「性格は完全な男」「オネエキャラは商売になると思ったから」美川憲一、90年代再ブレイクの秘密。ホステスに「オカマ」とバカにされてブチギレ、ヤクザに土下座謝罪させたことも…

4月23日、代々木公園で開催されたLGBTQイベント「東京レインボープライド2023」の野外ステージの大トリに登場した美川憲一さん。名曲『さそり座の女』などを披露して会場を大いに盛り上げた平成を代表するオネエキャラ歌手、美川さんは令和のLGBTQ観に何を思うのか。イベントの後日、本人を直撃した。

デビュー当時のキャッチフレーズは“夜の貴公子”

――「東京レインボープライド」はLGBTQへの理解を深めるために毎年開催されているイベントです。今回参加されてみてどのようなご感想をお持ちになりましたか。

美川憲一(以下、同) 昔はLGBTQなんて言葉がなくて「男は男らしく、女は女らしく」という時代。それに比べればいい時代になったわよね。一部でまだ偏見の目があるとはいえ、ね。だからみなさんにエールを送る意味も込めて、今回は出演させていただきました。

――美川さん自身も中性的なキャラでお茶の間に認知されています。

でもね、最初は“夜の貴公子”ってキャッチフレーズでデビューしたのよ。

“夜の貴公子と呼ばれていたころの美川憲一さん

――はい。美少年キャラだったと。

動かない、しゃべらない、笑わない。“第二の東海林太郎”なんて言われてたんですから。

その後、鳴かず飛ばずの時期があって、それから「オネエキャラは商売になるな」と思ったのが正直なところね。

――1990年に放送された金鳥の「タンスにゴン」のCM。「もっと端っこ歩きなさいよ」というセリフが当時大変な話題となりました。

その前に(1989年正月放送の)「オールスター爆笑ものまね紅白歌合戦!!」でコロッケが私のものまねで出場して、私がサプライズで“本人登場ゲスト”の第1号として出演したのよ。

曲が終わってインタビューされたんだけど、「ものまねされてうれしい」とか媚びを売るのはやめて毒を吐こうって決めてたの。

だから「コロッケさんにものまねされてどうですか?」と聞かれて「いい迷惑よ」とか、「あたしはこんな安物着ないわよ」とか言ったら、それがすごくウケて。

カルーセル麻紀に初めて会ったときの印象

――それが「タンスにゴン」のCM出演、そしてオネエキャラでの再ブレイクにつながると。

最初は男で売ってたからもちろん抵抗はあったわよ。一人称だって「僕」だったんだから。でももう戦う気持ち。ここで一発当てようと思ってました。

そしたらもうすごいことになっちゃって。今までの歌手は歌のヒットでブームにはなっても、キャラクターでブームになったことはない。本当にすごかったわよ。駅に降りたら山のような人だかりで。

――狙い通りになったと。ところで美川さん自身は完全な“ストレート”なんですか?

性格は完全に男ですね。先日、番組で共演した占い師の木下レオンさんに「根っこは武将」と言われて、まさに、って感じ。

一方で、オネエキャラでいく前から着飾ったり、キレイなものを見るのは好きだったわね。お化粧はしなかったけど。そういう意味では男の部分と女の部分が半分ずつあったのかもしれないわね。

「東京レインボープライド2023」のステージで歌う美川憲一さん

――美川さんは“元祖オネエタレント”のカルーセル麻紀さんともご親交があるそうですね。

初めて会ったのが昭和42、3年だったかしら。私が20代前半でデビューしたちょっと後くらいね。大阪に大劇(だいげき。大阪劇場)って劇場があって、そこでコンサートをするときに私の追っかけをしてた“青江のママ”っていうゲイバーのママが後輩の麻紀ちゃんを連れて見に来てたの。

まだ性適合手術前だから男性だったんだけど、初めて見たときはそれはもう不思議な感じだったわよね。でも麻紀ちゃんはすごいわよ。今みたいに理解がゼロの時代にそういうこと(性適合手術)をやるって。

――それから約30年経って、美川さんがオネエキャラでやっていくと聞いてカルーセルさんの反応は?

「おもしろいわね」と言ってくれた。私がバラエティに出てバカなことを言うと「おもしろかったわよ」ってわざわざ電話をかけてくれたし。

麻紀ちゃんは芯の強い人で、有名な話だとおすぎさんのラジオに出たときに「私たちオカマは」と言われて「何がオカマだ、てめぇ」と怒って帰っちゃったことがあるくらい。

自分がバカにされたと感じたときはちゃんと強く言うってところが、麻紀ちゃんらしいと思いますね。

コワモテを土下座させたことも

――美川さんにもそういう面はありますか?

私は全然ないのよ。商売でやってるから。ただ昔、新宿を歩いてたら水商売風の2人組の女から「オカマ!」って言われたのよ。私、頭にきて啖呵切ったら、ケツ持ちのコワモテが出てきて「うちの女に何してくれてんだ」ってすごんできたから、こっちも男になっちゃって(笑)。

「オカマってどういう言葉か知ってんのかよ!」「釜で商売なんかしてねえんだよ!」とまくしたてたら逃げようとするもんだから、3人とも土下座して謝らせた。

――すごい……。

私も怖くて体が硬直してたんだけど、ここで舐められるわけにはいかないでしょ。土下座する相手に「地べたに頭つけろ」「そういうことをやたら言うんじゃねえよ」って追い打ちをかけて。

1か月後くらいにその人たちとまた会ったら「美川さ~ん、こんにちは~」って低姿勢になってたわよ。

「東京レインボープライド2023」ステージの様子

――カルーセルさんの話を超えてますよ(笑)。

だから戦うときは戦わなきゃいけないのよ。負けちゃいけない。

――それはLGBTQとして現代を生きる人たちにも言えますね。

そうね。自分が男だと思えば男として生きていけばいいし、私みたいに半々みたいな感じなら使い分ければいい。そういう風に楽に生きられればね。職場や学校でいじめられることがあるかもしれないけど、それはもう信念を持って強く生きること。

結局ね、自分らしく生きることが後悔しない生き方なのよ。それで孤独を感じるようなら相談できるようないいお友達をつくることね。

LGBTQの人々へ美川さんなりのエールは、さすが長年“芸能界のご意見番”を務めただけのことはある説得力だった。

後編では意外に知られざる美川さんの恋愛遍歴に迫る!

取材・文/河合桃子

集英社オンライン編集部ニュース班