バカッター事案の変化と、炎上の歴史がなぜ次の世代の若者に受け継がれないかを考察する(撮影:今井康一)

このところ、飲食店内での客による迷惑行為が、SNS上で「炎上」している。

ネットスラングで「バカッター」「客テロ」と称される、これらの事案が立て続けに起き、ネットユーザーの動揺も大きい。ツイッターでは「回転寿司」がトレンド1位になったほか、「スシロー」「資(すけ)さんうどん」「CoCo壱」といった被害店舗の名前も、連日トレンド入りしている。

そんななか、ネット上で頻繁に見られるのが「世代交代」といった言い回し。約10年前に相次いだ、SNSを通した迷惑行為の教訓が、次世代に共有されていないのではーーとの指摘があがっているのだ。

「バカッター」や「世代交代」というキャッチーなワードに、ついニヤリとする人もいるだろう。しかし、ネットメディアの編集者として、10年以上SNSを見てきた筆者は、事態を深刻に受け止めている。迷惑客の行為が社会に与える影響は大きく、場合によっては犯罪にあたる可能性もあり、当人や周囲の人生を悪い方向に動かしかねないからだ。

そこでこの記事では、バカッター事案の変化と、炎上の歴史がなぜ次の世代の若者に受け継がれないかを考察してみたい。

はま寿司、スシロー、資さんうどん、CoCo壱も…

まずは直近の事案を紹介する。大手回転寿司チェーン「はま寿司」では、客が注文した商品に、他の客が勝手にわさびを塗る動画が撮影された。レーンに流れる注文品から、勝手に1貫だけ食べる様子を映した別の動画とともに、2023年1月下旬にSNSで拡散され、大きな注目をあびている。「くら寿司」をめぐっても、一度取った寿司をレーンに戻す、数年前の動画が拡散された。

「スシロー」で撮影された動画は、あらゆる迷惑行為のオンパレードだ。客席に置かれたしょうゆボトルの注ぎ口をなめ、そのままふたをする。続いて回転レーン上にある湯飲みを手に取り、グルリとなめたら、未使用の湯飲み置き場へふたたび重ねる。そして指をなめつつ、レーンに流れる寿司ネタをつつく……。説明文だけでも、強烈な不快感を覚えるだろう。

回転寿司だけではない。福岡県北九州市を中心に展開する「資さんうどん」では、卓上の天かすを共用のスプーンで、そのまま食べる様子が撮影された。類似ケースとして、テーブル備え付けの福神漬けを直接食べる「カレーハウスCoCo壱番屋」での映像も拡散されている(なおJ-CASTニュースの2月2日記事によると、壱番屋の事案は約3年前に発覚して、すでに解決しているという)。

一連の悪質行為に対し、チェーン各社は厳然たる対応をしている。各社報道によると、「はま寿司」を展開するゼンショーホールディングスは、わさびをのせる動画について、店舗の所轄警察署へ被害届を出し、捜査に全面協力する姿勢を見せた。

「スシロー」を運営する、あきんどスシローは2月1日、迷惑行為が撮影された店舗を公表し、全ての湯飲みの洗浄と、しょうゆボトルの入れ替えを行ったと発表した。すでに被害届を警察に出し、迷惑行為を行った当事者と保護者から謝罪を受けたが、「当社としましては、引き続き刑事、民事の両面から厳正に対処してまいります」と説明した。

スシロー全店では防止策として、テーブル備え付けの食器・調味料に不安を感じた場合、保管してある消毒済みのものと交換する対応を行う。また対象店舗と近隣店舗では、食器や調味料置き場を店内に設置し、客みずからテーブルまで持っていくようになったという。

「資さんうどん」の運営会社・資さんも2月2日、事象が起きた店舗で、無料提供食材を入れ替え、容器の洗浄・消毒を行い、被害届が受理されたと発表した。無料提供食材は、引き続き客席に設置するが、不安を感じる客には対応策として、個包装や皿への小分けで別途提供する。

過去の騒動を知らない10代も多い?

