スシロー、くら寿司、はま寿司の海外戦略 国内市場が先細るいま″日本食ブーム″の海外市場が秘める可能性 - 三輪大輔
※この記事は2021年06月18日にBLOGOSで公開されたものです
世界で定着する「SUSHI」似た業態がないという優位性も
コロナ禍でも、日本の外食企業の海外進出が盛んだ。
「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスが2021年7月にロンドン出店を予定、ワタミ株式会社が新業態の「かみむら牧場」で台湾に進出、株式会社ダイニングイノベーションの「焼肉ライク」が香港に初上陸したりと、枚挙に暇がない。
現在、国内の飲食店は営業の自粛が求められたり、アルコールの提供を自粛しなければならなかったりと安定した経営が難しい。一方で、海外には新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きつつある国が出てきている。
また、近年のインバウンドブームで、日本食のファンになった海外の人も多い。ならば、そうした人が多くいる国へ進出しようと考える日本の外食企業が増えている。いわば、“インバウンドのアウトバウンド化”と呼ぶと相応しい状況が起きつつあるのだ。
中でも海外進出が盛んなのが、回転寿司チェーンだ。寿司は、「SUSHI」として世界に定着しているのはもちろん、回転寿司の店舗には技術力が詰まっており、似た業態は世界を見渡しても見当たらない。
こうした事情があり、進出国での評判は軒並み好評だ。現に、タイのバンコクに出店したとある店舗は1日1000人以上を集客し、現地でも大きな話題を呼んでいる。
それではどの程度、海外進出で得られるメリットがあるのだろうか。日本の回転寿司チェーンの状況を振り返りながら、その詳細を探っていく。
回転寿司4強の中で独走を続ける「スシロー」
現在、回転寿司チェーンの売上規模は「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」「かっぱ寿司」の順となっており、業界内で4強を形成している。
その中でも、コロナ禍にかかわらず、快進撃を続けているのが株式会社FOOD & LIFE COMPANIES(旧、株式会社スシローグローバルホールディングス)の展開する「スシロー」だ。
「スシロー」は2011年に業界トップに立つと、そのまま独走を続け、2020年9月期には2049億5700万円(前年度比2.9%増)と過去最高の売上高をたたき出した。
その勢いは今期も衰えず、2021年9月期第2四半期は、売上高1190億4200万円(前年同期比10.1%増)、営業利益131億1400万円(同59.2%増)、そして純利益は77億6000万円(同52.7%増)となり、いずれも過去最高を記録している。
好調の背景には、ネタそのもののおいしさはもちろん、デリバリーやテイクアウトへの対応、DXを活用したコロナ禍にあった店舗作りなどがあるが、それだけではない。
コロナ禍で「スシロー」は「都市型店舗」と「テイクアウト専門店」の展開に力を入れており、従来のロードサイド型の店舗ではリーチできない顧客の獲得を目指す。
同社は上期だけで24店舗も出店しているが、その内、5店舗を都市型、3店舗をテイクアウト専門店が占めている。どちらの店舗も好評を博しており、今後、ますます「スシロー」の存在感が高まっていく可能性は高い。
コロナ禍でも「くら寿司」がV字回復を実現させた理由
二番手の「くら寿司」も負けていない。「くら寿司」を展開するくら寿司株式会社の2020年10月期の売上高は1358億3500万円(前年度比0.2%減)だったものの、2021年10月期第1四半期決算では売上高が388億6100万円(前年同期比8.2%増)となり、コロナ禍でも大健闘している。
しかし、営業利益は8億2300万円(同31.3%減)、経常利益は9億1600万円(同32.9%減)と、利益面では苦戦を強いられた。ただ3月以降は、大きく数字を持ち直している。
