広報活動における「繋がり」不足を乗り越えるために実践したい、「メディアとのコミュニケーションの本質」についてお伝えします(写真:mits/PIXTA)

いま、「ひとり広報」が注目されています。厳しいビジネス環境下で思うように集客できなくなったり、消費そのものが抑制されたりしたことにより、ファンづくりの重要性を認識し、「広告から広報へ」という考えにシフトしている企業が多いためです。「最近、広報活動が大事と聞くし、うちもそろそろ」といった感じで広報部門ができ、未経験の人が「ひとり広報」として任命されることが増えているのです。

話題の移り変わりが速い現代では、フットワークが軽い「ひとり広報」だからこそ、強いとも言えます。しかしひとり広報は、「知識・情報・話題・時間・繋がり」が不足しがちです。その「5つの不足」を乗り越える83の戦略を紹介しているのが、新刊『ひとり広報の戦略書──認知と人気を全国レベルにする「知ってもらえる」すごい方法』です。

著者は、飲食店や食品、人材、IT、住宅、家電、ヘルスケア業界などの大手企業からベンチャーまで、さらにはNPOや地方自治体など、約5年間で30社以上の広報業務をサポートしてきた小野茜氏。2022年には「PR TIMES」によって「プレスリリースエバンジェリスト」に認定されるなど、日々精力的に活動する現役の「ひとり広報」です。

この記事では、「つながり」の不足を乗り越えるために実践したい、「メディアとのコミュニケーションの本質」についてお伝えします。

「メディアに出る」ことが広報の本質ではない

「とりあえずテレビに出してくれればいいよ」

「あの番組に出たいんだけど」

「雑誌で特集してもらえないかな?」

過去、そんなオーダーをいただいたことは何度もありました。もちろん悪いことではないし、リレーションづくりのきっかけとして、知ってもらう・興味を持ってもらうためにメディア露出は重要です。

しかし、メディアに出たいがためだけにメディアとのネットワークを築こうとするのは、少し違う気がしています。自社の利益だけを考えるのは、本当の意味でのリレーションづくりとはいえないでしょう。

広報は何を目指して活動すべきなのでしょうか。

「いいネタを考える」「たくさんのリリースを出す」「ひとつでも多くの媒体で取り上げられる」……。

いずれも広報活動においてはすごく大切なことではありますが、PRとは「Public Relations」の頭文字であり、リレーション(関係性)づくりこそ、広報が目指すべきものです。

厳しい現実を突きつけるようですが、ひとり広報にとっては、「自分で」関係性をつくる努力は欠かせないと思います。

大企業の広報部であれば、メディアリレーションもPR会社に任せたり、過去の積み重ねによる関係性があったり、先輩や上司が関係性を持っていたりするでしょう。あるいはメディア側に、企業の動向をウォッチし続けてくれる担当記者が存在することもあります。

しかし、ひとり広報にはそうしたアドバンテージがありません。ひとりずつていねいにリレーションを育み、それが途切れないように関係性を保つ以外に方法はないと思っています。リソースが限られるひとり広報こそ、ひとつのご縁をつないでいくことがとても重要なのです。

広報がつくるべきリレーションとは、つまり人間関係です。そのため、コミュニケーション能力は不可欠です。

スナックが教えてくれたコミュ力

とはいえ、私のコミュ力はお世辞にも高いとは言えません。人見知りはするし、会話も苦手だし、愛想がいいわけでもありません。いつも笑顔で話の中心にいる人を見ると、心底羨ましいなと思ってしまいます。

そこで、じつはいま、月に数回、スナックで副業をしています。

スナックは、立場や肩書き関係なく、その場での会話を目の前のお客様と楽しむ一種の独特な空間です。ここは私にとって、自分のコミュニケーション能力を鍛錬する場になっています。

苦手意識があるからこそ、自分なりに、そう見せない工夫や研究をしてきました。そのひとつが、スナックでの副業だったのです。

ここでの経験は、コミュ力強化にかなり役立っていると感じます。そんな特殊な経験のなかで見出した、広報に必要だと思う3つのコミュ力があります。

それは、「マメさ」「印象付け」「誘い上手」です。ひとつずつ、ご説明していきます。

人間関係は、築くことよりも維持することのほうが難しいものです。一度できた仲を保つためには、継続的にコミュニケーションを取り続けることが大切です。

そのためには、マメであることが欠かせません。私が尊敬する広報の大師匠は、日に数十通のメールを送り、毎日数通の手紙や資料などを送っています。それが強固なリレーションにつながっているところを目の当たりにすると、やはりマメなコミュニケーションと、それを楽しむことが、広報にとって成功への近道だと思い知らされます。

