「出張中の夫が、なぜこのホテルに…？」32歳妻が“男の嘘”を見抜くために画策したコトとは

2022年12月24日 5時6分

人生のステージが変わるたび、女の友情はカタチを変える。

そしてドラマの舞台も…。夜の港区から、昼の港区に変わるのだ。

20代は深夜の西麻布で、30代は昼の麻布で。女たちは時に嫉妬し、時に優越感に浸る。

これは大人になった女たちが港区で繰り広げる、デイゲーム。

◆これまでのあらすじ

優子に頼まれ、優子の夫・平蔵と食事に行ったサトミ。その日の夜、優子から“緊急事態”と連絡が来る。

▶前回：夫に内緒で男と高級鮨デート。しかし、2軒目に誘われず撃沈…女が何気なくやってしまった過ちとは？

新たな疑惑

「わぁ、すごいマンション～！」
「そうだね」

土曜日の午後。

私は、菜々緒と一緒に、優子の自宅へ向かっている。

“緊急事態だから来てほしい”と、優子から、3人のグループLINEに連絡があったのだ。

優子の住まいは、ブリリア有明シティタワーの上層階。

ここに来る間に調べたのだが、共用施設にはラウンジやスパのほかに、ヨガができるスタジオや、エステを受けられるセラピールームもある。

「なんか夢があるなぁ～。こういうところに住めるように、仕事頑張ろうっと」
「……」

菜々緒の独り言のような意気込みに、特にコメントすることなく、私は廊下を静かに歩いた。

確かに、こんなに設備が充実していたら、外に頻繁に出かけなくても気分転換やストレス発散ができそうだ。

― まぁ、それでも私は港区がいいけど。

私は無意識のうちに込み上げてくるうらやましさを、グッと抑えながら、優子の部屋を目指した。

【登場人物】7年ぶりに再会した32歳女たち

「おじゃまします～」
「いらっしゃい」

私と菜々緒は、手土産のマカロンとシャンパンを優子に渡した。

「お気遣いありがとう」

優子の顔はなんだか暗く、化粧もしていない。

夫の平蔵は、娘ちゃんと出かけたのだろうか。家にはいなかった。

そのただならぬ様子に、私は菜々緒と顔を見合わせた。

「あ、サトミの息子ちゃんは、お留守番なんだね」
「うん。今日は、家で見てもらっているの。そんなことより、緊急事態って？」

私は、優子に迫った。

「うん…これ、見てほしいんだけど」

そう言って優子は、MacBookの画面をこちらに見せた。

そこには、宿泊予約サイトが開かれていた。私もよく使う見覚えのあるものだ。

「私と旦那ね、この宿泊予約サイトのアカウントを共有してるの」

優子は話しながら、予約履歴をクリックして、私たちに見せた。

そこには、東京のラグジュアリーホテルに2名で泊まった形跡があった。

「これが、どうかしたの？」

菜々緒がマカロンを食べながら言う。

「日付を見て。覚えてないかな？」

「あ。私たちが再会した“リリカの結婚式”の前日だね。……ん？」

私は記憶をたぐり寄せながら、違和感を覚えた。

「あの、結婚式の日。サトミは、子どもを旦那さんに預けてきたよね。私は横浜の実家に預けてきた」

「うん」

「それは、旦那が前日から、大阪出張だったからなのよ。でもね…」

優子は、言葉を詰まらせながら続ける。

「この宿泊予約サイトによると、彼は、東京にいたことになってるの。しかも部屋はスイートルーム。予約人数は2人」

― ！！！！

鳥肌が立った。

だって、ホテルのスイートルームに、男ひとりで泊まるはずはないだろうから。

「大阪出張は嘘だったってことか」
「うん。そういうことになるね」

菜々緒が言うと、優子はうつむきながら答えた。

「でも！誰かの予約を代わりに取ってあげたとか、そういう可能性はない？」

私はなんとか優子を励まそうと、とっさに無茶苦茶なことを言ってしまった。

その可能性が低いことは自分でもわかっている。

「ないと思う。これ、その日に旦那が送ってきたホテルの写真なんだけど。見て」

優子が自分のスマホを差し出す。

そこにはホテルの部屋でひとり微笑む平蔵がいた。