全店売上が前年同期比で、3月は122.6%、4月は187.4%、そして5月は120.2%となり、3度目の緊急事態宣言を跳ね除けてV字回復。その裏には、コロナ禍で同社が進めてきた二つの施策の効果がある。
まず一つ目は「スマートくらプロジェクト」だ。同社は、2020年11月に「スマートフォン予約」や「セルフ案内」「スマートフォン注文」「セルフ会計」などを完備した非接触型の店舗「スマートくらレストラン」を、東京都東村山市にオープンさせた。現在、その取り組みを他店舗にも広げ、コロナ禍に適応した店作りを進めている。
そもそも同社の強みは店内での提案力に他ならない。サイドメニューの豊富さや「ビッくらポン!」など、多くの強みを持っている。また、回転寿司で気にしている人が多いのが、レーンを回っている寿司の安全性だ。
同社では「抗菌寿司カバー」で衛生状態を確保しているので、飛沫などが付着する心配がない。今後、こうした店舗の展開が進めば、さらに業績の向上を見込めるだろう。
もう一つの取り組みは、「スシロー」と同じく都市型店舗の展開だ。同社では2021年1月に渋谷と西新宿に初の都心型店舗を同時にオープンさせた。
コロナ禍で人の流れが変わり、ビジネス立地の飲食店の売上は厳しい。しかし、コロナ終息後は、需要が回復する見込みが高い。そこを見越して、先行投資として出店を進めていく。
すき家、ココスなど多業態展開の強みを活かす「はま寿司」
三番手は株式会社ゼンショーホールディングスの展開する「はま寿司」だ。同社の売上は非上場のため、正確な数字は分からない。しかし、「はま寿司」を含むファストフードカテゴリーの売上が1385億7800万円だ。その内の多くを「はま寿司」が作り出していると考えると、かなりの額となるだろう。
はま寿司の強みは、「すき家」や「ココス」「ビッグボーイ」など、多業態を展開しているからこそ発揮できるシナジー効果だ。以前、「はま寿司」で黒毛和牛祭りを行ったが、それも「すき家」などでの経験があったからできた施策に違いない。
そして四番手が、コロワイドグループ内のカッパ・クリエイト株式会社が展開する「かっぱ寿司」だ。
かつて業界1位だった「かっぱ寿司」だが、現在は業界四番手に甘んじている。2021年3月期決算でも売上高648億8100万円(前年度比13.3%減)となり、苦戦が続く。
かっぱ寿司の場合、ゼンショーホールディングスと違って、シナジー効果が今ひとつ見えてこない。また、ここ7年で5回社長が変わるなど、経営がいまいち定まっていない。本格的な浮上のきっかけをつかむのはもう少し先になるだろう。
日本食ブームのタイ、スシローは出店で手応え
それでは回転寿司チェーンの海外展開について、特に積極的に行っている「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」の3社の状況に触れておきたい。
まず「スシロー」は台湾、韓国、香港、シンガポールに進出中だ。2021年3月31日にはタイの首都バンコクに進出し、オープン日には1000人を超える来店があった。冒頭の例は、「スシロー」のタイの様子に他ならない。
数年前から、タイでは日本食ブームが続き、世界の中でも日本食レストランの数が多いことで知られている。日系の外食企業もたくさん進出しており、「吉野家」や「大戸屋」や「モスバーガー」「リンガーハット」「牛角」「一風堂」など、日本人にとって馴染みのブランドが街で目に付く。
そうした環境なので、「スシロー」は、タイ一号店はもちろん、多店舗化に成功する可能性が高い。
次に同社が狙っている市場は中国本土だ。2020年12月に広東省広州市に新会社を設立し、2021年中に一号店を出店させるべく準備を進めている。
中国では「サイゼリヤ」が既に人気だ。現地では「スシロー」の上陸を楽しみにしているという情報もある。知っての通り、中国は世界1といって過言ではない巨大市場だ。そこで成功すれば「スシロー」は日本発のグローバルな外食企業になっていくだろう。
