北朝鮮からの仮想通貨を標的としたサイバー攻撃は、2021年には4億ドル(約560億円)規模のマーケットに対して7回の攻撃が北朝鮮から行われていたり、2020年と比較して被害額が40%増加していたりと、増加の一途をたどっています。国連の専門家によると、サイバー活動によって集められた資金は、弾道ミサイルや核計画など北朝鮮政府にとって重要な活動に使用されているとのことです。

How North Korea became a mastermind of crypto cyber crime | Financial Times

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北朝鮮のハッカーによる仮想通貨の盗難は年々悪化しており、ビットコインの被害は減少している一方でイーサリアムやその他の仮想通貨の被害割合が増加しているなど、サイバー攻撃の標的となる範囲がかなり広くなっていると指摘されています。範囲が広くなっている理由としては、盗まれたイーサリアムやその他の仮想通貨はビットコインと交換され、その後さらに新しいウォレットに送信されることでロンダリング(洗浄)が行われる点にあります。

北朝鮮のハッカー集団による仮想通貨の盗難が年々増加&手口も悪化している - GIGAZINE



2022年の初頭には、100万人以上のアクティブなプレイヤーを持つオンラインゲームで発行されるデジタルトークンが攻撃され、6億2000万ドル(約870億円)相当のイーサリアムが盗まれています。この事件は後に、北朝鮮のサイバー犯罪グループが関わっていたとFBIの調査により判明しています。アメリカの仮想通貨分析会社であるChainalysisは、北朝鮮が2022年の1月から9月までで、交換所で確認されたものだけで約10億ドル(約1400億円)の仮想通貨を盗んだと推定しています。

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国際制裁を監督している国連の専門家によると、北朝鮮のサイバー犯罪活動によって集められた資金は、国内の弾道ミサイルと核開発計画への資金提供として役立っているとのことです。また、アメリカのサイバーセキュリティを担当する国家安全保障副補佐官であるアン・ノイバーガー氏は、「北朝鮮はサイバー攻撃を利用して、ミサイル計画のための資金の最大3分の1を獲得しています」と述べています。

さらに、仮想通貨の取引所がますます分散化され、商品やサービスが増えるにつれて、仮想通貨を標的としたサイバー犯罪の問題は、今後10年間で悪化していく可能性もあると専門家は警告しています。



英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)で金融犯罪・セキュリティ研究センターのリサーチアナリストを務めるアリソン・オーウェン氏は、北朝鮮によるサイバー犯罪が加速している原因について「仮想通貨の規制に関して、私たちは本来必要なレベルを実施できていません。各国は正しい方向に規制やセキュリティ面を強める努力をしていますが、北朝鮮は制裁を回避するための方法を引き続き模索し、創造的な方法を見つけ出すでしょう」と説明しています。また、北朝鮮は国を挙げてハッカーを育成しているという指摘もあり、Chainalysisの調査担当副代表であるエリン・ブランテ氏は、「彼らは、サイバー関連に優れた人材を早期に特定し、政府機関で訓練し、世界中の国や組織に送り込むことで、社会と文化に組み込みます。アジア太平洋地域全体にこれらのハッキング組織があります」と述べています。

アメリカ政府は、北朝鮮の資金洗浄に関与したと見られる仮想通貨ミキシングサービスを制裁したり、北朝鮮で「仮想通貨で経済制裁を回避する方法」をプレゼンした専門家に懲役判決を下したりと、北朝鮮のサイバー攻撃を支援する動きの規制を強めています。しかしその一方で、北朝鮮のハッカーによる被害は顕在化しているにもかかわらず、「ハッカーの動きを追跡することは困難であり、その活動を止めることはさらに困難です」と、イギリスの経済紙であるフィナンシャルタイムズは述べています。過去に告発された北朝鮮ハッカーらは、ハッキングやサイバー窃盗での役割を理由に裁判にかけられたことはないとアナリストは指摘しており、政府によるサイバー犯罪に関与した人の告訴や銀行・取引所への取り組みは、北朝鮮による仮想通貨の悪用を意味のある形で防げてはいないとのこと。

ソウルを拠点とする情報サービス企業のサイバーセキュリティ専門家であるニルス・ヴァイセンゼー氏によると、仮想通貨を使用して購入できる商品やサービスの数が増えることで、北朝鮮は伝統的な金融システムの規制を回避できるようになり、アメリカやその他の政府が影響力を行使できなくなると予測されるそうです。ヴァイセンゼー氏はこれを「技術の進歩により、北朝鮮のサイバー犯罪をより深く分析できますが、同時に技術の進歩が仮想通貨の効力を上げ、サイバー犯罪が手の届かない範囲まで広がっています」と表現しています。