地方にも続々開設している「子ども食堂」。どのような役割が求めれられているのでしょうか(写真:sakura/PIXTA)

地域にいる子どもなどに食事や生活サポートを提供する「子ども食堂」は、近年急速に増加し、開設数は全国で7000カ所を超えた。食堂は単なる貧困対策や子育て支援にとどまらず、子どもたちと高齢者、地元の学生らコミュニティーメンバーの交流を促し、「にぎわい」をつくり出す役割も担っている。

子ども食堂があることで、地域にはどのような変化が生まれているのだろうか(前回【「子ども食堂行くな」の言葉に隠された母親の本意】)。

「人生の先輩」に学び、親も変化

横浜市神奈川区の「ふれあいっこ三ツ沢」は毎月1回、地元の自治会館で子ども食堂を開いている。現在はコロナ禍のため完全予約制で、2回に分けて各15人に食事を提供。調理を担当するのは、定年後の男性らがつくる料理サークルや、高齢者に配食を提供している女性グループのメンバーなどで、毎回20人ほどのボランティアが集まる。

食材は農家による野菜の寄付や生協からの宅配キャンセル品の提供、企業からの寄付などで、ほぼすべて賄っているという。

男性グループが本格的な味を標榜して中辛のカレーをつくり、低学年の子どもたちから「からい」とクレームがつくことも。年配のボランティアに「いっぱい食べたね、すごいね!」と褒められ、何杯もおかわりする子たちもいる。

食後にボランティアの大学生たちとカードゲームや折り紙をして遊ぶのも、子どもたちの大きな楽しみだ。

「子どもたちがおじいちゃん、おばあちゃんの家に帰るようなアットホームな雰囲気が、うちの食堂のよさ」と、代表の小川真奈美さんは語る。子どもとともに通う親の中には、最初は子育てに余裕がなくピリピリした雰囲気を漂わせている人もいる。

だが、人生の先輩である年配ボランティアたちのこなれた人との接し方や、子どもへの我慢強い声掛けを見るうちに気持ちがほぐれ、「少しずつ人当たりが柔らかくなっていく」(小川さん)という。

子ども食堂は、前日から丸一日かけて食材の用意や下ごしらえなどをする必要があり、「無理なく継続するためには、月1回開くのがやっと」。

ただ、「準備のときも、仲間同士集まっていろんな話をするのが楽しいし、ストレス解消になります。子ども食堂のボランティアと言うと、ハードルが高そうに思えるかもしれませんが、関わってみると本当に楽しいんです」と話す。

小川さんは仲間とともに2017年、ふれあいっこ三ツ沢を立ち上げた。長年、民生委員の主任児童委員を務める中で、高齢者の情報は得られても子どもの話はなかなか耳に入らず、「子育てがあまりにも、家庭という閉じられた環境でのみ行われている」ことを痛感してきた。

そこで、食堂を通じて地域の人々に、もっと子どもへの関心を持ってもらおうと考えた。食堂に加えて、学習支援や子どもたちが自由に過ごせる“居場所”、プログラミング教室なども実施し、ほぼ毎週1回、どこかの拠点が活動している。

学習支援では、勉強が苦手な子や外国人を積極的に受け入れている。取材した日の授業では、ボランティアの大学生や主婦がほぼマンツーマンで指導に当たり、外国人の生徒には、日本語教師の資格者がついていた。夏休みには美術の先生に絵画教室を開いてもらったり、地元の折り紙が上手な人を招いて、折り方を教えてもらったりもする。


「ふれあいっこ三ツ沢」の学習支援拠点の様子。トランプをして遊ぶ子どもたち(筆者撮影)

拠点の利用者の中にはネグレクトや教育虐待、発達障害から来る生きづらさなどの困りごとを抱えた子もいる。時にはシングルマザーから「恋人のことを子どもにどう伝えればいいか」といった相談を持ちかけられることも。

