60歳以上の約3割「家族以外の親しい友人がいない」孤独に長生きして幸せなのか - 毒蝮三太夫
※この記事は2021年06月21日にBLOGOSで公開されたものです
友だちのいない高齢者が増えてるんだって? 孤立する高齢者が増えるって、見過ごせない深刻な問題だよ。実際、どうなってるの?
編集部)先日、政府が閣議で2021年版の高齢社会白書を決定しました。その中で、60歳以上への調査でもって「家族以外の親しい友人がいない」と答えた人の割合が「31.3%」となり、2015年の調査から5.4ポイント増えたそうです。
ちなみに、この調査は米国、ドイツ、スウェーデンでも実施してまして「家族以外の親しい友人がいない」という回答は、米国14.2%、ドイツ13.5%、スウェーデン9.9%でした。
うーん、これは深刻な数字だな。日本は約3割の高齢者が親しい友人ゼロか・・・。海外と比べても割合が高いし、寂しい高齢者が年々増えてるんだな。
医療の進歩もあって、日本は世界の中でも平均寿命が高い国だ。近年だと男性が81歳で女性が87歳か。超高齢化の長生き社会だよ。でもさ、いくら長生きでも、その先に待ってるのが孤独や孤立だったら、長生きが本当にいいことなのかどうか、一概にどうこう言えないな。
長く生きれば生きるほど昔からの知り合いがいなくなる
俺が尊敬する聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生は105歳までご存命だった。日野原先生に長生きについて聞いたことあるよ。そしたら先生「自分は長生きしたくてしてるワケじゃないけど、長生きは大変だよ・・・」ってしみじみ言ってた。
長く生きれば生きるほど、昔からの知り合いがいなくなるって。そりゃあそうだよな・・・。せいぜい、いいことと言えば、自分の過去を知ってる人がいなくなるから、昔はこうだったとウソついても誰にもわからないって(苦笑)。長生きはウソつきの始まり・・・、それじゃあしょうがないよな。
俺の周りでは先月(5月)、TBSラジオの仲間でもあった先輩の若山弦蔵さんが亡くなられた。88歳だったから平均寿命を超えて長生きだったな。若山さん、低音の甘く素敵な声でおなじみだった。声優としても多くの仕事をされた方だよ。昭和に人気を博した海外ドラマ「ローンレンジャー」「スパイ大作戦」「鬼警部アイアンサイド」とか、映画「007」の初代ジェームズ・ボンド、ショーン・コネリーの吹き替えとか、二枚目の渋い男の声がぴったりだった。
俺は若山さんと親しいほうだったけど、傍から見てもちょっと変わった人だったから友人は少なかったんじゃないかな。だけど、ラジオだったり、けっこう晩年まで仕事もされてたから、そういう現場があったことで気も紛れていたと思うよ。誰かと会える場、誰かと話せる場があるって大きいからね。
「おまえに電話するのが用事」と電話してきた立川談志
そうそう、何かっていうと話し好きだったのが親友だった立川談志だ。談志が亡くなったのが2011年、彼が75歳だったから、もう没10年になるんだよな。早いもんだよ。
談志とは、しょっちゅう会ってる仲だったよ。なのに会えない時に、日に3度も4度も電話してくるんだ。それがさ、なんの用も無いのに電話してくるの。談志から電話が来て「なんの用だよ」って聞くと「おまえに電話をしなきゃいけないってことが用なんだ」って言ってた。まったくもって談志らしいよ(笑)。
でもね、歳をとってしみじみわかるのは、知ってる者同士で用が無くても連絡しあうって大切なんだってこと。俺の5歳先輩で90歳になる近石真介さん・・・今も日テレの特番で放送される「はじめてのおつかい」で現役のナレーターを務めてるよ。近石さんとよく電話で話すんだけど、これという用が無くても声を聞きたくて電話する。そうして電話することを「生存確認」って言いあってるよ(笑)。小さな用は無いけど、生存確認という大きな用があるってことで、とにかく電話するってことが年寄りには重要なんだ。
これ、年寄りになってからでなく、若いうちからそういう「用は無いけど話せる」友人を持っておくことが大切なんだと思う。用無しの友だち、ヨウナシだけに「ラ・フランスのフレンド」かな(笑)。
