村上宗隆だけじゃない。ヤクルトの未来を担う長岡秀樹&内山壮真の才能を宮本慎也が解説
新型コロナウイルスの集団感染により、高津臣吾監督はじめ主力選手が大量離脱するなど、球団史上最大の危機に見舞われたヤクルトだが、2位の阪神に9.5ゲーム差をつけるなど、セ・リーグを独走している。
※成績は8月6日現在、以下同
主砲・村上宗隆の活躍は言うまでもないが、高卒3年目の遊撃手・長岡秀樹と高卒2年目捕手・内山壮真の躍動がチームに勢いをもたらしたのは間違いない。ここまで長岡は94試合に出場し、打率.252、7本塁打をマーク。内山は先発24試合を含む51試合に出場。今では中村悠平に次ぐ2番手捕手としての地位を固めている。
今回、このふたりの現在と未来について、ヤクルトOBの宮本慎也氏に語ってもらった。
ヤクルトのレギュラー遊撃手として奮闘中の長岡秀樹
「長岡は僕の著書を持って入寮したと聞いていたので、気にしていました(笑)。ここまで大きなケガをせずに、体が大きくなっているのがいいですよね。これはいい選手になっていくための大事な要素なんです。正しいトレーニングをして、いい筋肉をつけていけば、スピードが落ちることなくパワーも増す。そういう意味で、これからが楽しみな選手です」
長岡は、今春のキャンプは二軍スタートが決まっていたが、村上がコロナに感染したことで一軍キャンプに参加することになった。キャンプ、オープン戦で結果を出し3月25日の阪神との開幕戦にスタメン出場を果たすと、その後もショートのレギュラーを獲得。
疲労により調子を落とした時期もあったが、高津監督からの「空に向かって打て」という言葉を胸に、思いきりのいいスイングで打線を活気づけている。
「高津さんの言っていることはすごくいいと思います。今は投手のレベルが上がっていて、コツコツだと点がとりづらい時代になっている。バッティングの形自体はいいところもあるし、直したほうがいいところもありますが、あれだけ振れるというのは大事なことです。細かいことを言うと、『三振をしたくない』と少し丁寧に(打席に)入った時のスイングのほうがいい。このスイングでフルスイングできるようになれば、もっと打率は上がってくると思います」
守備のほうも試合を重ねるごとに安定感が増している。
「性格ってプレーのなかですごく出るのですが、長岡を見ていると丁寧にやる選手なのかと。やみくもに前に出るというプレーは見たことがない。スローイングミスもほとんどありませんが、ただ焦った時に乱れることがあります。本当にスローイングのいい人は焦っても乱れないので、今後はそのあたりが課題になるでしょうね」
丁寧なプレーのなかで、脳裏に焼きつくようなビッグプレーも見せるようになった。
「プロのレベルに達しているからここまで試合に出られているのですが、これからでしょうね。守備範囲でいうと、まだまだ広くできる可能性がある。足はそこまで速くないと思うので、より予測が大事になってきます。いま長岡に声をかけるとすれば、『この3年を死に物狂いで野球をやれ』と。最近は、ホップ・ステップ・ジャンプのホップで止まる選手が多く、長岡には何としてでもジャンプまで行ってほしいですね」
そのために、宮本氏は「24時間、野球のことを考えてほしい」と言った。
「野球が夢にまで出てくるくらいの3年間にしてほしい。時代は変わっても、執念のある子とない子とでは差が出てきます。考えが古いと言われますが、どこの世界でもここ一番の執念や根性のある人が成功していると思います。長岡には野球を突き詰めてほしいと思います」
中村悠平を脅かす存在に内山は一軍キャンプでスタート。高津監督からキャンプのMVPに指名されるなど、長岡と同じく結果を残し開幕一軍を勝ちとった。開幕6戦目(巨人戦)で捕手としてプロ初先発。バッティングは一軍ピッチャーの変化球やキレに苦しんだが、経験を積むことで克服。1割を切りかけていた打率は2割4分台まで上昇。守りでも、飽くなき探究心で引き出しを増やし、序盤に崩れかけていた試合を立て直す能力の高さを見せている。
思いきりのいいバッティングが魅力の内山壮真
