3歳牝馬クラシック第2弾のGIオークスは、リバティアイランドが期待どおりの強い競馬を見せて完勝。見事に春の二冠を達成した。

 そして今週は、牡馬クラシック第2弾のGI日本ダービー(5月28日/東京・芝2400m)。牝馬のリバティアイランドに続いて、牡馬も皐月賞馬のソールオリエンス(牡3歳)が二冠を果たすのか、注目されている。

 GI皐月賞(4月16日/中山・芝2000m)では、圧巻の競馬で戴冠を遂げたソールオリエンス。4角最後方からライバルたちをなで斬りにした末脚は破壊力十分。あの脚なら「ダービーも......」という期待を多くのファンが抱いた。

 実際はどうか。関西の競馬専門紙記者はこんな見解を示す。

「リバティアイランドほど堅くはないと思いますが、もちろんソールオリエンスもダービーを勝って二冠を達成する可能性はあると思います。確率的には五分五分、あるいは六分四分といったところでしょうか」

 いかにも微妙な確率である。皐月賞を圧倒的な競馬で勝った馬の評価としては、「五分五分か、六分四分」というのは、思ったほど高くない数字だ。

 その理由について、専門紙記者が続ける。

「皐月賞も、その前のGIII京成杯(1月15日/中山・芝2000m)も、この馬は4角で外に逃げるという悪い癖を見せています。それゆえ、本命馬として太鼓判を押すには、やや危なっかしいところがあるんです。

 皐月賞は確かに豪快な勝ち方でしたが、当日の重い馬場、さらには逃げ・先行馬が残れない、差し・追い込み有利なトラックバイアスに助けられた、という側面もかなりあったと思います」

 実際、皐月賞で上位にきた馬は、2着のタスティエーラ(牡3歳)以外、道中で中団からうしろにいた馬ばかり。逃げたグラニットをはじめ、前に行った馬はそろってふた桁着順に沈んでいる。

 また、ソールオリエンスは皐月賞でメンバー最速かつ唯一の上がり35秒台をマークしたが、良馬場の皐月賞であれば例年、先行、あるいは好位で運んだ馬でも34秒台の上がりを計測して上位入線を果たしている。

 そうなると、もし良馬場で行なわれていたら、4角で外に膨れたソールオリエンスはそのロスの分、そういった馬を捕まえられなかった可能性がある。そういう意味では、やはり幾分かはキレ味の鈍る馬場に助けられた、と見ることができる。

 無論、左回りの東京コースに替わるダービーでは、悪い癖を出さずに済むかもしれない。当日、パンパン良馬場になったとしても、一段とすごい豪脚を見せるかもしない。

 だとしても、先の専門紙記者が言うとおり、この馬はいまだ未完成。「危なっかしい」一面を残しているのは確か。裏を返せば、他馬にもつけ入る隙が存分にある、ということだ。

 では、二冠を狙うソールオリエンスの前に立ちはだかる存在となるのは、どの馬なのか。

 その候補として真っ先に名前が上がるのは、先にも触れたタスティエーラではないか。先行馬総崩れの皐月賞にあって、4角4番手で2着と健闘した地力は軽視できない。

 ある意味、皐月賞で最も強い競馬をしたのは、この馬と言える。勝ちにいっての2着は"負けて強し"の内容だった。

 しかしながら、この馬にも「不安がある」と専門紙記者は言う。

「東京が舞台のGIII共同通信杯(2月12日/東京・芝1800m)は4着でした。"東京が向いてない"とは言いませんが、皐月賞の好走は"中山向きだった"という可能性もあります」

 次に候補として挙げられるのは、皐月賞で1番人気に推されたファントムシーフ(牡3歳)。同レースでは、レース中に落鉄というアクシンデントがあり、勝負どころで何度か不利があったことを考えれば、3着に入ったことは相当な価値がある。

 東京コースも、共同通信杯を制覇。ダービーでは、よりパフォーマンスを上げてくるとも考えられる。が、今回は鞍上がここ2戦で主戦を務めたクリストフ・ルメール騎手から武豊騎手に替わる。名手から名手へのバトタッチとはいえ、決してプラス要素とは言えない。

 その辺りの事情について、専門紙記者が明かす。

「ルメール騎手は、ファントムシーフとは別の馬に大きな魅力を感じたようです。皐月賞の前から『ダービーではその馬に乗る』と公言していました」

「その馬」というのは、ダービートライアルのGII青葉賞(4月29日/東京・芝2400m)を快勝したスキルヴィング(牡3歳)。昨年のダービー2着で、今や世界レベルの一流馬となったイクイノックスと同じキタサンブラック産駒で、同じく木村哲也厩舎の管理馬である。

 木村厩舎−ルメール騎手という強力ラインのうえ、ルメール騎手が皐月賞3着馬以上に評価しているというのだから、なんとも不気味である。

 競馬サークル内では「ダービーを勝てない青葉賞馬というのが引っかかるし、レースぶりにもダービーを勝つというほどのインパクトがない」といった声もあるが、ソールオリエンスにとって、最大のライバルとなるのはこの馬かもしれない。

 その他、逆転候補として浮上するのは、皐月賞で重馬場と差し・追い込み有利なトラックバイアスによって、本領を発揮できなかった馬たちか。

 なかでも、皐月賞の敗戦だけで見限れないのは、ベラジオオペラ(牡3歳)。無傷の3連勝でGIIスプリングS(3月19日/中山・芝1800m)を制して、皐月賞では3番人気に推された。

 結局、同レースでは逃げ馬の直後に控えて、直線で失速。まったく本来の力を発揮できずに10着と惨敗を喫したが、舞台が替われば、巻き返すだけの力は秘めている。

 現に東京では、1勝クラスのセントポーリア賞(1月29日/東京・芝1800m)を完勝。得意コースで能力全開となれば、ファンをアッと驚かせるような激走を見せてもおかしくない。


日本ダービーでの「打倒ソールオリエンス」が期待されるシャザーン

 もう1頭、とっておきのダークホースがいる。皐月賞6着のシャザーン(牡3歳)だ。

 皐月賞ではコース取りがハマらないこともあって、本来の能力を発揮できずに6着に終わったが、勝ち馬とはコンマ7秒差。それほど大きく負けてはいない。しかも、同馬についてはちょっとした裏情報がある。

 同馬を管理する友道康夫厩舎には、GII京都新聞杯(5月6日/京都・芝2200m)を勝ってダービーに挑むサトノグランツ(牡3歳)という有力馬がいる。鞍上もリーディングトップを走る川田将雅騎手が務めるが、厩舎内での評価は「シャザーンのほうが上」だという。先の専門紙記者も耳元でこう囁いた。

「(シャザーンにとってダービーは)距離も、コースもいい。状態も上昇一途。"打倒ソールオリエンス"として面白い存在を挙げるなら、この馬です」

 いよいよ目前に迫った競馬界最高峰の舞台。ソールオリエンスが勝って、無傷の4連勝で二冠を達成するのか。はたまた、ここで名前を挙げた面々がそれを阻止するのか。

 どちらにせよ、専門紙記者が言うように"五分五分の争い"になることは間違いない。ダービーには「運のいい馬が勝つ」という格言があるが、今年はその言葉が改めてクローズアップされるような結果になるかもしれない。