「バカッター」というフレーズが定着したのは、ちょうど10年前の2013年だった。コンビニの冷蔵庫に、客がみずからの身体を入れようとする様子が拡散されて炎上。従業員による「バイトテロ」とあわせて、大きな社会問題になった。これらは画像ベースで、ツイッターやFacebookなどに投稿されたものが中心だった。

このところの事案は、インスタグラムやTikTokに掲載された動画が、「炎上系」インフルエンサーらの第三者によってツイッターへ転載され、さらなる注目を集める構図だ。なかには以前に投稿されていたものの、ツイッター上で炎上して初めて、企業側が動画の存在を把握したケースもある。

炎上に至るメカニズムは若干異なるものの、迷惑行為のパターンは「第1世代」と似ている。10年の時がたてば、小学生も高校生に成長する。ネットユーザーからは、「過去のバカッター騒動を知らない10代も多いのでは」「歴史は繰り返す」といった指摘が続出している。

では実際に、世代間ギャップがあるのだろうか。ひとつの指標として、「10代のツイッター使用率」を見てみよう。総務省情報通信政策研究所が、東京女子大学・橋元良明教授(現代教養学部)らと毎年行っている「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の報告書によると、2021年度調査のツイッター利用率は全年齢で46.2%。10代利用率は67.4%で、20代(78.6%)ほどではないが、30代(57.9%)や40代(44.8%)以上に比べて高い。

実はこの結果、筆者には意外だった。日頃からツイッターに触れていれば、仮に10年前の炎上事例を知らなくても、なんとなく「こんな投稿がツイッターで燃える傾向にある」といった肌感覚があるだろう、と思っていたからだ。

しかし、ツイッターとインスタ、TikTok、それぞれの10代利用率の推移を見ると、少し印象が変わってくる。

「異なるプラットフォームへ転載される可能性」

ツイッターの10代利用率は、調査が始まった2012年度(26.6%)から、2013年度(39.6%)、2014年度(49.3%)と右肩上がりだったが、2015年度(63.3%)以降は、ずっと6割台を維持している。

その一方で、インスタの伸びは著しい。調査対象となった2015年度(24.5%)から右肩上がりで、2021年度は10代が72.3%、全年齢でも48.5%となり、いずれもツイッターを上回る利用率となっている。

TikTokもまた、調査対象となった2018年度から、39.0%→47.9%→57.7%→62.4%と、10代の利用率が上昇。このままツイッターの横ばいが続くのであれば、本年度調査あたりで、追い抜くのではないかと思える勢いだ。

これらの結果から、ボリュームは不明ながら、ツイッターとインスタ・TikTokを併用している10代は、それなりにいると推測できる。となると、「知識として『バカッター事案』を身につけているか」もそうだが、「異なるプラットフォームへ転載される可能性を認識しているか」も重要になってくる。

記憶に新しい「下着ユニバ」騒動

SNS投稿が、転載先で炎上する。直近だと2022年10月に、露出の多い服装でユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を訪れた女性たちのインスタ投稿が、ツイッター上に転載され、「風紀を乱すのでは」と批判が殺到した。

筆者は当時、当サイト(東洋経済オンライン)のコラム「下着ユニバが『令和らしい炎上』である3つの理由」内で、以下の3点を理由にあげ、この事案が「令和の炎上テンプレ」的なケースだと説明した。

(1)技術革新によって断ち切られた文脈
(2)インスタとツイッターといったサービスによる文化の違い
(3)仲間内と世間での価値観の違い

上記コラムでは、「称賛」でつながるインスタと、斜に構えがちなツイッターには文化の違いがあり、「インスタの常識が、ツイッターの非常識」になることも多々あると指摘。コミュニティー内で完結するはずの内輪ノリでも、実際は衆人環視にさらされているという、認識の違いにも触れていた。

SNSサービスが増えたことにより、いまや第三者による転載は当たり前。「バカッター第1世代」と「第2世代」の違いは、あらゆる投稿が本人も気付かぬうちに、プラットフォーム間を飛び越える時代になったことにあるのではないか。

だが、そもそも若者は、承認欲求に身を委ねやすい。筆者もそうだが、「若気の至り」と呼べる経験を持つ、それなりの年齢の読者も少なくないだろう。

そう考えると、未来ある人々の事故を防ぐこともまた、良識ある先人の責務だ……とまでは言わないが、身近な人が道を踏み外さないためにも、過去の歴史を踏まえておくこと、そして第三者による転載が、いつ起きるかわからないこと。これらを認識しておくのは、決して無駄ではないだろう。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家)