かつての肩書を引きずって失敗する高齢男性
俺も仕事がらたくさんの人と会って話してきたけど、友人を作るために、人とつながって知り合いになることがその第一歩だとすれば、それがうまいのは女性、下手なのは男性。これ、年寄りになる前にきちんと肝に銘じておいたほうがいいよ。
男はさ、年寄りになっても現役で働いてた頃の肩書とか役職とか地位とか、そういうのをやたら口にするんだ。それが自分のプライドになってるの。自分はかつてこういう立場にいたから、そういう目で自分を見てくれって。どこまでも序列を持ち込んじゃう。自分から垣根を作るんだよな。
でも、それって周りからしたら「それは昔の話でしょ」ってなもんで、面倒くさいんだよ(笑)。今どうなのか、今の自分同士でいいじゃないか、あんまり過去を引きずりなさんなってことだよ。
その点、女性はそういうのを引きずらない。誰かに過去の話を持ち出されても「あら、そうだったの。でね、さっきね・・・」って、今のほうが大事。垣根を作るよりも、垣根を越えて喋るほうが大事だから、知らない人とつながっていくのがうまいよ。
歳とってから友人を作るのは中々むずかしいと思うけど、そういう点で男性は女性から学ぶことが多いと思う。
持つべきものは年下の友人
でね、俺が今の現役世代に勧めたいのは、同年代の友人も大事だけど、年下の友人を作ることがさらに大事ってこと。うちはさ、夫婦二人でお互い80代。子どもがいない老老夫婦で、幸いまだお互い元気だけど、これからのことを考えたらいつどうなるかわからない。子どもがいないからそのぶん少しでも若い人とつながっておいたほうがいいって考えた。
仕事の場でたまに会う若い人はたくさんいるけど、そうでなく、プライベートも含めて普段から日常的につながってられる若い人がいるといいなって。それからさ、NPOをされてる年下の夫婦と出会ってね、週にいっぺん我が家に来てもらって、ウチのことを手伝ってもらったりしてるんだ。
年齢は60代で、俺たち80代の夫婦から見たら子どものような年齢だよ。ジェネレーションギャップもさほど無くて、俺が話す昭和のこともけっこうよく知ってて話が合うんだ。一世代ぐらいの差だとお互いに知ってることってまあ重なるのかな。これが孫世代になるとかなりジェネレーションギャップが出るんだろうね。
話が合うからって、こっちも一方的な話にならないよう気をつけてるよ。年上と年下でうまく交流していくには、お互いに関心を持ちあうことだろうしね。そして年上からは笑顔と経験を、年下からは元気と今を、お互いに交換しあう。
年上であるこっちはより古いことを知ってるけど、より新しいことを知ってるのは年下だからね。それをオープンに交流していく、つまりお互いに「温故知新」であることが大事。
おかげで俺は、この若いご夫婦が新たな友人になってくれたんで頼もしく思ってる。何かあった時に相談できる、頼みごとができると思えるだけで、安心できるよ。三軒長屋みたいに家はつながってないけど、気持ちは長屋の付き合いみたいなもんだよ。
だからね、一緒にご飯を食べられるような年下の友人がいるってことは、先々とても頼もしいことなんだって、今からでも思っといたほうがいいよ。
歳をとっても孤立しない、そのために家族や友人は大きな存在だ。それと合わせて、まず身近にできることって何だって言ったら、ご近所付き合い、ご近所とのコミュニケーションだよな。これは俺もよく言うことだけど、ご近所とつながるってのは昔あった『となり組』の気持ちなんだよ。『貸してちょうだい味噌醤油、まわしてちょうだい回覧板』、そうして日常の暮らしの中で周りとつながっておく。
「今はそんな時代じゃないよ・・・」なんて言わないでさ、今住んでいる地域の行事や手伝いがあるなら顔を出すようにしてね、挨拶して、話しかけて、顔見知りになるキッカケができるといいなって思うよ。遠くの親戚より近くの他人。歳とる前にできることがあるなら、ちょっとずつやってみてくれよ。それがあなたの老後の風景をずいぶんと変えてくれると思うよ。
(取材構成:松田健次)