サラリーマンでも馬主に手が届く!地方共有馬主の魅力とは!?どんな馬も“咲けるところで咲かせる”――地方共有馬主クラブ・川上和彦氏
地方競馬が好調だ。NARの地方競馬開催成績によると、2022年1月〜12月の総売得金は1兆651億円と前年比110.4%。暦年での売得金額レコード(これまでの記録は1991年:9824億円)となり、初の1兆円突破となっている。
そうした中で、地方競馬の馬主資格を取得する人も増えているようだ。中央の馬主資格よりもハードルが低く、原則として直近年の所得金額が500万円以上あれば基準を満たすとされる。売得金増に比例して地方競馬の賞金も上がってきており、馬券や一口馬主とは違った楽しみ方を期待する人も多いのだろう。
ただ、地方の馬主資格を取った人でも、最初から1頭を丸々自身で持つのはコスト面でハードルが高い。そんな中で比較的手軽に楽しめるのが「共有」という方法だ。1頭分の値段の1/20から所有できる。1か月の維持費(預託料)も20口で割れば、1口1〜2万円程度となる。
購入すると、どのような馬主ライフを送ることができるのか? 地方共有の”老舗”と言えるビッグダディオーナーズクラブの川上和彦氏に、その”楽しみ方”を伺った。
きっかけは「父ちゃん、ダービースタリオンは面白いよ!」――まず、川上さんと競馬との出会いを教えてください。
30代以上の方には多いかもしれませんが、私も『ダビスタ』がきっかけでした。当時小学生の息子に「父ちゃん、ダービースタリオンは面白いよ」と勧められ、それまでは競馬そのものを全く知らなかったのですが、元々好奇心も旺盛でしたしすぐにハマってしまいました(笑)
現実の競馬も、タヤスツヨシがダービーを勝った年(1995年)から。馬券はあまり買わず、ダビスタの世界を現実でも体験したいという気持ちが強かったですね。当時たくさんあった競馬雑誌――サラブレやらGallopやらを読み漁って、一口馬主クラブにも入会しました。
――当時『ダビスタ』は本当によくできていましたよね。そこから、馬主への道を歩まれるわけですが…。
馬主といっても中央競馬しか知りませんでしたから、いきなりはハードルが高いものでしたが、そうこうしているうちに当時所属していた会社の新規事業企画で一口馬主に関するサイトの企画が通り、仕事でも競馬に大いに関わることになった。これは本格的に競馬の世界から抜けられないぞと(笑)
中でも一番大きかったのは、“テイエム”竹園 正繼オーナーとの出会いです。「馬の見分け方を本にしたい」と思い直談判したところ快諾いただきまして、「どうせやるならDVDも付けたほうが良いよね」と。それで、『馬見の極意』というDVD本を制作し始めたのです。実際にテイエムプリキュア(※)は、セリで購買する様子がDVDにも収録されていますし、私も間近で見ていました。
(※)2003年のオータムセールにて262万円で竹園オーナーが落札。2005年の阪神JF(G1)を勝ち、2009年の日経新春杯(G2)を逃げ切るなど生涯賞金2億円超を獲得。
――まさに『馬見の極意』ですね…。そうした相馬眼を身近でご覧になれたご経験というのは、非常に貴重だと感じます。
仔馬が成馬になるまでのギャップを、どう自分でイメージできるか。竹園オーナーとのお付き合いで、そうしたプロセスをたくさん見て勉強させていただいたというのが大きいです。セリや牧場でご一緒し、誕生から育成、競走馬になるまでを継続的に見せていただいた。馬それぞれの成長期や、性格の違いなども含め、現時点から将来にかけて予測する知見を養っていきました。
実は、ビッグダディオーナーズクラブの最初の共有馬・ルキアも、竹園オーナーに「一緒に選んでくれませんか?」と頼んで、牧場まで来ていただいたのです。オータムセールで売れ残った馬で、購入時は410キロ台で蹄が悪く成長が遅れてしまいましたが、3歳のデビュー時には492キロと大きく成長して、南関東で5つも勝ってくれました。
苦労しましたから、特に初勝利のときはとても嬉しかったですね…。この馬を共有いただいてから約15年、現在も続けて共有いただいている馬主さんもいらっしゃいます。そこから現在進行形で100名超、通算で言うと300名以上の方々に共有いただいております。
――最初から、個人馬主ではなく、地方共有という形を取られたんですね。
クラブを立ち上げた2000年代というのは、まさに地方競馬が不遇の時代でした。中津、三条、益田、足利、高崎、宇都宮と相次いで廃止され、賞金もどんどん下がり、馬が売れず…という。川に生産者が浮いていたとか、牝馬は当時売ることさえ厳しい時代だったため他人の牧場に捨て犬ならぬ捨て馬が発生した、そういう話を聞く時代でした。