2021年4月1日に社名を、株式会社FOOD & LIFE COMPANIESに変更し、海外攻略へ本格的に軸足を移した同社の挑戦は見逃すことができない。
アメリカ市場で圧倒的優位に立つ「くら寿司」の戦略
次にくら寿司は、2020年9月17日に台湾の現地子会社、アジアくら寿司を台湾証券市場「タイペイエクスチェンジ」に上場させた。進出国の株式市場に現地法人を上場させるのは、アメリカに続いて2カ国目だ。
そもそも、くら寿司はアメリカ市場を攻略している点で、他社と比べて圧倒的な優位に立つ。アメリカは通りが一本違うだけで、文化や人種が変わるといわれているほど複雑な市場で、企業戦略として攻略するのが難しい国だ。
同社は2009年9月にアメリカ一号店を出店させると、くら寿司の強みであるテクノロジーを活用した分析でローカライズ化を進め、2019年8月に現地法人の上場を果たす。
そうした経験で培ったノウハウは、海外展開で活かされている。台湾は親日国としても知られているので、「日本の延長線上と考えて、積極的に出店させた方がいい」と話す経営者もいるほど成功がしやすい。
それでも同社の展開スピードは速く、2014年12月に進出すると、6年間で29店舗の展開を実現している(2020年10月時点)。今後、くら寿司株式会社では中国や東南アジアといったアジア地域への出店を行っていくが、そのスピードはさらに速まっているだろう。
最後にはま寿司は、上位2社に先駆けて、一足早く中国に進出している。2014年に上海に一号店を出すと、2016年には台湾に進出し、着実に海外展開を進めてきた。
今後、はま寿司は一気に海外店舗を増やす可能性がある。ゼンショーホールディングスとして「すき家」などが既にタイやブラジルに進出していたり、世界10カ国以上に現地法人があったりと、既に下地ができているのだ。
国内では三番手だが、海外では一気に一番手になったとしてもおかしくはない。
外食チェーンの海外進出を占う回転寿司の海外展開
今後、回転寿司チェーンの海外展開はさらに増えていくだろう。理由は大きく二つある。それは「国内の展開エリアの限界」と「少子高齢化」に他ならない。
まず展開エリアだが、回転寿司チェーンの多くがロードサイドを中心とした店舗展開を行ってきた。しかし、コロナ禍により、ロードサイドの環境が大きく変わってきている。
人の流れの変化により、ビジネス立地や繁華街立地で立ち行かなくなった飲食店が、比較的ニーズの高いロードサイドに進出してきているのだ。これまで駅前で展開していたブランドが、ロードサイドに参入するため、新しいモデルを作るケースも珍しくない。
また、コロナ禍ではロードサイドの焼肉店も好調だ。そういった状況を受けて、ロードサイドの物件取得が難しくなっている。
回転寿司の場合、大型店舗となるため大きな土地が必要だ。そうなると、ますます物件の取得が難しくなる。都市型店舗やテイクアウト専門店の積極的な展開の裏には、こうした背景も関係している。
続いて、少子高齢化だ。その影響を受けて、今後、日本の市場規模は確実にシュリンクしていく。併せて、コロナ終息後に、景気後退局面がやってくるとも言われている。
一方で、海外には人口増加が見込まれる国も多い。経済発展を遂げて、国民の生活水準が上がっている国もある。そうした国々に進出する方が、これからの企業の発展を考えたときメリットが大きい。
バブル崩壊後、日本の製造業が海外に工場を移転して、いわゆる「産業の空洞化」が起きた。コロナ禍を契機に、同じような現象が外食でも起こるかもしれない。その先鞭をつけるのは、回転寿司業界だろう。
世界で圧倒的な知名度を誇る「SUSHI」というベースはもちろん、テクノロジー化が進んでいるので教育コストも低い。さらに装置産業のため参入障壁が高いなど、日本企業が優位に競争を進めていくことができる。
回転寿司チェーンの新たな一歩が、日本の外食シーンの次の歴史を作り上げていくのは間違いない。