせるボールなのか。もう一度、ゴール前を見ると、亨梧くんがニアに走り込んできているのを把握した。ならば、これは後者である点と点で合わせよう。キャプテンからのパスはバウンドしていて処理は難しかったが、ダイレクトで折り返すと、亨梧くんが左足で合わせて決めてくれた。

【三冠を達成してシーズンを締めくくりたい】

 ケガから復帰したばかりとあって、目に見える活躍は、気持ち的にも、精神的にもラクになる。もともとはFWの選手だっただけに、ゴールやアシストという結果はなおさらだった。

 チームは80分にも追加点を挙げ、2−0で勝利してリーグ連覇を達成した。ハーフタイムにアンジェさんから発破をかけられたのが発奮材料にもなり、僕はその試合でアシストを記録することができた。優勝を決める試合でチームの勝利に貢献でき、ケガから復帰直後だったことも重なって、喜びと安堵に包まれた。

 続く第35節ではレンジャーズに0−3で敗れてしまったけど、今季はそれまでライバルであるレンジャーズに、リーグ戦で一度も負けなかったのが連覇できた要因のひとつだと感じている。

 また、リーグ戦は1年間を通して争うだけに、リーグ優勝は選手にとって1年間やってきたこと、取り組んできたことの証になる。自分自身にとっても、今季は年間通してチームの勝利に貢献できて、大きな自信になった。それはシーズンの半分しかチームに貢献していない昨季とは大きく違う手応えであり、財産だ。

 ハーツ戦で優勝を決めたあと、セルティック・パークで行なわれた祝勝会に、自分の姿がなかったことから、ニュースなどでも話題になっていたのは、僕自身も目にした。だけど、ハーツ戦で優勝が決まるという状況がわかるだいぶ前から予定があり、クラブや監督にも前々から事前に許可をもらっていた。

 本来ならば、僕自身もセルティック・パークで、ファン・サポーターと喜びを分かち合いたかった。確かに、その場にはいられなかったけど、その時間、僕の心はセルティック・パークにあり、みんなとリーグ優勝に歓喜している気分だった。

 まだリーグ戦も残っているけど、セルティックが今季目指せるタイトルはもうひとつ。6月3日にインヴァネスと対戦するスコティッシュカップの決勝が残されている。スコティッシュリーグカップ、スコティッシュプレミアシップに続き、しっかりとタイトルを勝ち獲り、三冠を達成して今シーズンを締めくくりたい。

旗手怜央 
はたて・れお/1997年11月21日生まれ。三重県鈴鹿市出身。静岡学園高校、順天堂大学を経て、2020年に川崎フロンターレ入り。FWから中盤、サイドバックも務めるなど幅広い活躍でチームのリーグ2連覇に貢献。2021年シーズンはJリーグベストイレブンに選ばれた。またU−24日本代表として東京オリンピックにも出場。2021年12月31日にセルティックFC移籍を発表。2022年1月より、活躍の場をスコットランドに移して奮闘中。同年3月のカタールW杯アジア最終予選ベトナム戦で、A代表デビューも果たした。