試合後にラ・リーガ優勝セレモニーが用意されていたカンプ・ノウで、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は王者FCバルセロナを1−2で撃破している。1991年以来、32年ぶりというカンプ・ノウでの劇的勝利だった。

 その殊勲者のひとりとなった久保建英は、試合終了のホイッスルが鳴ると2度、3度と小さく飛び跳ねて、全身で金星を祝った。チームのターンオーバーの事情で58分からの出場になったが、見事に決勝点の起点になっている。確実に仕事をやり遂げる姿は、今シーズンの成長を象徴していた。

「タケ(久保)は交代で出場し、自分の役割を完璧に理解していた。敵と対峙するたび、らしさを見せて貢献。しかも、2度までも決定機を作り出していた」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』の評価もすこぶる高かった。


バルセロナ戦に後半13分から出場、勝利に貢献した久保建英(レアル・ソシエダ)

 久保は幼少期を過ごした"古巣"バルサを撃破することで、また変貌を遂げたと言えるかもしれない。

 バルサ戦の久保は、0−1でリードした展開のなかで、モハメド・アリ・チョとの交代出場になった。大雑把に言えば、勝ち逃げ要員だった。5−2−3という布陣に変更し、久保は前線に入ったが、プレスやプレスバックをしながら、どこまでカウンターに絡めるかが焦点だった。

 その点で、ほぼ満点の仕事をしたと言えるだろう。

 チーム全体が低い位置で構える形になっていたことで、高い位置で攻撃を仕掛けることはできなくなったが、久保はすべきことを心得ていた。ハイプレスは味方と連動しなかったが、それでも一定の効果があった。あるいはしっかり戻ってディフェンスし、攻撃を分断。同時にカウンターの意識も高く、守備と攻撃の切れ目がなかった。

 60分、久保はカウンターからボールを持ち上がり、右を駆け上がったアンドニ・ゴロサベルに絶妙なラストパスを出す。シュートはGKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンに抑えられたが、ひとつの形を作った。

 ボールに対する出足のよさが際立っていた。

 65分には、右サイドで味方のパスがずれてボールをジョルディ・アルバに奪われたところ、すぐに切り替えて奪い返す。間髪入れずに猛然とゴールに向かってドリブルで挑み、後ろから追いすがったアルバにファウルで倒される。何気ないシーンだが、攻守一体の境地だった。

【現地紙は「人間としてもすばらしい」】

 それで得たFK。久保は左足でファーサイドのアレクサンダー・セルロートに完璧に合わせている。ヘディングはうまく当たらなかったが、急角度に落ちる速い球筋で、そのクオリティは半端ではなかった。自らが作った好機である。

 そして71分、久保は自陣でボールを受けたフレンキー・デ・ヨングに鋭く食いつく。それによって体勢を崩したところをマルティン・スビメンディがボールを奪い、久保にパスをつける。先んじて反応していた久保は、これを迅速にドリブルで運びながらも、うまく相手を引きつけてタメを作り、ギリギリのところで再びスビメンディへ。時間とスペースを生み出したことによって、右でフリーになって待っていたセルロートが決勝ゴールを蹴り込んだ。

 久保は直接のアシストではなかったが、まさに起点になっていた。数字には表れない「助演賞」と言えるだろう。守備と攻撃が常に重なり合って力強く連動し、相手に決定的なダメージを与えていた。

 歴史的な勝利をもたらし、21歳とは思えない風格まで出つつある。

「久保は選手としてだけでなく、人間としてもすばらしいところを見せている」

『アス』紙は、試合中に久保が激しいプレスからマルコス・アロンソと交錯したシーンを好意的に取り上げていた。ふたりともイエローカードを受けることになるのだが、久保は判定後に自らマルコス・アロンソに近づいて和解の握手を交わしていた。カンプ・ノウという舞台へのリスペクトもあったのだろうが、こうした紳士的行動は意外に重んじられるのだ。

 勝負へのどう猛さが露骨に見えた一方、その行動はとてもフェアだった。それはスーパースターの品格と言えばいいだろうか。そのプレーがまた一歩、チームを来シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)出場(4位以内)に近づけた。

「ずっとカンプ・ノウで勝てなかったジンクスを破れたのは大きいですね。これで今シーズン、我々は(マンチェスター・)ユナイテッド、(レアル・)マドリード、バルサに勝つことができました。あとは、CL出場という"賞"を手に入れられるか。日程的には苦しいですが、残り3試合、すべてを出しきるつもりで戦います」

 イマノル・アルグアシル監督の言葉である。ラ・レアルは4位を手堅くキープした。ただし、同じく勝利を収めた5位ビジャレアルとの勝ち点差は5ポイントのままだ。

 次節、ラ・レアルはホームで下位アルメリアと対戦する。1部残留を確実にするため、必死に勝ち点を拾いにくる相手を攻略できるか。その後はアトレティコ・マドリード、セビージャという地力のあるチームとの連戦が待っているだけに、必勝態勢で臨むはずだ。

 久保はシーズンのクライマックスをどう盛り上げるのか。ひとつのスペクタクルだろう。