そうした状況を微力ながらなんとかしたいと、日高の若手牧場主数名と立ち上げたのがビッグダディオーナーズクラブ。少しでも馬が売れる機会を提供したかったのです。また“馬主を始めたい”という人に、気軽な参入の機会を提供したかったというのもありました。当時、現在ほど大手牧場経営以外は地方共有の仕組みは少なかったですから(笑)。当時は各競馬場の賞金や出走手当が安くて…。収支バランスに苦労する時代でした…。
また、コストダウンのため紙でのやり取りを極力省き、広告宣伝費はかけず、インターネットでの募集のみ。たまたまホームページを見かけてくださった奇特な方に共有いただいて、現在があります。
中央も地方も“醍醐味”は同じ。全愛馬に優勝経験をさせてあげたい――所属馬の戦績を拝見していると、様々な選択肢から本当に工夫されているのがうかがえます。
モットーは“咲けるところで咲く”。特徴に合った競馬場、厩舎を選んで、全愛馬に優勝経験をさせてあげたいと思って運営しています。
たとえば現役馬であればナイフレストは、門別や盛岡で勝てなかったのですが、浦和に持ってきたら2連勝。ヒロシゲジャックも盛岡で2着が5回と勝ちきれなかったのが、大井に持ってきたら1着・1着・2着・2着・先日はC1の特別で3勝目を勝ち取りました。もちろん全ての馬が思い描いたように能力を開花してくれるわけではないので上手くいかない場合もあり、日々勉強。“この馬はどんな競馬で、どこで咲かせるか”というのを、我々が最大限責任を持って考えて行動することが大切です。
もちろん、馬に対する並々ならぬ思いや熱意がある厩舎に入厩させていただくことが大前提です。そうした行動の結果、愛馬が勝ったときの高揚感や楽しさというのは特別に“感慨深いもの”があります。共有いただいている馬主さんから「勝利の感激はひとしおで、一口とは違うものがある」「良い時、悪い時、色々あるが、やっと勝って良かった」などのお声をいただきます。1戦1戦、真剣に向きあう厩舎関係者や騎手の姿を目の前にして、わが身のごとく共に「頑張ろう」と気合が入る瞬間、それは馬主の醍醐味かもしれません。
一口馬主と違って、ご自身の好きな時に厩舎や牧場へ馬を見に行けたり、馬主席に入って応援できたり、勝てば記念撮影ができる――。そういった部分も、愛馬に愛着が増す要因かもしれません。東京に住んでいる方でも「笠松に応援に行きます!」と厩舎や競馬場まで行かれる方もいらっしゃいますし、単に“競馬が好き”なだけじゃない。自分自身もそうですが「生きる源泉」のひとつになっているように感じます。
1頭1頭大切に、“この仔の一番良いところを引き出してあげよう”とすること――現在、2歳馬(新馬)を2頭募集中ですが、どちらも良さそうな馬ですね。
オーバルカット21(牡・父マジェスティックウォリアー)は、馬格があっていかにも成長力がありそうです。能力試験に合格した場合、100万円の育成費補助金が支給される特典付きですので、育成預託料や保険料を考慮すればオータムセールでの購買金額からほぼ上乗せなし。坂路15秒のところまで来ていて、育成場からは「乗り味が良く、気性も落ち着いていて好印象」と言われていますよ。
キタサンモデル21(牝・父ストロングリターン)は、オータムセールでお買い得だった馬。それでも、育成場の騎乗者からは「力があり、跳びも大きくて、気性も良く動く」と非常に高評価です。この馬も100万円の補助金の対象(※2)。馬体重も増えてきていて、良い成長曲線を描いているので楽しみです。
(※2)デビューが遅く頭数制限を超えた場合に支給されない場合がある。
補助金も共有馬主の方々に還元し、手数料も賞金の5%だけで、入会金も月会費も無し。それは、とにかく共有馬主さんに、愛馬が走る楽しみを気軽に実感してもらい、長く続けてほしいからです。現在はクラブ発足当初よりも地方競馬の環境が良くなっていますから、経済性も適えやすくなっていると思います。
――ありがとうございます。本当に発足当初の十数年前とは環境がかなり変わってきていますよね。そうした中で最後に、ビッグダディオーナーズクラブの目指すところを教えてください。
プレイヤーも増えていて、馬の値段は高くなり、育成場や各競馬場の厩舎には馬があふれているという状況。十数年前からは隔世の感がありますが、先に触れた状況を思い返すとたくさんの方が馬主活動を楽しんでいるのはとても素晴らしい事だと思います。クラブの運営としては大変ですが、経済性と楽しみを両立しながら最大公約数的な改善をし続けたい。
共有してくださる馬主さんが「良かった」と思うことは、自分にとっても同じこと。「共有して良かった」と思ってもらうには、もちろん重賞制覇を狙っておりますが、やはり1頭1頭大切に見て、“この仔の一番良いところを引き出してあげよう”とすること。それが使命だと思いますから、常に忘れずに続けていきたいと思っています。