太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より低い状態が続く「ラニーニャ現象」の影響により、オーストラリア東部で大規模な洪水が発生しています。気候学者はラニーニャ現象が「3年は続くだろう」と予測し、その原因について考察しています。

Rare ‘triple’ La Niña climate event looks likely - what does the future hold?

https://doi.org/10.1038/d41586-022-01668-1

2022年にはラニーニャ現象の影響でオーストラリア東部で洪水が発生し、アメリカや東アフリカで干ばつが悪化したことが報告されました。このラニーニャ現象は、最新の予測によると2023年まで続く可能性があるとのこと。北半球では2年連続でラニーニャ現象が発生することはよくあるそうですが、3年連続で発生することは比較的珍しく、3年連続のラニーニャ現象は1950年以降2回しか起こっていません。

ラニーニャ現象が長引くと、インドネシア近海でよりいっそう積乱雲が盛んに発生し、東南アジアでは洪水、アメリカ南西部では干ばつや山火事が発生するリスクが高まります。さらに、太平洋と大西洋でハリケーンやサイクロン、モンスーンのパターンが変化し、ほかの地域にも変化をもたらすそうです。

2022年時点で発生しているラニーニャ現象は2020年9月頃から続いており、その影響は軽度から中等度で推移していました。しかし、2022年4月にはラニーニャ現象が強まり、東部赤道太平洋では1950年以来、この時期に見られなかった寒波が発生しました。

2022年6月10日に発表された世界気象機関の最新予報では、ラニーニャ現象が2022年7月から2022年9月まで続く可能性が50〜60%となっています。このため、11月まで北アメリカ東部を襲う大西洋ハリケーンの活動は増加し、主にメキシコに影響を与える太平洋ハリケーンは減少すると考えられるとのこと。アメリカ海洋大気庁(NOAA)の気候予測センターは、2023年初めにラニーニャ現象が発生する確率を51%と予測しています。



気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書によると、強いエルニーニョ現象とラニーニャ現象は1950年以降、それ以前の数世紀に比べてより頻繁に、より強く発生していますが、IPCCではこれが自然変動によるものか気候変動によるものかは分からないとされています。ニューヨーク州パリセーズにあるコロンビア大学ラモント・ドハーティ地球観測所の気候モデラー、リチャード・シーガー氏は「IPCCのモデルは、気候変動で海が暖まるにつれて、よりエルニーニョ現象に近い状態に移行することを示しています」と指摘。しかし、過去半世紀にわたる観測はその逆を示しています。気候が温暖化するにつれ、東部赤道太平洋の海域は寒冷化し、よりラニーニャ現象に近い状態が作り出されているのです。

科学者の中には、記録が少なすぎて何が起こっているのかはっきりしない、あるいは自然変動が大きすぎて長期的なトレンドがつかめないと主張する人もいるそう。しかし、IPCCのモデルが何か大きなものを見逃している可能性も指摘されています。シーガー氏は「モデルは確かに間違っており、将来、地球はラニーニャ現象のような状態をより多く経験することになると考えています。モデルが偏っているのかもしれないと真剣に考える人は増えてきています」と指摘しました。



IPCCのモデルがなぜ将来のラニーニャ現象のような状況を見誤るのか、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学海洋物理学者、マシュー・イングランド氏はもう一つの可能性を示しています。イングランド氏によると、世界が温暖化してグリーンランド氷床が融解すると、その新鮮な冷水が海洋循環システムの1つである大西洋子午面循環(AMOC)を減速させると予想されているとのこと。

イングランド氏らは、AMOCが崩壊すると南大西洋熱帯域に過剰な熱が残り、それが一連の気圧変化を引き起こして最終的に太平洋貿易風を強化するシチュエーションをモデル化して分析しました。太平洋貿易風は暖かい海水を西に押しやり、ラニーニャ現象に似た状態を作り出すそうですが、イングランド氏によれば、現在のIPCCモデルは氷床の融解、淡水の注入、海流、大気循環の間の複雑な相互作用を含んでいないため、この傾向を反映していないそうです。ペンシルバニア州立大学ステートカレッジ校の気候学者マイケル・マン氏もまた、気候変動がAMOCを遅らせ、よりラニーニャに近い状態を作り出すと主張しています。

シーガー氏は「海洋で起こっていることをモデルによりよく反映させることは、依然として非常に活発な研究課題です」と述べ、計算モデルの刷新を進める必要性を強調しています。