「グラビアアイドルは議員を目指すべきではない」「性を売りにしていた人間が議員になるのはおかしい」。30歳の元グラドル議員が偏見、誹謗中傷を受けてでも政治家を目指した理由
2023年4月に行われた統一地方選挙のさいたま市議選にて、立憲民主党から出馬した永井里奈さん(30)が初当選を果たした。永井さんは10年前の「ミスFLASH2013」に輝いたこともある人気グラビアアイドルだったが、今回の市議会選はグラビアアイドルへの偏見と戦う選挙でもあったという。(前後編の後編)
「グラビアアイドルは議員を目指すべきではない」という誹謗中傷
永井さんはさいたま市議会選で3213票を獲得し見事初当選を果たしたが、これまでの芸能人出身議員とは一線を画した部分がある。選挙においても自身がグラビアアイドルであったことを隠すのではなく、堂々と公でも語っていることだ。
立憲民主党のサイトでの候補者インタビューの中でも「政治の世界で活動し始めてから、グラビアアイドルについて、女性のやる仕事として地位が低い。議員を目指すべきではないというような差別的発言もあります。でも私自身はそうは思いません」と、グラビアアイドルへの偏見とに対して毅然とした態度を示している。
グラビア活動について「私自身も誇りと信念を持って活動してきた」と話す永井さん。一方でその経歴への誹謗中傷があるであろうことは政治家を志すときから覚悟していたという。
「政治活動を始めるにあたって枝野(幸男)議員と面接した際、『そうした偏見、誹謗中傷はあると思うが、大丈夫か?』と聞かされていましたし、覚悟はしていました。だからといって経歴を隠そうとは思わなかったです」
立憲民主党前さいたま市議会の小川議員(左)と枝野幸男衆議院員(右)と投票日前日の演説
高校生の時にスカウトされたことがきっかけで芸能活動を始めた永井さんだが、進路を決めた理由には。自身が母子家庭であることも大きかったという。
「母子家庭なので大学に行くにもお金が高い。もし芸能人になればお金を稼いで、お母さんに楽をさせてあげられるかなと考えてタレントの道に進みました。でも入ってみると、稼ぐどころじゃなくて(苦笑)。
イエローハットさんのCMにも出ていましたが、たぶん芸能人としての収入は皆さんが想像するよりも全然入っていない。グラビア活動自体もお金は稼げなくて、本当にカツカツでした。周りには『事務所を変えた方がいいよ』とずっと言われてたんですけど、お世話になっていたし、なかなかやめられなくて」
「性を売りにしていた人間が議員になるのはおかしい」
芸能人、特にグラビアアイドルに対し派手に遊んでいるイメージを持つ人もいるだろう。ただ永井さんはその点に関しては健全だったと話す。
「派手に遊ぶことは全くないです。一人暮らしではなく、大宮にある実家に住んでいたので、終電を逃さないよう一番最初に帰ってくるタイプでした(笑)。一応、お酒や食事の誘いはあったんですが、誘われるたびに毎回断るのが苦手で。ちょっとずつ連絡先を交換しないようにしてましたので。そもそも芸能界の人と連絡先を交換しないようにしてました」
芸能界にいた頃も「実家の大宮から都内に通っていた」と話す永井さん
そうした芸能活動から転じて、政治活動を始めると、水着の仕事をしていたというだけで、一部の人たちから誹謗中傷を受けるということもあったという。
「グラビアについてマイナスに捉える方はかなりいらっしゃいます。表立って言われることはありませんが、選挙が始まる前にはネットで誹謗中傷などもたくさん来ました。ある一般の女性の方が『性を売りにするな』と批判を繰り返していて。年齢が近い方なんですが、 ずっとネットで『この人は水着でこんな仕事をしているんです』と写真をアップしていて。
いろんな人に水着の仕事をしていた人間だと周知させたいみたいで。他にも過去の写真を載せて『昔と顔が違うぞ』という人もいました。ただ枝野議員や周りにいる方からは『気にしなくて大丈夫。何も反応せず静観していればいい。自信を持っていこう』と言われました」
永井さんがグラビアアイドルであったことへの批判は、同じ議会にいる議員からも同様の声が上がった。
「現職のさいたま市議の方たちが、選挙前にグラビアアイドルのような性を売りにしていた人間が議員になるのはおかしい、と受けとれるような請願を出したんです。結局否決されたんですが、選挙ギリギリまでやっていました。その議員の方は、私のDVDや写真集をわざわざ買って、議会で見せるということもしていたそうです。
実際の請願の内容の一部
さらに請願には、事実ではないのに私が出ていたのはアダルトDVDで、作品の中で複数の男性に胸を触られているなどといったことも書かれていましたし、同じ内容が書かれたチラシを全戸配布で選挙区の各家庭に配られもしました」
若者、女性が活躍しない地方議会に未来はない
永井さんは今回の統一地方選挙に当選したことで、5月からはその議員と同じ議会で働くことになる。
「挨拶はしているんですけど、これからどうなるかはわからないですね。でも味方は仲間たちですね。立憲民主党の先輩たちには『何かあったら言ってきてね』と言われています」
現在30歳。選挙を通し、若い世代、特に女性が政治に参加することにまだまだ壁があることにも改めて気づいた。
「当選した今、これからが大事」と話す永井さん
「政治はまだまだ男性社会であるとは感じます。私がまだ若いということもあるんですが、高圧的な方も中にはいて、発言をしづらいときもあります。根本的に、女性がする仕事ではないと捉えている方もまだいます。『政治家は、やっぱり男性の方が安心する』『女性は感情で物を言うから、あんまり信用できん』という声は聞こえてきます」
永井さんのように若い女性が政治に参加するためにはなにが必要なのだろうか。
「私は選挙に出た時には『そんな若さで大丈夫なのか』『何も経験していない人間に何ができるのか』とかなり言われました。でも若い世代のことが分かるのは、当事者に近い年代の人間だと思います。なので、そうした言葉に諦めないこと、そして周りのバックアップが大事です。いじめもそうですが、屈しないことが大事です」
永井さんには選挙期間中の印象的な出来事があったという。
「選挙カーで回っていると、中学生や高校生の子が近寄ってきてくれて『一緒に写真を撮りましょう』となったんです(笑)。『まだ中学生で選挙権はないんですけど、あのチラシください』とか応援してくれたんです。
一方で『選挙権はないけど、政治家の人がもうちょっとわかりやすく話してくれたら、私たちももう少し政治のことがわかるかもしれないね』と話をしていたんです。私自身勉強中の身ですが、わかりづらい面もある。政治をもう少しわかりやすく噛み砕いて伝えられる政治家になれたらと思います」
議員の高齢化、男性偏重、なり手不足の地方議会に永井さんが風穴を空けてくれることを期待したい
女性であり、若手であり、そして偏見にも負けず当選した永井さん。地方政治に新しい風を吹かせるだろうか。
取材・文/徳重龍徳 撮影/村上庄吾