神木隆之介さん(2017年撮影)

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俳優の神木隆之介さん(29)が主演するNHK連続テレビ小説「らんまん」で描かれた「女人禁制」に視聴者の注目が集まった。

2023年4月6日に放送された第4回では、主人公で幼少期の槙野万太郎(森優理斗さん=9)の姉・綾(太田結乃さん=10)が酒蔵に足を踏み入れるシーンがあり、それを杜氏に叱責されるシーンがあった。

「おなごが蔵に入ったらいかんですき!」

番組中盤、万太郎は家業の醸造所で働く番頭の息子・竹雄(井上涼太さん=11)とのケンカをきっかけに、へそを曲げて酒蔵の中へ。その姿を追った綾は万太郎が通った出入り口の前でしばしたたずむも、意を決して中へと歩みを進めた。中に入ることしばらく。綾は肩を後ろから杜氏の寅松(嶋尾康史さん=54)によってつかまれ、酒蔵の外に出された。そして、

「おなごが蔵に入ったらいかんですき! おなごが入ったせいで、腐造を出したらどうするがぜ。おなごは汚れちゅうがじゃ。入ったらいかん」
「酒蔵の神さんがおなごを嫌うき。酒が腐りよる」

とたしなめられたのだった。このシーンに対しては、「酒蔵が女人禁制だったのをこの回で知った」といった声や、「酒蔵にはまた特別な理由もあるので、女人禁制が差別と一概に言えないけど、バイ菌扱いみたいなのは悲しいよね」と、ドラマとはいえ悲しいといった声も上がった。

女人禁制なのは漬物を扱うから!?

なぜ、酒蔵では女人禁制だったのだろうか。日本酒の醸造に携わる丹波杜氏の湊洋志氏はJ-CASTニュースの取材に、あくまでも推測の限りとしつつ、考えられる可能性を指摘した。まず挙げたのは、消毒の手段が未発達な時代ならではの、腐造(※酒が腐ること)に対する恐怖ではないかという点だ。

「なぜ女性が蔵に出入りするのがいけないかというと、炊事において漬物の乳酸菌などの微生物を扱う事が多いということが考えられています。宗教的な意味合いで女性の立ち入りが禁じられたとも考えられていますが、そのことに関しては確証の持てる根拠はあまり存じません。

微生物を扱う現場において、消毒液や除菌する道具の無かった時代、桶などの道具を滅菌する手段は熱湯、太陽光、そして蔵の壁など設備には燻製など煙であぶるなどの方法が取られていました」

加え、腐造が起きてしまった場合の重大性について説明する。

「腐造を出すというのは想像以上に恐ろしく、ひとたび火落ち菌やキラー酵母など酒を腐らせる雑菌に侵されるとその年の酒はおろか、向こう3年ほど酒造りを禁じられるという事態になりました。当然酒造業は立ち行かなくなり、財産は全て消え失せ、杜氏も責任を負い、ノイローゼや自殺者が出るほどの一大事となります」

さらに、

「もう1つには出稼ぎ労働者が働いていた酒蔵で女性と交わるのを嫌がったという理由があると思います。我々丹波杜氏は江戸時代は出稼ぎ禁止令を出され、自由に働く事を許されなかった歴史を持ちます。江戸時代、下り酒の産地として伊丹や灘に出る奉公人が酒屋働きに出たきり帰ってこないという事があり、国許で他所へ奉公に出ることを厳しく制限されたのです」
「万が一にもお店の女中とよい仲になって子供を作るなどの事態が発生しないように、女性の出入りが厳しく制限されたのではないかと考えております」

と、もう1つの理由を推測した。

「おそらく戦後の女性の地位向上の社会的な取り組みの中で変化していったのでしょう」

酒蔵が女人禁制になったのはいつからなのかも聞いた。湊氏はその時期について、酒の生産が大がかりな道具で大量に仕込まれるようになり、男手が必要となった江戸時代からではないかとし、

「いつから解かれたかと言いますと、昭和30年代ごろ、灘の酒蔵では季節労働者が人手不足となり、女性が飯焚きの仕事として採用される様になったと伺っています。おそらく戦後の女性の地位向上の社会的な取り組みの中で変化していったのでしょう」

と、解禁されたとみられる時期について指摘。さらに、

「女性が酒造現場に出て酒造りをするようになったのは男女雇用機会均等法が成立して以降と考えられるかと思います」

と言及した。

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)