オリジナルを常に超越してくる 愛すべきガーナの手描き映画ポスターの世界 - 木下拓海

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※この記事は2021年06月14日にBLOGOSで公開されたものです

ネットで大人気のガーナ映画『アフリカン・カンフー・ナチス』が6月12日に劇場公開され、ガーナの映画ポスター職人描きおろしの新ポスターを公開した。

この作品は、先日、米軍が遺骨を太平洋に散骨したと話題になった東條英機元首相と、ドイツのアドルフ・ヒトラー、そしてヒトラーの片腕であるゲーリングが実は戦後も生きていて、潜水艦でアフリカのガーナに逃亡して支配しようとするものの、地元のカンフー青年たちがそれに立ち向かうというストーリー。ガワこそ奇異だが、中身は王道なガーナ産ポリティカルカンフー映画だ。

主人公は、地元のカンフー道場に通うアデー。しかし、この新ポスターにはどういうわけか彼がいない。真ん中のカンフーおじさんはアデーの師匠だ。そもそもこのポスター、カンフー映画なのに8人中3人が銃火器を持っているし、ドイツ人であるはずのゲーリングは右下で黒人になっているし、突っ込みどころを挙げたらキリがない。ガーナはお茶目な国なのだ。

そんなユーモア溢れるガーナの手描き映画ポスターは、今や世界的人気だ。まずは往年のハリウッド名画のガーナ版ポスターをご紹介しよう。

ガーナ映画ポスターの真骨頂は、まさに「何それ?」「誰それ?」にあることがおわかりいただけたかと思う。彼らの手にかかれば、日本を代表する名画もこうなってしまう。

もちろん、『アフリカン・カンフー・ナチス』が制作されたクマシ(通称クマウッド)を中心に、ガーナ国内でも映画は作られている。それら国内作品のポスターを最後にご紹介しよう。

我々はガーナ映画の内容を知る由もないので、ポスターの情報だけから察するしかないのだが、これとまったく同じ体験を当時のガーナ人はしていたのだろう。いかに人々の想像力を爆発させて、重たい足を劇場に向けさせられるのか。そこにガーナの職人たちは全力を注いでいたのだ。

ちなみに、ガーナの映画ポスターの始まりは1980年代と言われている。VHSなどのビデオデッキを持ち歩いて村々を訪れて上映する、いわば移動映画館ビジネスが誕生し、その集客のために、縫い合わせた小麦粉の袋に絵を描いたのがその元祖になったらしい。

やがて同業者たちが多数現れ、競争は激化。それに伴ってポスターの表現はより過激になっていった。そしてオリジナルを超えたものにまで進化して、ひとつの独自ジャンルへと昇華。こうして世界から注目されるようになったというわけだ。

しかし、今では印刷技術の向上により、ガーナにおいても映画の手描きポスターや看板は描かれなくなりつつある。『アフリカン・カンフー・ナチス』の新ポスターを描いたヘビー・J氏は現在45歳だが、今では海外向けのコレクターに描いて糊口を凌ぐことが多くなったという。

また、この新ポスターをプロデュースしたロバート・コフィ・ガーティ氏は、これら歴代の名作ポスターを持ち歩いて、アメリカ、カナダ、オーストラリア、バリ島などでポスターの展覧会も開催するなど、世界に向けた発信を精力的に行なっている。

そんなガーナの息遣いをぜひとも『アフリカン・カンフー・ナチス』で感じてもらいたい。なお、この新ポスターのレプリカは上映劇場にて販売も計画されているとのこと。6月12日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラム、埼玉のシネプレックス幸手、愛知のセンチュリーシネマほか、順次全国の劇場で公開される。

https://transformer.co.jp/m/akfn/