隣県の県庁所在地どうしを鉄道で移動する場合、2023年と半世紀前を比較すると、むしろ所要時間が増加している例が多数あります。「遅くなった」順にワースト5位を調べてみると、国鉄・JRがどのような姿勢で成長してきたかが見えてきます。

秋田からは山形より東京へ行く方が早い!?

 鉄道は1872(明治5)年の開業以来、技術面でも進化し続けています。鉄道の歴史はスピードアップの歴史ともいえるでしょう。

 しかしその一方で、例えば2023年と50年前とを比べてみると、驚くべきことに至るところで列車は遅くなっています。厳密にいえば、所要時間が多くかかるようになっているのです。


上野〜秋田間を山形駅経由で結んでいた特急「つばさ」。国鉄京浜東北線の川口駅付近(1972年頃、内田宗治撮影)。

 そうした例は地方ローカル線で多いのですが、都市間でも同様の例が数多く存在します。地方の中心都市間の例として、隣県の県庁所在地へ鉄道で行く場合をみてみましょう。

 典型的な例が秋田駅から山形駅まで向かう場合です。午前6時09分発の秋田新幹線「こまち6号」に乗り大曲駅で下車、5分の接続でJR奥羽本線の普通電車に乗り換えます。ここから新庄駅までは普通電車しか走っておらず、約2時間かかります。新庄駅からは山形新幹線「つばさ136号」に乗り、山形駅到着は午前10時ちょうど。所要時間は3時間51分です。

 そして実は、秋田駅から乗った「こまち6号」は、上記の例で山形駅に着く13分も前、午前9時47分に東京駅へ着いてしまっています。秋田市にとって、隣の県庁所在都市の山形市は、なんと東京よりも遠い存在になっているわけです。

 なお50年前なら、秋田駅から山形駅へは、上記の例より42分も早い3時間9分で行けました。上野〜秋田間を山形駅経由で結ぶ特急「つばさ」が走っていたためです。

 次ページで示すのは、50年前と2023年1月現在とを比較し、隣り合う県の県庁所在地間について所要時間が延びた順のワースト5です。いずれもJR利用による最短所要時間列車をまとめました。

かつては急行街道だった各路線

●50年前より遅くなった隣り合う県庁所在都市間(1973年→2023年)
1位:津駅〜奈良駅、1時間40分→2時間16分(36分増し)
2位:秋田駅〜山形駅、3時間9分→3時間44分(35分増し)
3位:山形駅〜新潟駅、3時間37分→4時間2分(25分増し)
4位:津駅〜大津駅、1時間32分→1時間54分(22分増し)
5位:前橋駅〜宇都宮駅、1時間42分→2時間00分(18分増し)

 1位の津〜奈良間では50年前、津駅から急行「紀州2号」と急行「かすが2号」を乗り継いで1時間40分で奈良駅へ行けました。2023年は同じ区間に普通列車しか走っておらず、途中2回乗り換えが必要で、最短でも2時間16分かかります。

 ただし同区間は近鉄の利用が一般的で、近鉄名古屋線・大阪線とJR桜井線の乗り継ぎにより約1時間45分で行けます。この区間でJRは、近鉄との争いから手を引いた形です。


1966年3月、急行列車へ格上げされた「かすが」。国鉄関西本線経由で名古屋〜奈良間などを結んだ(画像:写真AC)。

 3位の山形〜新潟間では50年前、仙台発山形経由の新潟行き急行「あさひ」(仙山線・奥羽本線・米坂線・羽越本線・白新線経由)が2往復走っていました。当時は特に東北地方や中国地方で、ローカル線どうしを縫うように結んで走る急行がこまめに設定されていました。2023年1月現在、米坂線が2022年8月の大雨被害でバス代行輸送となっているので、上記時間は被災前のダイヤでの算出ですが、同区間では普通列車を乗り換えての移動となります

 4位の津〜大津間も50年前、紀伊勝浦発京都行きという複雑な経路(紀勢本線・関西本線・草津線・東海道本線経由)をたどる急行「くまの」が走り、両駅間を乗り換なしで行けました。2023年1月現在ではすべて普通列車(快速を含む)利用となり、途中で乗り換えも必要で時間がかかっています

 5位の前橋〜宇都宮間も50年前、両毛線に快速電車(高崎〜前橋間は急行)が走っていましたが、現在同線を走るのは普通列車だけです。

 こうした例は県都間だけでなく、同じ県内や道内の主要都市・観光地間でも見られます。札幌〜ニセコ間、盛岡〜宮古間、千葉〜館山間、下関〜長門市間、小倉〜飯塚間など多数挙げられます。

ローカル線でも所要時間が延びている

 またローカル線を見ても、只見線(会津若松〜小出)で50年前には急行「奥只見」が3時間16分で走破していたのに対し、2023年では最短の普通列車でも4時間26分かかっています。同様の状況は数多くのローカル線で見られます。

 もちろんこの50年間、東北・上越・北陸・山陽(岡山〜博多)・九州・西九州新幹線などの開業により、飛躍的に所要時間が短くなった都市間も多数あります。また在来線でも、例えば新宿〜松本間は50年前の所要3時間39分が、2023年では最短2時間29分にまで短縮されています。

 にもかかわらず上記のように遅くなった例が多数あるのは、急行列車の廃止や列車系統の変化のほか、特にローカル線の線路状態が悪く速度制限区間が長くなったり、無人駅が増えたことで1人乗務の運転士がきっぷの精算などをしなければならず、停車時間が長くなったりしたことも挙げられます。

 ざっくりといえば、JR(国鉄)はこの50年間、「大都市圏内輸送」と「長距離大量高速輸送」に力を入れ、地方都市間やローカル線内輸送には消極策で臨んだ結果です。

 所要時間が延びた例が、これだけ各地で見られるという実態を踏まえると、地域によってはスピード改善、本数増など利便性をアップすることで、鉄道復権の可能性のある地域・区間も存在することを示唆しているといえましょう。

【詳細】「ワーストランキング」50年前/2023年現在の最短経路

注)
・ワーストランキングは、午前7時〜20時発着の新幹線・特急を含む最短所要時間列車で比較。各時刻表1972年12月号、2023年1月号(米坂線は2022年7月現在)より。
・山形〜新潟間および前橋〜宇都宮間では山形・東北・上越新幹線を大宮乗継、秋田〜山形間では秋田〜仙台間を新幹線利用とすると所要時間は短くなるが、下記の一般的な例より運賃・料金が約2〜5倍となるのでランキング算出例からは除外した


新幹線の整備は、長距離大量高速輸送の典型(画像:写真AC)。

1位:津〜奈良
50年前(急行紀州2号+急行かすが2号)、2023年(紀勢本線普通914C+関西本線普通)
2位:秋田〜山形
50年前(特急つばさ1号)、2023年(奥羽本線普通2448M+山形新幹線つばさ)
3位:山形〜新潟
50年前(急行あさひ1号)、※2022年(奥羽本線普通428M+米坂線+羽越本線・白新線各普通)
4位:津〜大津
50年前(急行くまの)、2023年(紀勢本線938D+関西本線+草津線+東海道本線各普通)
5位:前橋〜宇都宮
50年前(両毛線快速4449M+東北本線普通)、2023年(両毛線普通449M+東北本線普通)