とはいえ、ほかの地域に比べてとくに生活困窮世帯が多いわけではなく、子どもたちの間では「次の春休みはUSJに行く」「ディズニーランドに行った」といった会話も日常的に交わされる。

小川さんはふれあいっこ三ツ沢の役割を「子どもの居場所であると同時に、担い手の居場所でもある」と語る。常連のボランティアはもちろん、時折手伝いに来る高齢者らも子どもたちに「ありがとう、おいしかった」と言われることで、大きなやりがいを感じるからだ。

「食という営みは、人と人とのつながりをつくりやすい。食を通じた子ども支援をきっかけに、老若男女すべての世代が集まれる場をつくることが目標です」

離島にも増加している「にぎわい」の場

NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえが2022年12月に発表した調査結果によると、子ども食堂の数は2022年、前年より1317カ所多い7331カ所に増えた。コロナ禍のため、集まっての会食を再開している団体は半数弱にとどまる一方、団体ごとに弁当や食材の配布や子どもたちの居場所など、可能な範囲で多様な支援を展開していた。

調査でとくに目立ったのが、地方での増加だ。島根県では前年の2.8倍に、徳島県が1.8倍に、鹿児島県が1.6倍に増えたほか、静岡県や富山県でも大きく数が増えた。むすびえによると島根県では、食堂の運営者に情報提供やアドバイスを行う「地域コーディネーター」を自治体がバックアップしたことが、増加に大きく寄与したという。

むすびえの湯浅誠理事長は、調査結果発表の記者会見で「貧困対策というスティグマが薄れ、地域住民の交流拠点という認識が浸透してきたことが食堂開設を後押しした」と分析。過疎化の進んだ地域でこそ、住民の「にぎわい」をつくり出す場として子ども食堂が求められていると訴えた。

また鹿児島県では従来、食堂が鹿児島市内に集中していたが、2022年4月以降に開設された6つの食堂は、すべて島しょ部にあるという。

かごしまこども食堂・地域食堂ネットワークの園田愛美さんは会見で「『子ども食堂』が住民の見守りと交流の拠点だという認識が広まって『子どものための場所だから、大人は行ってはいけない』という人々の誤解が解け、高齢者と子どもたちが喜んで交流する場面があちこちで見られるようになった」と話した。

「油が高いので揚げ物減らす」物価高に悲鳴

ただ、いまだに多くの食堂がコロナ禍で会食を復活できず、弁当配布などに切り替えるか、会食を再開しても定員を設けて少人数で実施するなど、感染対策を余儀なくされている。さらに物価高が運営を直撃した。

アンケートの自由記述からは「油が高いので揚げ物を控えるようになった」「弁当のお米を10グラム減らした」「運営者が持ち出しになったら活動を続けられない」といった切実な声も聞かれた。しかし中には、「こういう時だからこそ、子どもたちの楽しみを減らしたくないので、質や量を落とさず歯を食いしばって頑張っている」との意見もあった。

湯浅理事長は「多くの団体は、知恵を絞って提供の頻度や品数を減らさず、利用者に負担も転嫁せず踏みとどまっている」と話す。

運営の負担を軽くし食堂の持続性を高めるには、各地域になるべく多くの子ども食堂をつくることが重要だ。近隣団体が順番に食事を提供すれば、各運営者の負担は分散され、子どもたちも毎週どこかの食堂にアクセスできるようになる。

むすびえは、全小学校区に少なくとも1つは子ども食堂が存在する社会を目指すとしている。現在、1つの小学校区に対する子ども食堂の充足率は全国平均25.92%で、4つの小学校区に最低1つ食堂がある、という計算だ。

民間団体の運営する子ども食堂だけで、目標を達成するのは限界もある。湯浅代表は「お寺やコンビニエンスストア、自治会、町内会など、さまざまな拠点に子ども食堂の機能をインストールすることで、社会の『支え合い』のスタンダードをつくりたい」と先を見据える。

(有馬 知子 : フリージャーナリスト)