手術中にサックスを演奏する患者(画像は『CBS News 2022年10月14日付「Man plays his saxophone through 9-hour, “very, very complex” brain surgery to remove tumor」(COURTESY OF PAIDEIA INTERNATIONAL HOSPITAL)』のスクリーンショット)

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イタリアで今月10日、35歳の男性が脳腫瘍の摘出手術を受けた。サックス奏者の男性は脳手術の影響により自身の演奏能力が失われてしまうことを恐れ、手術中に意識を保てる「覚醒下手術」を受けることを選択し、9時間に及ぶ手術を受けながらサックスを演奏し続けた。医師らも演奏される曲を事前に正確に覚える必要があったという驚きの手術について『CBS News』などが伝えている。

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開頭手術中に意識があるという体験をしたのは、イタリアで音楽家として活動する35歳の男性だ。名前は“C.Z.”とだけ明かされているこの男性は、脳腫瘍の摘出のためにローマの「パイデイア国際病院(Paideia International Hospital)」にて手術を受けることになった。

しかし担当医で脳外科医のクリスチャン・ブローニャ氏(Christian Brogna)によると、この男性の脳腫瘍は複雑な場所にあり、術後に脳機能の障害が起きる可能性があったという。演奏を生業としキャリアを積んでいた男性は自身の演奏能力を失うことを恐れ、「覚醒下手術」の専門家であるクリスチャン氏を頼った。

覚醒下手術とは脳機能を温存しながら脳腫瘍を摘出するもので、患者の意識がある状態で会話や手足を動かしたりすることで脳機能に影響がないことを随時確認しながら手術を進めていく。今回の場合はサックス演奏に関する機能を維持したかったため、手術を受ける男性は開頭手術を受けながらサックスを吹くことになった。

手術当時の様子を撮影した動画には手術台に横たわる男性の姿が映っており、男性はサックスを手にして穏やかな曲調の音楽を演奏している。男性の上半身はやや起き上がっている状態で、頭部では医師が腫瘍の摘出手術を行っている様子も確認できる。9時間にも及ぶ手術の間に、男性は1970年の映画『ある愛の詩』の主題歌やイタリア国歌などの曲を演奏し続けた。

クリスチャン氏はこの覚醒下手術について以下のように語っている。

「楽器を演奏するというのは、高次認知機能により音楽を理解しているということです。つまり楽器を演奏し、両手を動かし、記憶力を行使し、数を数えることができる能力を確認できます。音楽は数学でもありますからね。さらに患者は楽器を見なければならないので視覚のチェックもできますし、手術チームの人間と対話ができるかどうかも確認ができます。」

「脳を手術することは患者の感覚の領域を手術することになるので、患者の人格や感情の感じ方、人生の歩み方など1人の人間として患者を傷つけないようにしなければなりません。患者は自身の人生において何が重要であるのかを教えてくれるはずなので、その意思を守ることが仕事なのです。」

クリスチャン氏は年間約50件の覚醒下手術を行っており、「患者にそれぞれ個性があるように、脳にもそれぞれ個性があるので、医師は患者をよく知る必要があります」と述べている。今回も手術前の約10日間に男性と6〜7回面会し、どの機能を残すことが男性にとって一番重要なのかなどを丁寧に話し合っていた。患者の要望を最大限取り入れることから、クリスチャン氏は覚醒下手術のことを「大々的なオーダーメイド手術」と呼んでいるそうだ。

“患者をよく知る”という部分に、今回は患者が演奏する曲についても含まれていた。手術を行う医師らは手術前に曲について勉強し、手術中に間違った音が出たりリズムが変化した場合に気付けるよう徹底的に頭に叩き込んだそうだ。こうしたクリスチャン氏の綿密な準備と努力のおかげで男性の脳腫瘍摘出手術は無事に成功し、手術から3日後には退院することができた。

ちなみに2020年にはインドで、9歳女児が脳手術中にピアノ演奏やビデオゲームをしたというニュースが注目を集めていた。

画像は『CBS News 2022年10月14日付「Man plays his saxophone through 9-hour, “very, very complex” brain surgery to remove tumor」(COURTESY OF PAIDEIA INTERNATIONAL HOSPITAL)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 iruy)