電車の座席に座るとお尻がポカポカ――これは座席の下の暖房装置によるものですが、この暖房システムが生まれ変わるかもしれません。世界初となる「繊維のヒーター」の開発が進められています。

座席の生地製造100年の企業が挑戦する“世界初”

 冬場に電車の座席に座ると、お尻や脚がポカポカという経験、あるのではないでしょうか。これは、遠赤外線ストーブや電気ストーブなどで使われている「シーズヒーター」という暖房装置が座席の下に設置されているためですが、将来、この装置が不要になるかもしれません。


電車の座席。座面下の銀板の中にヒーターがある(画像:写真AC)。

 というのも、座席の生地そのものがヒーターになる装置の開発が進められています。発熱効果のある糸で織られた“布製ヒーター”、それが実用化されると、乗客が自分で、各々の座面を暖めることも可能になるかもしれない、というのです。

 この布製ヒーターを鉄道の座席へ実用化すべく研究開発を進めているのは、大阪市に本社を構える日本シール株式会社。1922年に創業した100年の歴史を誇る「モケット」のメーカーです。モケットとは、電車やバスの座席に使われている生地のことで、日本シールは鉄道車両におけるモケットの老舗メーカーといえます。

 なぜ布製ヒーターの開発を始めたのか、日本シールの担当者は次のように話します。

「環境にやさしい車両開発の一環です。通常の鉄道車両に使われているシーズヒーターはニクロム線を発熱させており、重量も消費電力も大きくなりますが、発熱体を生地にすることで、軽量化や燃費改善、省電力化が可能となります。またニクロム線のように断線することがなく、シート形状に合わせて縫製しクッションに内蔵させるので、座席下スペースの有効活用にもつながります」

 電車のシートも脱炭素の時代のようです。では、発熱効果のある糸でできた布製ヒーターとは、どういったものなのでしょうか。

暖房スイッチが“各席”につく?

 電車のシートの布製ヒーターとして活用が考えられているのが、三機コンシスが開発した「ホットピア(HOTOPIA)」と呼ばれる世界初の布ヒーターです。これは銀の繊維がニット上に編み込まれ、その繊維1本1本が発熱するという、今までにないヒーティングシステム。普通の布とまったく変わらない性能がありながら、電気を流すことで、発熱やセンサーの機能を発揮するのです。

 その厚さは0.1mm以下と極めて薄く、生地下のクッション材に内蔵することで、座席を温める仕組みだそうです。

 具体的な仕様はまだ検討段階とのことですが、たとえば2人掛けシートに採用し、両方のひじ掛けなどにスイッチを設置することも可能と考えているそう。これまでのように座席全体を一括で温める方式ではなく、乗客がスイッチを操作し、各自の座席を温める方式も想定しているそうです。こうなれば、暖房の消費電力も減り、座席下の暖房装置が不要になることで車両の軽量化にもつながるとのことでした。

なお、車両によって差はあるものの、いまより約5割、消費電力を削減することが目標だそうです。


最近の車両のヒーターは小型化されているといっても、基本システムは変わっていない(画像:写真AC)。

 ただ、実用化に向けてはまだまだ課題も。どこまで車内を暖めることが可能になるか、コストはどれくらいかかるかといった基本的なことに加え、鉄道やバス特有の揺れや着座時の耐久性など、確認すべきポイントは多いそうですが、日本シールは2023年末までに、安全性などを確認する試験走行の実施を目指すといいます。