でも、心のこもっていないマメな連絡はむしろ逆効果です。定型的な告知や一斉連絡、あるいは一方的な告知などを仮にこまめにもらっても、うれしくはなりませんよね。相手を想ってコミュニケーションしなければ、良好な関係にはなり得ないのです。

そこで私は、誰かを思い出したときには、たとえ一言でも連絡を入れるようにしています。気の利いた言葉をかけるというより、挨拶をするくらいのものです。

「ご無沙汰していますが、お変わりないですか? ニュースを見ていて〇〇さんのことを思い出しました。その節は本当にお世話になりました」

みたいな感じです。知らないところで自分を思い出してくれるのって、ちょっと嬉しいですよね。こうした一言からやりとりが始まり、「じつはこんな企画があって、何か情報ありませんか?」と、メディア露出の話に進展することもありました。

話題や情報がなくても、誰かを思い出して「話したい」と思ったら、ぜひ連絡してみてください。

「私から聞いた話」と印象づける

広報にとって何よりも悲しいのは、「忘れられる」「認識されていない」ことです。それでは成果にならないばかりか、次にもつながりません。

そのため誰か新しい人に出会ったら、「〇〇さんはこんな人だったな」と印象付けて、記憶に残すことが重要です。

広報は商品やサービスなどを世に出していく役割なので、自分自身の露出やブランディングは不要。

そう考える方もいるかもしれませんが、私はそうは思いません。情報を伝搬させるために「何を言うか」も大事ですが、「誰が言うか」のほうがさらに大事な時代だと思っているためです。たとえ同じ情報でも、誰がどんなふうに言うかで記憶に残りやすくも、つまらなくもなります。

だからこそ、「小野さんが言ってたことが興味深くって……」と、私から聞いた話だということをしっかり印象付けることが、情報が伝搬する確率を高めると確信しています。

そのために心がけることは、「見た目の印象」と「話題の印象」のマッチングです。

たとえば私の場合、ゴルフにハマっているのですが、いい歳して日焼け対策をあまりしていません。グローブをはめる左手と、日焼けした右手の肌の色がまったく違うので、名刺交換で手を差し出すとよく「ゴルフするんですね?」と気づかれます。

そこで、ゴルフ話をひとつ挟むんです。すると「小野さんはゴルフする女性だったな」と記憶に残り、後日に連絡したときも思い出してもらえる確率が高まります。

この「見た目×話題」をリンクさせることが、自分を印象付けるコツです。

直接だろうが間接だろうが、相手との「接触」が人間関係を深めます。不快にさせず、さりげなく、受けたくなるように誘う。そんな誘い上手が、広報においては有利なのです。話を聞いてもらう、会ってもらうという約束を取り付けるためには、絶対に必要なことです。

プレスリリースをメールや郵送でひたすら送り続けるだけでは、メディア露出への道はなかなか拓けません。「断られてもいいからお誘いしてみる」という気持ちを持つことが大切です。

とは言いつつも、お誘いするのはやっぱり少し緊張しますよね。そこで私は、メールでも対面でも、共通の話題で盛り上がったり、共感し合えたりしたタイミングで「よかったら今度ランチでも……」と、会う約束を提案するようにしています。


たとえばオフィスが近いとか、趣味が同じとか同郷とか、何か共通点が見つかるとその話題で盛り上がりますよね。そこが狙い目です。共通の話題に関するお誘いをしてみましょう。

そのためには、自分の持っている話題に付随したアポイントの口実を持っておくのがおすすめです。たとえばワイン好きなら、ワインにこだわったお店の情報。地方出身者なら、郷土料理を食べられるおすすめのお店などです。

そこまでセットで用意しておけば、共通の話題で盛り上がったときに「いいワインをセレクトするお店があるのですが、よかったら今度行ってみませんか?」と、自然にお誘いできます。アポイントに使えそうな情報を日頃から集めてみましょう。

マメに連絡して覚えてもらい、印象付けによって記憶に残し、さりげないお誘いで会ってもらう。この3つの力を意識できれば、徐々にリレーションは構築されていくでしょう。

「人」の存在を忘れた広報に、成功はない

リレーションにはかならず「人」が介在します。そのため、取り上げるメディア側のメリットを考慮したり、ユーザーとの関係性もきちんと見つめたりもすべきでしょう。

記事冒頭の「テレビに出たい」という発言には、そういった「人」の存在が感じられません。

メディアに出ることで誰に何を伝え、伝えた相手にどうなってもらいたいのか。その先まで想像を巡らせ、メディア露出の向こう側まで広報活動をていねいに創造することが、本来の広報の役割であり、成果への最短距離なのだと思います。

(小野 茜 : 株式会社EAT UNIQUE代表・広報パーソン)