「何考えてるの？」2ヶ月間ほぼ毎週デートしているのに、進展なし。曖昧な男の本心とは
空前のゴルフブームが到来している今、ゴルフは男女の出会いの場としても有効だ。
30歳を目前に、いい出会いがなく焦りを感じていた森脇那月（29）も、ゴルフを始めたが…。
東京のゴルフコミュニティーに、ヒエラルキーが存在することを知る。
同じ思惑を抱く女性たちが集うこのコミュニティーで、那月は最後まで勝ち抜き、理想の男性を捕まえることはできるのか―。
◆これまでのあらすじ
▶前回：いいなと思った彼が離婚調停中だった！しかも、離婚原因は特にナシって怪しいけど…
Vol.3 華やかな、ゴルフ女子の世界へ
予定よりも少し早く起き、準備を整え、約束の朝6時20分を待つ。
今日は、大輝さんに誘われたゴルフの日。
鏡を見ながら念入りにメイクや服装をチェックしていると、スマホの通知音が鳴った。
『大輝：もう着くよ』
メッセージを確認して、すぐにマンションの1階まで降りてエントランスを出る。すると颯爽と大輝さんの運転する、黒いメルセデス・ベンツのGクラスが現れた。
「那月ちゃん、おはよう」
「大輝さん、迎えに来てくれてありがとう！」
彼に手伝ってもらいながら、車にゴルフバッグを積んだあと、助手席に座る。
麻由子に誘われてゴルフに行き、大輝さんと出会ったあの日から2ヶ月。
ふたりで何度か食事を重ね、仕事終わりに集合して神宮の練習場に一緒に行くなど、交流を続けてきた。
スペックよし、顔よし、さらに共通の趣味を持つ彼に恋心を抱くには、さほど時間はかからなかった。
ゴルフ以外の時間を共にすることも増えてきたし、定期的に会う約束も交わされていて、大輝さんが私に一定の興味を持ってくれているのは間違いない。
なのに、彼からの決定的なアプローチは、未だない。
男性は、余計なことに労力を使わないなんてよく聞く。
私との時間をこれだけ取ってくれていることを考えると、期待をしてしまう。
一方、明確な好意が見えず、これからどうやってより距離を縮めていけばいいのか、迷いあぐねていた。
一軍ゴルフ女子
車内で、ゴルフの話や次のデートの計画を立てているうちに、あっという間に『大千葉カントリークラブ』についた。
コンペの幹事は、ゴルフインフルエンサーのエリナ。
彼女のInstagramは、なんとフォロワー数4万人超。いわゆる“一軍ゴルフ女子”だ。
「僕以外知らない人ばかりだけど、大丈夫？」
「ちょっと緊張してるけど、楽しみ！」
インスタ上でキラキラと輝くエリナに実際に会えることに、期待の気持ちでいっぱいだった。
参加者は9名で、3組に分かれてコースを回る。
最初の組のスタート前に、参加メンバー全員が集まって、挨拶と顔合わせをする。
「今日は集まってくれてありがとうございます！初めましての方もたくさんいますが、1日を通してみんなと仲良くなりたいと思います、よろしくお願いします！」
エリナの挨拶に、拍手が起こる。
輪の中心となって場を盛り上げる彼女は、見た目が美しいだけではなく、参加者を巻き込むカリスマ性があった。
今日一緒の組で回るのは、エリナと彼女の友人だという同世代の男性だ。
組ごとにカートに乗り込んだところで、それぞれ挨拶を交わす。
「エリナさんのインスタ拝見して…オシャレでステキで、本当にお会いできるのを楽しみにしてたんです！」
嬉しい！と喜ぶエリナ。少しカジュアルテイストな『BEAMS GOLF』のウェアがお似合いだ。
「エリナはゴルフ業界で顔も広いし、いろいろ紹介してもらうといいよ！」
エリナの友人が会話に加わる。
「いつも違うウェア着て、いいコース回ってるでしょ？あれ、インフルエンサーとして案件でウェア支給されてたり、無料でゴルフのお誘いとかもあるんだって！」
「…オシャレって言ってもらえるのは嬉しいんだけど、彼の言う通り、案件でもらってるものも多いからね。もらった服をそのまま着てるだけなのよ」
エリナは謙遜して言っているようだが、少し自慢げにも聞こえた。
― 案件でのウェア支給や無料でのゴルフ参加なんて、遠い世界の話だと思ってたけど…。
こんな身近であったなんて、エリナのすごさを改めて実感させられた。
「…那月ちゃん、興味ある？」
「えっと…私とは全然違う世界の話だなと思っちゃって…」
「なに言ってるの〜！ゴルフ好きなら誰でも始められるよ。那月ちゃん可愛いんだから、ゴルフアカウントとか作ってみたら？
ゴルフ友達が増えるのももちろんだし、私みたいに案件がきて人脈が広がったり、自分じゃ行けないような名門コースにもたくさん行けるんだよ」
― エリナとうまく付き合えば、私も一軍ゴルフ女子になれるの…？
ゴルフを始めて気づいたことがある。ゴルフの世界にも、ヒエラルキーが存在する。
“美人で、ゴルフがうまい”
それだけで、ある程度ヒエラルキー上位に位置する。ゴルフ好きの男性たちから一緒に回りたいと望まれ、時には男性がコース代を全て支払ってくれることさえある。
だが、ヒエラルキーの頂点は、格が違う。
エリナのようにSNSをうまく活用し交友関係を築き、ゴルフ女子界のカリスマとして君臨している。そういった頂点の女子たちとゴルフ場を回り、彼女たちに認識されることが、ひとつのステータスになる。
「那月ちゃんと写真撮って〜！」
コース終盤、打ち下ろしのロングコースのティーグラウンドで、エリナの提案で写真を撮ることに。
