アパレル世界1位のZARAは日本で伸び悩み トレンド商品を低価格で提供できる仕組みとは - 南充浩

写真拡大

※この記事は2021年06月26日にBLOGOSで公開されたものです

現代社会では、それぞれの分野が極度に細分化・専門化されているため、自分の関わっている分野のこと以外はほとんど詳細を把握することはできません。そのため、各分野では基本的な当たり前の事柄でも外野にはほとんど知られていないということが数多くあります。

今回は、衣料品業界では当たり前のこととして知られているZARAに関する基本的な事柄を改めて紹介したいと思います。繊維・アパレル業界の人にとっては、すでに当たり前のことが多くなると思います。

コロナ禍でも売上高世界1位を堅持したインディテックス社

世界のアパレル小売企業で売上高1位は、「ZARA(ザラ)」を擁するインディテックス社です。インディテックス社はここ数年、ただ1社だけ3兆円台の売上高を続けており、他の追随を許しませんでした。

インディテックス社はZARA以外にベルシュカ、ストラディヴァリウスなどのブランドも展開しており、それらすべてを合わせた売上高で3兆円台に到達してきました。

では、我が国が誇る「ユニクロ」は世界で何位かというと、ユニクロ、ジーユーを展開するファーストリテイリングは2兆円台で3位です。そして2位が同じく2兆円台のH&Mです。

インディテックス社は、2020年度の業績(決算月はそれぞれ異なる)は各国のコロナ禍でさすがに落としましたが、それでも売上高は約2兆5918億円で1位を堅持。2位はH&Mが売上高2兆3453億円、3位はファーストリテイリングで売上高2兆88億円となり、トップ3の順位は変わりませんでした。

しまむらはコロナ禍で世界9位から7位に浮上

今年2月に「ファーストリテイリングの時価総額がインディテックスを抜いて世界一になった」という報道がありました。これはファーストリテイリングの株価が上がり時価総額がインディテックスを越えたということです。

にもかかわらず「ファーストリテイリングが世界一に」という見出しも見受けられ、知らない人が見れば「ファーストリテイリングがインディテックスの売上高を抜いて世界一になった」と思いかねない釣り見出しなので、こういう報道は慎むべきでしょう。

順位に変動があったのは、前年まで世界9位だった我が国のしまむらが、2020年度(2021年2月期)の売上高では世界7位に躍進したことです。コロナ禍で、しまむらは復活を遂げましたが売上高はそう大きく伸びてはおらず、380億円増の5426億円でした。

増収ながら大幅ではないのに順位が3つも上がったのは、他社がコロナ禍で大幅に減収してしまったためです。

ブランドのステイタス性もあまり高くないとされている「しまむら」ですが、これまでは世界9位の業績で、今回はコロナ禍で7位に浮上したという実力があります。

ファーストリテイリングの世界3位は比較的有名ですが、しまむらの世界9位、そして今回の7位への躍進というのは、一般の方はあまりご存知ないのではないでしょうか。

「縫製工場出身」のZARAが世界トップに君臨する意義

さて、世界ランキング4位にはGAPがとどまり続けていますが、ZARA、H&M、ユニクロとこの3ブランドはいずれも自社企画製品を自社直営店で販売するSPA(製造小売)という業態です。

しかし、このSPAを世界で初めて確立したのが現在4位に沈んでいるGAPなのです。もともと仕入れ型専門店として創業したGAPですが、80年代後半にSPAに切り替えて今に至ります。

現在は国内の大手アパレルはほとんどがSPA型に切り替わっており、それはなぜかというと、通常の仕入れ型専門店や卸売り型メーカーよりも獲得できる粗利益額が増えるという理論上のメリットがあるからです。

我が国ではワールドやファイブフォックスが牽引する形で、90年代からSPA化が進んだという歴史があります。

さて、世界ランキングに目を戻すと、上位4位はすべてSPA企業です。しかし、トップのZARAだけは出自が他の3社(H&M、ファーストリテイリング、GAP)とは異なるのです。

他の3社はすべて出発点が専門店やブティックなのですが、インディテックス社は縫製工場が祖業なのです。

SPAというのは、自社で企画・製造した商品を自社直営店で販売するという形態なので、小売店がメーカー機能を持つという場合と、メーカーや製造業が小売企業を持つという二通りの進化があります。

