「肝性脳症」になると現れる症状はご存知ですか?医師が解説!

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肝性脳症は肝臓の重篤な機能低下により、意識障害や異常行動、認知機能の低下、性格変化などの精神神経症状が認められる状態です。症状の現れ方は程度によって異なり、昏睡度分類で表されます。程度が重いと深い昏睡状態になり、早い対処が望まれます。
今回は、肝性脳症の昏睡度ごとの症状や原因、治療方法など、肝性脳症についての知識を深められる内容を詳しく説明します。

肝性脳症とは

肝性脳症とはどのような病気ですか?

肝性脳症とは、肝硬変などの重篤な肝疾患によって意識、認知、感情、行動などの異常をきたす精神神経症状が現れる状態です。本来ならば、肝臓で処理されるはずのアンモニアなどの有害物質が血液中にたまり、脳に達することで意識障害を生じます。
症状の程度は、自覚症状がほとんどない状態から昏睡まで多岐にわたります。

肝性脳症の症状

肝性脳症ではどのような症状がみられますか?

精神症状として、自発性の低下、動作緩慢、日中の傾眠傾向、イライラしやすくなる、子どもっぽくなる、無関心、構成失行がみられます。神経症状としては、振戦(ふるえ)、筋強剛、羽ばたき振戦、初期の反射亢進などが認められます。
あからさまには症状が出ていないものの、動作や認知能力に異常がある潜在性脳症と、明らかな意識、認知、感情、行動などの異常がみられる顕性脳症とに分けられます。さらには、症状の程度に従って昏睡度分類が行われます。

肝性脳症の昏睡度分類

肝性脳症の昏睡度分類とはどういった分類ですか?

明らかに精神神経症状がみられる顕性脳症は、症状の程度によってグレードⅠ~Ⅴに分類されます。
表立って症状が認められない潜在性脳症は、昏睡度分類のグレード0に相当すると言われています。

潜在性脳症

潜在性脳症とはどのような状態ですか?

不顕性脳症やミニマル脳症とも呼ばれます。昏睡度分類のグレード0に相当し、臨床的に肝性脳症とは認められていません。
表立った精神神経症状はみられませんが、精神神経機能検査で異常が認められる状態です。日常生活において記憶や注意、睡眠、学習などが低下し、生活の質が低下します。とくに複雑な注意が必要な運転操作に困難がみられやすくなります。
肝硬変の予後にも悪い影響を及ぼすとされており、欧米では潜在性脳症を顕性脳症の前段階ととらえて診断をつけることが推奨されています。

グレードⅠ

グレードⅠとはどのような状態ですか?

あとから振り返ってみるとそういった症状があったという程度です。次のような症状がみられます。

睡眠・覚醒リズムの逆転による昼夜逆転

状況に合わない多幸気分や抑うつ状態、不安

だらしなくなり、人の目が気にならなくなる

時間や場所がわからなくなる見当識の障害が少しみられる

注意力が持続しない

足し算、引き算が困難になる

グレードⅡ

グレードⅡとはどのような状態ですか?

興奮状態や尿失禁、便失禁がない状態で、羽ばたき振戦が認められる状態です。ほかにも次のような症状がみられます。

見当識の障害が認められる

物をとり違える

お金をばらまくなどの異常行動

呼びかけによって目を開けて会話ができる程度の傾眠傾向

指示には従うが失礼な言動や不適切な行動をとる

失調症

無気力・無関心

性格の変化

グレードⅢ

グレードⅢとはどのような状態ですか?

羽ばたき振戦が認められ、見当識の障害がみられる状態です。ほかにも次のような症状がみられます。

興奮状態、錯乱や意識混濁

幻覚を伴い、反抗的な態度をとる

奇妙な行動をとる

ほとんど眠っている

刺激で目は開けるが指示には従わない

簡単な指示にはこたえられる

グレードⅣ

グレードⅣとはどのような状態ですか?

意識が消失し、昏睡状態に陥る状態です。痛み刺激に対しては顔をしかめる、手で払いのけるなどで反応します。

グレードⅤ

グレードⅤとはどのような状態ですか?

深い昏睡状態です。痛み刺激に対しても反応しません。

肝性脳症の原因

肝性脳症の原因は何でしょうか?

血液中で増えたアンモニアが、脳に達することが主な原因と考えられています。

腸内細菌が食物中のたんぱく質を分解して腸内でつくられたアンモニアは、通常、肝臓で解毒されます。ところが、病気による肝臓の機能低下や、血液の流れの迂回によってアンモニアを十分に解毒できないと、アンモニアが増加します。

肝性脳症を起こす病態として挙げられるのは、重篤な肝硬変などの肝不全状態、劇症肝炎などの急性肝不全で高度に肝機能が低下した状態、門脈大循環短絡症、先天性尿素サイクル酵素異常症で高シトルリン血症になった状態です。

発熱、下痢、脱水、便秘、感染症、消化管出血なども肝性脳症の発症に関係します。アンモニアは筋肉でも分解されるため、加齢に応じて筋肉量の低下がみられるサルコペニアも原因のひとつとして考えられています。体内のアミノ酸のバランスが崩れ、脳の活動を抑制する物質がつくりだされることも関与していると言われています。

肝性脳症の受診科目

肝性脳症が疑われる症状が見られたら何科を受診すればよいでしょうか?

肝性脳症の原因となる肝硬変などの肝疾患は、消化器内科が専門です。肝硬変で治療をしている場合に、意識がはっきりしていない、手の震えなどの肝性脳症の疑わしい症状が見られたら主治医に相談しましょう。

肝性脳症は患者本人が気づけないことも多いため、一緒に暮らしている家族などが精神症状や神経症状に気づいたら早めに受診して診断を受け、治療を開始することが大切です。

肝性脳症で行う検査

肝性脳症ではどのような検査を行いますか?