「あとで那月ちゃんタグ付けして投稿するから、ゴルフアカウント作ったら教えてね」
新作の素敵なゴルフウェアをまとったエリナの隣に並ぶのは少し恥ずかしかったが、華やかな世界にいる彼女の仲間に入れたような気がして、少し嬉しかった。
今日のスコアは104。ベストスコアだ。100を切る壁は大きいというが、あと一歩の手ごたえを掴めた。大輝さんとの練習の成果だ。
「…那月ちゃん、今日はどうだった？」
帰りの車で運転席の大輝さんに問われる。
「とても楽しかった。エリナさんともたくさん話せたし！」
「よかった…！誘った甲斐があったよ。エリナはゴルフ業界の人脈も広いし、僕がいない時でも、またぜひ一緒に回ってみるといいよ」
― 僕がいない時でも…か。
私がゴルフやってるのは、大輝さんに会いたいっていうのもあるんだけどな。
大輝さんに不満を漏らしそうになったので、エリナのゴルフアカウントと覗いてみた。
コースを回っている写真や、ゴルフウェアを着た自撮り写真。
その日のスコアなどがまとめて投稿されている。それ以外にも、練習場での練習動画なども上がっていた。
どれもキレイで華やかで、憧れる気持ちもある一方、自分自身の写真をこれだけ惜しげもなくSNSにあげている彼女からは、溢れ出る自信を感じた。
「エリナ、すごいよね、ゴルフ女子インフルエンサーとして有名人だから」
「うーん。ステキだなと思うけど、自撮りとか上げるの、ちょっと恥ずかしくて…」
「まずは友達と撮った写真とか、上げやすいものからやってみたら？」
大輝さんの提案を受けて、会話のネタになるならと思い、ゴルフアカウントを作ってみることにした。
ゴルフ女子必須のInstagram
エリナと出会って2ヶ月。
大輝さんや、エリナからもまたお誘いを受け、何度かコースを回ったり、お互い友人を連れてゴルフ練習を楽しんだりしていた。
その期間、大輝さん以外にも、ゴルフを通した男性との出会いは多々あった。
どの人もハイスペックで、ゴルフ場での出会いがいかに優良か毎度実感させられる。
といっても、大輝さんが一番魅力的だし、性格が合うように思う。
彼とは、定期的に会っているが、進展はしていない。
それでも、私は、ゴルフに関わる機会がある度に積極的に写真や動画を撮るようにし、ゴルフアカウントの投稿も日々充実していっていた。
「もう8,000人も…」
フォロワー数は、投稿数に比例するように着々と増えていく。
エリナにタグ付けで写真を上げてもらったことも大きく、短期間で、これまで使っていた個人アカウントの10倍以上ほどのフォロワー数となっていた。
◆
今日はエリナに誘われ、ゴルフバーで食事会だ。
「那月ちゃん、インスタどう？」
少しシミュレーションゴルフを楽しんだエリナさんが、休憩に私の隣の席に座る。
「エリナさん効果でフォロワー数激増です…こんなフォロワーいるアカウント運用したことないから、投稿するの、いちいち緊張します…」
そんな話をしていると、スマホが鳴る。
― 誰からだろう…？
InstagramのDMの通知だ。
覗いてみると、知らない男性からのDMだった。
どうしたの？という表情でこちらを見ているエリナさんに、スマホの画面を見せる。
「ゴルフ雑誌の編集長をしてるって人からDMが来て。今度開催する女性限定のゴルフコンペのお誘いって書いてあるんですけど、これ、怪しいやつですかね…？」
「あー。私も知ってる人だよ！結構こういうコンペとかやってて、いろんな子にSNS経由で声をかけてるみたい」
突然のDMに、怪しい人かと一瞬疑ったが、エリナさんも知っている人と聞いて少し安心した。
「那月ちゃん！そういう時のためのゴルフアカウントだよ！
怪しい人か不安になったら、その人のフォロワーに共通の友人がいないかとかチェックすれば大丈夫！安心材料としてうまく活用しないと」
確かに。知らない人からの連絡でも、その人が誰と繋がっているかで身元が確認できるのは安心だ。
「それでも不安な時は相談してくれればいいよ。最近は大手の案件とかも普通にDMで最初に連絡が来ることがあるから、最初は戸惑うと思うけど、チャンスを見逃さないように！」
エリナさんの言葉に安心して、もう一度、DMを確認する。
ゴルフウェアメーカーが主催する、女性限定のゴルフコンペのようだ。
ウェアも支給され、当日の写真をSNSに投稿することが条件で、無料で参加できるというものらしい。
「那月ちゃん、気になるなら行ってみたら？参加者は女性だけだし！安心して楽しめると思うよ！」
エリナさんの言葉に後押しされて、私は、DMで参加したい旨をすぐに返信する。
コンペは来月末。たくさん練習をして、ベストスコアを目指して頑張ろうと、私は、立ち上がってゴルフクラブを握った。
無料のゴルフコンペに招待された自分自身に少し浮かれ、ここでまたステキな出会いがあると、私は期待していた。
ただ、DMの送り主のInstagramを見ていると、少し引っかかることもあった。
― 若い派手な女性たちと写る写真ばっかり…？
▶前回：いいなと思った彼が離婚調停中だった！しかも、離婚原因は特にナシって怪しいけど…
▶1話目はこちら：「イイ男がいない」と嘆く29歳女が見つけた、最高の出会いの場とは
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「なんか思ってたのと違う」コンペに参加するゴルフ女子たちには、ゴルフ以外の目的が…？
