現在、千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)は先発8登板で43.0イニングを投げ、奪三振率11.51と与四球率5.44、防御率3.77を記録している(スタッツはいずれも5月18日時点)。

 規定投球回には少し足りないものの、千賀の防御率は3先発以上を登板したメッツの7投手のなかで最も低い。ちなみにマックス・シャーザーは6先発で防御率4.88、ジャスティン・バーランダーは3先発で防御率4.76だ。両投手はサイ・ヤング賞を3度ずつ受賞している。


千賀滉大がナ・リーグ新人王に輝けば日本人ふたり目

 また、ナ・リーグで40イニング以上を投げている47投手中、千賀の与四球率は44位(ワースト4位)だが、奪三振率は4位に位置する。防御率は22位だ。

 8登板目の5月17日(現地時間)は、勝率もチームOPSも両リーグ・トップのタンパベイ・レイズを相手に6イニングを投げて12三振を奪い、被安打と与四球は3ずつ、失点は1にとどめた。メジャーリーグでは初となるふたケタ奪三振を記録し、いよいよ本領発揮を予感させる。

 千賀のフォークは、スタットキャストによると被打率.114と空振り率58.8%を記録している。被安打は5本。長打は打たれていない。ハードヒット率は0%だ。これは、初速95マイル(約152.9km)以上の打球が皆無ということを示す。

 55奪三振のうち、30奪三振(54.5%)の3ストライク目はフォークだ。2ストライク後の球種は、フォークが48.4%を占める。

 だが、5月17日はフォークで3三振、それ以外の球種で9三振を奪った。2ストライク後のフォークは35.3%。追い込んでからほかの球種を増やすことで、効果的な投球をしていたように思える。その前は7登板とも、2ストライク後の44%以上がフォークだった。

 吉田正尚(ボストン・レッドソックス)と藤浪晋太郎(オークランド・アスレチックス)がそうであるように、千賀もルーキーだ。シーズンが始まる前のメジャーリーグ通算が「130打数」「投球50イニング」「アクティブ・ロースター45日」のいずれも超えていない選手は、ほかのプロリーグの経験があってもMLB新人王の資格を持つ。

【野茂英雄と千賀滉大の共通点】

 これまでにMLB新人王を手にした日本人選手は、4人を数える。1995年の野茂英雄(当時ロサンゼルス・ドジャース)、2000年の佐々木主浩(当時シアトル・マリナーズ)、2001年のイチロー(当時マリナーズ)、2018年の大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)だ。千賀が新人王を受賞すれば、ナ・リーグでは野茂に続くふたり目の日本人選手となる。吉田と藤浪は、ア・リーグのチームに在籍している。

 野茂と千賀は、ともにパ・リーグで投げ、フォークを決め球に多くの三振を奪った右投手という点が共通する。メジャーデビュー前の5シーズンの奪三振率は、1990〜94年の野茂が10.32、2018〜22年の千賀は10.54だ。

 今のところ、ナ・リーグの新人王レースにおいて、千賀に並ぶ投手は見当たらない。25イニング以上を投げている4人のうち、千賀以外の3人は防御率5点台だ。

 ただ、野手には、強力なライバルがふたりいる。どちらもメジャーリーグ2年目の外野手、26歳のジェームズ・アウトマン(ドジャース)と22歳のコービン・キャロル(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)がそうだ。

 30歳の千賀を含めた3人がナ・リーグ新人王レースの先頭集団を形成、という見方もできる。だが、千賀は彼らに次ぐ3番手、と見るべきかもしれない。

 昨年の夏、アウトマンはメジャーリーグ初打席でホームランを打ちながら、4試合に出場しただけでAAAへ戻った。今シーズンは主にセンターを守りながら45試合に出場し、打率.264と出塁率.351、9本塁打と5盗塁、OPS.892を記録している。4月を終えた時点のOPSは.990を超えていて、月間最優秀新人に選ばれた。

 キャロルは昨シーズン、メジャーリーグで32試合に出場。今年3月に8年1億1100万ドル(約151億円)の延長契約を手にした。今シーズンは外野両翼にセンターも守り、41試合で打率.279と出塁率.363、6本塁打と10盗塁、OPS.856を記録している。

 シアトル出身のキャロルは、MLB.comのスティーブ・ギルバートとESPNのジェフ・パッサンによると、イチローに憧れて育ち、今も2019年の春にイチローと会った時の2ショットを電話の待ち受け画面にしているという。2019年6月のドラフトでダイヤモンドバックスから全体16位指名を受けた。この年、マリナーズが持っていた最初の指名権は全体20位だった。

 一方、アウトマンのドラフト順位は2018年の7巡目・全体224位と高くない。今シーズンの開幕当初は、トレイス・トンプソンらとセンターのポジションを分け合っていた。

【28年前の野茂のライバルは?】

 ナ・リーグの新人王レースで、アウトマン、キャロル、千賀に次ぐのは、ブレイク・セイボル(サンフランシスコ・ジャイアンツ)、スペンサー・スティーラー(シンシナティ・レッズ)、ミゲル・バーガス(ドジャース)の3人だろう。

 捕手&レフトのセイボルは、30試合で打率.280と出塁率.330、5本塁打と2盗塁、OPS.803。内野両コーナーを守るスティーラーは、40試合で打率.253と出塁率.335、5本塁打と1盗塁、OPS.775。二塁手のバーガスは、42試合で打率.234と出塁率.342、4本塁打と2盗塁、OPS.765だ。

 ほかには、4月下旬以降にデビューした3人が好スタートを切った。

 外野手のドミニク・フレッチャー(ダイヤモンドバックス)と内野の左側を守るケーシー・シュミット(ジャイアンツ)は、それぞれ16試合と9試合に出場し、ともに2本のホームランを打ち、出塁率.400以上を記録している。先発投手のユーリー・ペレス(マイアミ・マーリンズ)は、2登板で防御率2.79。9.2イニングで13三振を奪っている。

 フレッチャーはデビッド・フレッチャー(エンゼルス)の弟だ。今春のWBCにはイタリア代表メンバーとして、兄弟揃って出場した。ペレスの投球フォームは、チームメイトのサンディ・アルカンタラとよく似ている。アルカンタラは昨シーズンのサイ・ヤング賞投手だ。

 一方、外野手のジョーダン・ウォーカー(セントルイス・カージナルス)は、デビューした開幕戦から12試合連続安打を記録したが勢いは続かず、先月下旬に降格となった。

 また、プロ入りから10年以上を経て、34歳の誕生日直前にデビューした内野手のドルー・マッジ(ピッツバーグ・パイレーツ)は、3試合に出場。5打席目に初安打を打って初打点を挙げ、現時点では最後の6打席目も二塁打を記録し、マイナーリーグへ戻った。

 なお、28年前の野茂は、236奪三振と奪三振率11.10がナ・リーグ1位、防御率2.54はグレッグ・マダックス(当時アトランタ・ブレーブス)に次ぐ2位に位置した。にもかかわらず、新人王は僅差の受賞となった。

 野茂の118ポイントに対し、2位のチッパー・ジョーンズ(当時ブレーブス)は104ポイントを獲得。のちに殿堂入りするチッパーは、140試合で打率.265と出塁率.353、23本塁打と8盗塁、OPS.803を記録した。