ところが、アパレル業界ではメーカーや工場から大規模SPAへと発展した例はほとんどありません。SPAとして成功しやすいのは、小売店出身の企業だといえます。

小売店出身のSPA大手が多い中、縫製工場出身のZARAが世界トップに君臨するというのは、工場を勇気づける材料になるのではないかと思っていますが、国内ではいまだに「ZARAを見習ってSPAを目指します」という工場にはお目にかかったことがないので、もしかすると、縫製工場出身であるということをあまり知らないという人は業界内にも多いのかもしれません。

トレンド商品をおよそ百貨店の半額で販売できる仕組みとは

さて、ZARAは今でも何割かは自社縫製工場で製造しており、生産のリードタイムを短くして新商品を投入し続けられるのは、そういう背景があることも一端だといえます。

ZARAの特徴としては、トレンド最先端のデザイン商品が短期間で入荷し、売り切り御免でほとんど追加補充されず、絶えず新型が投入されるというビジネスモデルが知られています。

売り切り御免ということは各店舗に入荷する1型当たりの枚数はさほど多くないということになります。洋服も含めた工業製品は大量に作れば作るほど1個当たりの製造コストが安くなり、少量になればなるほど製造コストは高くなります。

1店舗当たりに少数しか入荷しないにもかかわらず、ZARAの商品の価格は各国の百貨店ブランドの半額くらいに抑えられています。これはどうしてでしょうか?

我が国のユニクロは、価格破壊を武器に成長してきました。過去にブレイクした商品を振り返ってみるとフリース1900円、ヒートテック990円、ウルトラライトダウン5990円という低価格を実現してきました。

これが可能となったのは、1型当たり100万枚や200万枚という途方もない数量を生産する(ヒートテックの初年度は150万枚が完売した)ことで1枚当たりの製造コストを抑えてきたのです。

国内の百貨店向けやセレクトショップ向けアパレルが1型1000枚も作れば「まずまずのヒット作」と言われることから考えると、ユニクロの生産数量の莫大さがおわかりいただけるでしょう。

全世界共通の商品展開で1枚当たりのコスト削減

では、ZARAはどのようにして製造コストを抑えているのかというと、ZARAの店舗数は全世界でだいたい2000店舗を超えています。今回のコロナ禍でいささか店舗数が減少しましたが、2021年6月時点でインディテックス社の公式サイトによるとZARAの全世界店舗数は2085店舗となっています。
https://www.inditex.com/about-us/inditex-around-the-world#continent/000

ZARAは全世界共通の商品しか企画製造していませんから、1店舗当たり1型50枚ずつを全世界の店舗に配布すると仮定すると、その商品の製造数量は10万5000枚弱となります。

1型当たり10万枚強も製造すれば、ユニクロほどは無理ですが、我が国の百貨店アパレルやセレクトショップ向けアパレルよりもはるかに1枚当たりの製造コストを抑えることができます。これがZARAの安さの理由です。

ZARAはトレンド商品を百貨店の半額で売るため、我が国の業界人の中にもZARAファンは多くいます。ちなみに私は、ZARAの服が欧米基準で袖丈が長めに作られているので購入する機会はありません。私は腕の長さが短めなので。

日本ではユニクロの圧勝 ZARA人気のピークは過ぎたか

我が国の業界人の中には「無敵のZARA」「ZARA無双」などと褒めちぎる人もいますが、日本国内に関していえば、売上高はそこまで大きくありません。また、伸びているわけでもなく、むしろピークは過ぎて徐々に減少しています。

2017年度には766億円だった国内売上高も、明かされている範囲でいうなら、2018年度には690億円まで下がっています。その後の売上高は発表されていませんので推測するほかありませんが、決して急成長はできていないと見え、良くて横ばい、コロナ禍によって減少していると考えられます。

国内の売上高8000億円もあるユニクロとは全く規模が違うことがわかります。日本国内の売上高は意外に小さいというのは知っておいても損はないでしょう。
https://news.line.me/issue/oa-shogyokaionline/8c04397b2dce

最後に付け加えると、ZARAが日本で脚光を浴び始めたのは2008年~2009年のファストファッションブームでしたが、実はZARAの日本上陸は古く1997年だったのです。

その当時、国内のアパレルであるビギグループとの合弁会社としてZARAは上陸しましたが、あまり売れませんでした。その後、合弁を解消し2005年にインディテックスの独資となって今に至ります。

2000年ごろには、今は亡き「心斎橋ビブレ」というマイカル系商業施設の1~3階にZARAが出店していたものの閑古鳥が鳴いていていつもガラガラに空いていたことは懐かしい思い出です。