場所や時間がわからないといった見当識障害や異常行動などの有無と、血液検査、 脳CT、MRIなどの画像検査、脳波、羽ばたき振戦テスト、精神神経機能検査などを実施します。

血液検査、画像検査、脳波

血液検査、画像検査、脳波とはどのような検査ですか?

血液検査では肝機能の状態や血中アンモニア値などを確認します。
脳CT、MRIなどの画像検査では、脳浮腫の状態や、肝性脳症の診断に有用とされるT1強調画像で大脳基底核の淡蒼球の高信号がみられるかの確認を行います。
脳波では、肝性脳症で特徴的にみられる徐波や3相波といった脳波の有無をみます。

羽ばたき振戦テスト

羽ばたき振戦テストはどのような検査ですか?

羽ばたき振戦は、昏睡度分類グレードⅡ以上でみられる症状です。手のひらを下に向けた状態で腕を前に出し、手のひらを上に向けたときに手の震えが生じる羽ばたき振戦が現れるかを確認します。

精神神経機能検査

精神神経機能検査とはどのような検査ですか?

潜在性肝性脳症の診断には精神神経機能検査として、数字とカタカナを交互につないでいくナンバーコネクションテストが一般的に用いられています。欧米では、文字と文字の色が異なる表示を見て文字の色を答えるストループテストが採用されています。「あか」と青で表示される文字を見て、文字の色の「あお」と答えるテストです。
ナンバーコネクションテストやストループテストなどの複数のテストができるコンピューターの精神神経機能検査も活用されています。

肝性脳症の性差・年齢差など

肝性脳症には性別差や年齢差などはあるのでしょうか?

肝性脳症を起こす肝硬変の患者は、日本に40万~50万人いると推定されています。肝硬変の発病年齢は40~50代がピークで、肝硬変で死亡する人数は年間1万7,000人、70%が男性です。
肝性脳症の原因となる劇症肝炎は、新生児から高齢者まで年齢に関係なくみられ、男女問わず年間400人程度発症します。

肝性脳症の治療方法

肝性脳症の治療をする場合、どのような治療方法がありますか?

肝性脳症を引き起こしている症状の治療、薬物療法、外科的治療、栄養管理などがあります。

肝性脳症を引き起こす症状の治療

肝性脳症を引き起こす症状の治療とはどのような治療ですか?

肝性脳症を引き起こす要因となる、消化管出血の止血や便秘の治療を行います。

薬物療法

薬物療法ではどのような治療を行いますか?

目的に応じて次のような薬が用いられます。

腸内でアンモニアがつくられて吸収されるのを減らし、便通をよくする合成二糖類

腸内のアンモニアをつくる細菌に作用して、アンモニアをつくりだすことを減らす吸収性抗菌薬

アンモニアを解毒するのに必要なアミノ酸などを補い、かつ体内のアミノ酸のバランスを整えるBCAA製剤(分岐鎖アミノ酸製剤)

腸内細菌叢を整える乳酸菌製剤

外科的治療

外科的治療ではどのような治療を行いますか?

胃や腸などからの血液を、肝臓に運ぶ門脈の血流が肝臓へ流れにくくなると、シャントと呼ばれる新しい血液の道がつくられます。シャントの血流が多くなると、血中アンモニア濃度が高くなって肝性脳症を起こします。
そのため、シャントをふさぐ治療が行われます。風船のついたカテーテルを挿入して血流をとめ、硬化剤を注入してシャントを閉塞します。

栄養管理

栄養管理とはどのような治療ですか?

腸の中のアンモニアは、食事でとるたんぱく質から発生するため、たんぱく質の過剰な摂取を制限します。刺身などの生食は感染症のリスクがあるため避けます。
肝硬変では栄養不良になりがちであるため、糖尿病などの合併症がない場合は高カロリー食が推奨されます。また、低血糖を起こしやすいため、頻回食や就寝前に軽食をとることがすすめられます。
自分で勝手に食事制限を行うと栄養不良に陥り、サルコペニアを助長します。主治医や管理栄養士の食事制限の指示に従いましょう。

編集部まとめ

肝性脳症は、肝硬変や劇症肝炎などの重篤な肝機能の低下などにより起こる行動や感情、認知、意識などの障害です。意識障害や認知機能の低下、性格変化、見当識障害がみられます。
自覚症状がない程度から昏睡状態まで症状の程度はさまざまです。できるだけ早い治療の開始が望まれますが、患者本人は気づきにくいため、一緒に暮らす家族やまわりの人が、疑わしい症状があれば受診するように気にかけましょう。

参考文献

岐阜新聞Web【教えてホームドクター 肝性脳症】

日本消化器病学会雑誌第104巻第3号【今月のテーマ 肝性脳症】

日本消化器病学会雑誌第107巻第1号【今月のテーマ 肝硬変の包括的マネージメント】

肝硬変合併症の診断・治療【肝性脳症】

肝性脳症

肝性脳症ってどんな病気

JHN clinical question【肝性脳症䛾診断と治療】

金沢医科大学【肝性脳症】

【コンピュータによる精神神経機能検査】

【患者さんと家族のための肝硬変ガイドブック】

障害者職業総合センター【肝硬変】

難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究【急性肝不全(劇症肝炎)】

腸内細菌学会【肝性脳症】

日本消化器病学会ガイドライン【肝硬変】

【肝硬変患者における covert 肝性脳症の診断に用いられる精神神経機能検査に関する多施設共同研究】