「バッティングはプロに入ってきた時からいいと感じていました。リードに関してはそこまでじっくり見ていないのでなんとも言えませんが、『バッターが見えているな』という印象はあります。『いまタイミングが合っていたな』とか、『このボールを狙っていたな』といった感じで、なんとなく見えているんじゃないでしょうか。
キャッチャーって時間のかかるポジションで、ムーチョ(中村悠平の愛称)も30歳を超えてやっと一人前になった。それを考えれば、すでにバッターが見えているのなら大きなプラスです。見えない選手はいつまでたっても見えませんから。内山は、身長は低いですが、もっと体に厚みを出していけば、今はコリジョンルールがあるので心配ない。本当の意味でムーチョを脅かす存在になってほしいですね」
宮本慎也が語る捕手と遊撃手の関係ここで話題を少し広げたい。以前、森岡良介内野守備・走塁コーチに「キャッチャーとショートの関係がいいと、チームに好影響を及ぼすことはありますか」と質問したことがあった。なぜこの質問をしたかと言えば、キャンプから始まって、オープン戦、公式戦と長岡と内山が一緒に行動する姿を何度も見たからだった。
すると森岡コーチは少し考え、「あります。(宮本)慎也さんと古田(敦也)さん」と答え、こう続けた。
「古田さんがキャンプで臨時コーチをされた時に、慎也さんの話がいろいろ出てきたんです。逆に、慎也さんが現役の時に、『古田さんの意図していることを予測して守っている』という話を聞いたことがありました。捕手の配球を理解することで、一歩、半歩届かなかった打球に追いつくことがある。チームがずっと強くなるという意味では、そういった力を磨いていかないといけないと思いますね」
このことを宮本氏に伝えると、古田氏との関係性についてこう話してくれた。
「本当に古田さんの一挙手一投足を必死に見ていました。この間、古田さんと仕事で一緒になった時に『この人は隙を見せないからね』と言ってくれたのはうれしかったですね」
古田氏がけん制でセカンド走者を刺しにいく時はノーサインだったという。
「なんとなく『いつでも入れますよ』という合図を出して、バッターが空振りした時を狙うというのはサインプレーではなくできていました」
こうした関係性はどんなセンターラインを生み出すのか。
「ゲームを動かせますよね。古田さんのようなキャッチャーがいて、そこにセカンド、ショートが加わってくれば、安定したチームになると思うんですよね」
「ゲームを動かす」というのは、どういうことなのか。宮本氏が説明してくれた。
「このカウントなら動いてくるなとか、ピッチャーが一本調子になっていたら声をかけたり......そうすることで進塁を防いだり、失点するにしても最少失点で抑えたりできる。チームの勝つ確率を少しでも上げるための予測。それがゲームを動かすということです」
ただ、そこに到達するには時間と経験が必要になってくると、宮本氏は言う。
「野球って数ミリの世界での勝負ですからね。今は長岡のほうが経験を積めているので、マウンドに集まった時の中村の声かけを聞いて『ここは動いてくる場面だな』とか、その意図を汲みとれるようになればと。時間はかかりますけど、そこで得たことを内山や若い選手に言えるようになるのが理想ですよね」
ふたりには"強いヤクルト"のセンターラインとしての成長が期待される。
「こればかりはわからないですけど、今は完全に村上のチームなんですよ。村上が防波堤になっているから、ほかの選手が自由にできる。チームの責任を村上がすべて背負っている。だから、山田(哲人)が本調子じゃなくても、それが目立ちませんよね。
ただこの先、村上がメジャーに行くことだって考えられる。そうなった時に、長岡や内山が表に出て力を発揮しなければいけない。それが主力というものなんです。それに備えて、今のうちから経験を積んで、力を蓄えてほしいですね。でも、高卒2年目、3年目でここまでできているのはたいしたものです。僕の大学2、3年の頃を考えたら想像もつかないし、すごいなと思います」
高津監督の「育成しながら勝つ」というチームづくりを、長岡と内山は体現しているのである。