地球最後のフロンティア「海底地形」を解明せよ!国際プロジェクトSeabed2030が本格始動 - 村上 隆則
※この記事は2018年02月23日にBLOGOSで公開されたものです
2030年までに海底地形図の100%完成を目指す国際プロジェクト「Seabed2030」の記者発表会が20日、東京で開かれました。
実は、これまで判明している地球の海底地形は15%程度。つまり、海底地形の85%がまだまだよくわかっていないのです。これは月や火星の地形図よりも進んでない状況で、実際に海底を調査してみると、2000m級の山や谷が突如現れることもあるとか。まさに「地球最後のフロンティア」がそこにあるんです。
ここまで読んで「海底の地形がわかると何かいいことがあるの?」と思った方もいるでしょう。実は海底地形を把握することで、安全な船舶航路の確保や気候変動、津波の進路予測、海洋資源の調査など、さまざまな情報の精度が上がるといわれているのです。多くの人が学校で習ったように、地球表面の7割は海ですから、その影響は大きいと考えられます。
「海底地形図は人類の生存に不可欠」
今回本格始動した「Seabed2030」は、100年以上前から海底地形図を作り続け、GoogleMAPでも利用されているGEBCO(大洋水深総図)と日本財団の共同国際プロジェクト。現在のところ、世界9カ国、28の研究機関が参加を表明しています。
本プロジェクトを支える日本財団の笹川陽平会長は会見で、
「人口70億を超える中で、果たして海洋は1000年持つのでしょうか、あるいは1万年持つのでしょうか。どの程度人類の負荷に耐えうるのでしょうか。この70億人が住む地球上の海底の地形がわからなければ、様々な自然災害を含めて、人類の生存にとって重要な基礎的なデータがないに等しいのです」
と語り、海底地形図を完成させることは人類全体の利益になると説明。「海底地形図は人類の生存に不可欠」とも述べ、本プロジェクトの重要性を訴えていました。日本財団は今後、「Seabed2030」に対し、2030年までにシードマネーとして合計20億円を拠出すると発表しています。
技術の進歩でめちゃくちゃクッキリ。海底地形調査の方法とは
また、会見では100年以上前から海底地形図を制作し続けるGEBCOの谷伸指導委員会会長が登壇し、実際の海底地形図を紹介しながら調査の方法を説明していました。
実は、今後地震の原因となるといわれている「南海トラフ」も海底地形の調査の過程で分かったもの。過去の海底地形図では見つかっていなかったんです。実際の地形図がこちら。
確かに第3版には南海トラフがない…!海底地形図の精度を上げることで、災害予測の精度も高くなるという好例です。
海底地形の測量は現在、音波を用いたマルチビームソナーという装置を搭載した船で行っています。しかし、その方法で実際に調査が行えているのは地球上のごく一部。下の地図の白い部分が、まだデータのない地点になります。
ここで冒頭の地形図をもう一度見てみましょう。詳細な調査をしていないはずなのに、ほぼすべての海の海底地形図が描かれていますよね。これはなぜかというと、宇宙から人工衛星を用いて、海面のデコボコを観測しているからなんだそう。
現在、GEBCOでは全世界で9億個のグリッドを使って海底地形図を作成しているといいますが、谷氏も「まだまだ精度が足らない」とより細かな調査の必要性を語っていました。
マルチビームソナーのデータと人工衛星を利用したデータでは、どの程度の差が出てくるのか。実際の海底地形図で比較してみると…
パッと見ただけでわかるほどの差があります。今後10年かけて、すべての海底地形図を下の地形図のレベルに近づけていくというわけです。
今回のプロジェクトでは未開の海域の調査以外にも、世界中に散らばった政府、民間企業などが持つあらゆる未公開データの収集も行う予定。その過程では無人の調査船やデータのクラウドソーシングなど、新技術の導入も期待されています。
まだまだ解明されていないことが多い海底地形、人類の未来がかかっているという大事な調査ではありますが、思わずワクワクしてきませんか?