アレルギー疾患の原因物質IgEが増加するメカニズムを解明 東京理科大ら
免疫とは、細菌やウイルスなど体に有害な侵入者を体から排除する、防御システムだ。だがそのシステムが、本来排除対象ではない花粉やダニ、食物などに誤発動し、痒みや腫れ、くしゃみや鼻水などを引き起こすことがある。これをアレルギーという。
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アレルギー疾患の人の血液を調べてみると、通常とほとんど存在しないはずのI gE抗体が多くつられ、様々な症状を引き起こしていることがわかる。だがこれまで、IgEが増える仕組みや原因ははわかっていなかった。
東京理科大学は3月31日、このIgE抗体が過剰に作られる仕組みを明らかにしたと発表した。この発見により、アレルギー疾患の新しい治療法や予防法が開発されていくことが期待できる。
今回の研究は、東京理科大学生命科の天野峻輔氏(博士後期課程3年)、生命科学研究科・生命医科学研究所の北村大介教授らの研究グループによって実施。その成果は3月20日、国際学術誌「The Journal of Immunology」にオンライン掲載された。
アレルギー性疾患の患者では、血液中のIgE抗体が常に高い値となっており、痒みや炎症などのアレルギーの症状を引き起こしている。
IgE抗体は、もともとは寄生虫を排除する時に働いていた免疫だ。だが現在は衛生状況が改善し、寄生虫に感染する機会は大きく減少している。つまり、IgE抗体は仕事を失っている状態である。その仕事を失ったIgEがアレルゲンと言われる花粉やハウスダストなどの物質に反応し、アレルギーが増えたのではないかという考えもある。
研究グループは、MyD88という遺伝子を欠いた、遺伝子改変マウスを用いて、IgE自然抗体産生のメカニズムを調べた。MyD88は、免疫反応を制御する重要なタンパク質で、細菌などの排除対象が侵入してきた時に次に伝えるアダプタータンパクと呼ばれている。このMyD88欠損マウスはIgE抗体の濃度が常に高い状態であることがわかっている。
まずこのマウスのIgEの状態を確認。すると生後2週齢からIgEが増え始め、4週齢でピークに達しその後も高いままだったという。
このマウスを用いて、IgEを産生する形質細胞やB細胞を除去するなどして検討。IgEは、IgG型記憶B細胞が形質細胞に分化して、その形質細胞により産生されるため、常に高い濃度を保っていることがわかった。
またMyD88欠損マウスの肺には、レンサ球菌のS.aziziiが異常増殖していた。抗生剤で除菌した後、S.aziziiを再度感染させたところ、MyD88欠損マウスではIgEが増加したが、野生型マウスでは特に変化が見られなかったという。つまり肺に共生している菌野の変化が、IgE抗体の産生に影響を与えていると考えられた。
さらにMyD88欠損マウスの肺において、免疫細胞が分泌した物質であるサイトカインを調べたところ、マクロファージや樹状細胞を増殖させるサイトカインCSF1が過剰に作られていることが判明。つまり、このCSF1が過剰に作られた結果、樹状細胞活性化を促し、アレルギー性の炎症の主な原因となるTh2型炎症反応を強く誘導。結果として、IgE抗体を産生させ続けていると考えられたという。
今回の研究により、体内でIgEが産生され続けるメカニズムが明らかになった。このメカニズムの過程に関わる記憶B細胞やTh 2細胞、サイトカインなどを標的にしたアレルギー疾患の治療や予防が、今後開発されていく可能性に期待したい。