― ひとりで泊まってるよ～っていうポーズなのかな？

「……あれ？」

私は、ベッドのサイドテーブルが写っている部分を拡大した。

そこにある、チョコレートが見たかったのだ。

見る人が見ればわかる。これは、そのラグジュアリーホテルオリジナルのものだ。

「このラグジュアリーホテル、大阪には…ない」

私が言うと、優子は静かにうなずいた。

「あっ！！！」

菜々緒が大きな声を出したので、私と優子はビクッとした。

「どうしたの、菜々緒。何か他に気づいた？」

優子が聞くと、菜々緒は食べかけのマカロンをお皿に置いた。

「ううん。でも…リリカもその日、どこかのホテルに、男の人と泊まっていたみたいでさ」

私と優子の視線が、菜々緒に向く。

「そういえば菜々緒。披露宴の最中に化粧室で聞いたって言っていたよね？『新婦は妥協婚で、好きな人は他にいる』って」

私は、あの時のことを思い出しながら言った。

披露宴では結構お酒を飲んでいたから、何を話したかはほとんど覚えていない。

しかし、菜々緒から聞いたその話は衝撃的だったので、脳はちゃんと記憶していたのだ。

「その続きも、覚えてる？」

菜々緒がマカロンに手を伸ばしながら、私に聞いた。

しかし、答えたのは優子だった。

「………その好きな人は、既婚者」

「そう。私、化粧室でそのことを教えてくれた子と盛り上がって、なぜか連絡先を交換していて。離婚の理由も聞いたのよ」

さすが、いつもオープンで、サバサバしている菜々緒。

誰とでもすぐ友達になれる長所が、ここで生かされるとは…。

「リリカの、離婚の理由は？」
「あの結婚式の前日に、他の男性とホテルに泊まっていた。それが旦那にバレちゃったみたいよ」
「まじか…」

結婚式の前日に、他の男と過ごすなんて。

あの新婦は、一体何を考えているのだろう。

そんなのがバレたら、誰でも激怒するし、間違いなく離婚になり得る。

「菜々緒。リリカちゃんがその日に泊まったホテル、どこだかわかる？って、そこまでわからないか」

優子は、淡々と菜々緒に聞いた。変わらず顔色もよくないし、マカロンにもシャンパンにも口をつけていない。

― 優子…。つらいよね。

「そこまではわからないんだ。ごめん」
「でも、サトミが見ているんだもんね。リリカと平蔵が一緒にいるところを」
「そうなんだよね…」

2人には、隠し事をしたくない。

そう思い、あの日の夜、平蔵が一緒にいた女の人はリリカだった、ということも共有していた。

しばらく沈黙が流れる。

こんな話になる前は、この綺麗なタワマンに住む優子に軽く嫉妬していたのに、今はそんなことどうでもいい。

優子の味方になって支えてあげたい。そんな感情しか湧き上がってこなかった。

「菜々緒、私たちそろそろ帰ろうか」

私は長居しすぎるのも悪いと思い、とりあえず帰ることにした。

まだ16時だったが、集まった理由が理由なだけに、菜々緒ともこのまま解散する流れになりそうだ。

「優子がかわいそう。あの夫婦、仲がいいと思っていたのに」
「仲がいいのは間違いないんじゃないかな。男って、家庭に安心感があると浮気するって言うし」

そんな会話をしながら、私たちはマンションを出て、それぞれが呼んだタクシーで帰宅した。

私はその車内で、Instagramからリリカのアカウントを探すことにした。

― あ、あった。

フォロワーの中から「ririka」で検索をかけてみたら、簡単に見つかった。

私は彼女をフォローしていない。

しかし、リリカのアカウントには鍵がかかっていなかったので、投稿は自由に見ることができた。

他の男性と泊まったホテルなんて、載せるわけがない。

そう思っていたのだが…。

『今日は親友とふたりで#バチェロレッテパーティー！この日のためにスイートルームを予約してくれて、感激♡ 明日結婚式だから飲みすぎないようにしないと』

こんな文章と共に、1枚の写真が投稿されていた。

「嘘でしょ…」

そこに写っていたのは、シャンパングラスと、あのチョコレートだったのだ。