面識のない女児への強制わいせつめぐる裁判、被害者の母親「娘は事件以来、心が壊れてしまった」 - 渋井哲也
※この記事は2017年05月01日にBLOGOSで公開されたものです
「加害者を絶対、許せません」
面識のない女児への強制わいせつなど3件で起訴された男(37)の判決公判が4月28日、東京地裁(綿引聡史裁判長)であった。判決は「女児たちへのわいせつな事件を繰り返した」として、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役3年)の有罪判決を下した。冒頭の言葉は、19日に行われた被害女児の1人の母親の意見陳述での言葉だ。証言台は遮蔽されて傍聴席からは母親の表情は見えなかったが、母親の叫びは法廷に響きわたった。綿引裁判長は「被害女児への影響は大きく、決して許されるものではない」と述べた。
「当初は女児に自慰行為を見せて満足していたが....」
起訴状などによると、男(被告人)は、2016年8月25日、東京都内で自転車に乗りながら女児A(当時8)に着衣の上から淫部を押し当てた(都迷惑防止条例違反事件)。また同日、自転車で近づき、女児B(当時10)の無理やり服の中に手を入れて右胸を触った(強制わいせつ事件)。この時女児Bが近くの交番に駆け込み、事件が発覚した。逮捕されたのは11月。
検察側は当初は2つの事件を起訴していたが、別の事件でも追起訴した。同年10月8日、「トイレを貸して欲しい」などと言いつつ、正当な理由なく住居に侵入し、女児C(当時12)に対して着衣の上から胸を触るなどした(住居侵入と暴行の事件)。このときの供述調書では被告人は反省の意を示し、その中で「当初は女児に自慰行為を見せて満足していたが、侵入してわいせつな事件まで起こしてしまった」と話していたという。起訴されていない余罪があるということか。
逮捕当時は「私は何もしていません」などと犯行を否認している報道もあったが、3月24日の初公判では、起訴事実を認めていた。ただし、論告時に検察官が、女児Cへの犯行を説明する際、「わいせつ目的で住居に侵入」と読み上げたところ、綿引裁判長は「わいせつ目的を立証していない。起訴段階で、一段下げたはず」と述べ、「正当な理由なく」と修正させた。計画性については公判では立証しておらず、最終弁論では、弁護側は「場当たり的で、計画性はない」と述べていた。
「娘の心を殺した殺人事件」 加害者の母親が意見陳述
19日の公判では、被害女児Aの母親からの意見陳述があった。証言の際は、傍聴席から見えないように遮蔽された。
「8歳の娘は、学童保育の通学路の途中で被害を受けた。泣きながら帰宅し、すごい形相で私に抱きついてきた。そのときの娘の表情は忘れられない。娘はそれ以来、心が壊れてしまった。過呼吸で苦しんでいる。外が怖い、男の人が怖いと言っている。
新学期になって一度しか学校に行けていない。(昨年も)2、3学期は学校に行けず、成績の評価もできない、とのこと。娘が忘れられているようで涙が止まらない。
被害ははかりしれない。父親が亡くなってから、大事に育ててきた。なぜ苦しまなければならないのか。娘が今後どうなるのか。不安と心配で苦しい。
娘の将来を案じ、一緒に死のうとも考えた。思いとどまったのは息子の存在だった。加害者は示談ばかり言う。加害者の汚いお金は要りません。卑劣な行為に対しては、これ以上、新たな被害者を生まないためにも、厳罰を望みます。
今回のことは、娘の心を殺した殺人事件だと思います。加害者を絶対許せません。罪を償ってから、治療を受けてください。」
このほか、「娘は1人で学校へ行けない。不審者の夢を見るようになった。犯人は許せない」という女児Bの父親の供述調書と、「留守中でも男性を警戒するようになった。厳しい処罰を望む」などと話した女児Cの母親の供述調書が採用された。
加害者の幼少期、厳しい父親の態度やいじめが....
意見陳述の際に女児Aの母親が「治療」と言ったが、先立って、弁護側から被告人が性犯罪加害者の更生に関わる団体の治療を受けていることが明らかにされた。この日までに、男は、なぜ犯行に至ったなどを話し合う内省プログラムに3回出席していた。
プログラムを行なっている「NPO法人性犯罪加害者の処遇制度を考える会」の「性障害専門治療センターSOMEC」の意見書によると、被告人は性嗜好障害と、脳機能障害(前頭葉障害と情動障害)との医師の診断がされている。そのため、自己洞察や自己表現が苦手で、自己受容の度合いと自己肯定感が低い。また共感性に欠け、性に対する認知の歪みがあるという。原因としては、幼少期の厳しい父親の態度やいじめによるとされていた。そのため、医療機関で、性に対する認知の歪みを修正するための認知行動療法と、加えて薬物療法をする方針だという。
被告人の母親への証人尋問も行われた。父親のしつけについて「すでに主人は亡くなっていますが、性格が細かく、子どもが小さい時から声を荒らげ、大きな声で威嚇することがあった。子どもを思うようにしたがっていた」と述べた。また、被害者は女児だが、被告人には姉がいる。娘を持つ母としては「苦しみが深く、辛いものがあるだろう。お子様が大きくなるにつれ、どんなに影響が大きいことか」と涙ながらに小さな声で答えていた。
子どもへの性的嗜好は「意識してない」
被告人尋問も行われた。
被告人:2年前、ストレスが原因で適用障害と診断され、3ヶ月間、仕事を休んだ。その後もストレスを解消できずに、弱い子どもの体を触ってしまった。
被告人はストレスのコントロールができないことが犯行の理由と証言した。また、弁護人から家族や夫婦関係も悪いわけではない。ストレスの原因を聞かれ、次のようにも話した。
被告人:営業の仕事で、結果を出さなければならなかった。仕事に慣れず、ミスを指摘され、怒られることがあった。ストレスを感じてしまった。
しかし、弁護人は「仕事が慣れていなかったり、ミスをすれば怒られるのは多くの人もそうだ」と指摘した。
ストレスだけが原因ではないとすれば、何があるのか。弁護人は、被告人の性的嗜好について質した。また被害者や家族のことをどう考えているかを聞いた。
被告人:結婚もしている。これまで大人の女性としか付き合ってない。親戚の子どもと遊ぶことはあったが、意識したことはない。
弁護人:被害者のことは考えた?
被告人:当時は考えなかった。しかし、自分の子どものころを考えてみても、大人はすごく大きい存在。そんな大人から無理やり触られるのは怖かっただろう。眠れない子もいるだろうし、嫌悪感、恐怖感を抱いた子どもいると思う。
弁護士:勾留時に何を考えた?
被告人:本当に多くの人に迷惑をかけた。私自身も仕事をなくし、職場にも取引先にも迷惑をかけた。母も留置所に足を運ばせた。妻にとっても、幸せだったのに、犯罪者の妻にしてしまった。
妻とは離婚した被告人。被害者へ慰謝は.....
事件後、被告人は妻とは離婚した。地獄のような日々を過ごしたためか、妻から「別れよう」との連絡があった。被告人としては、夫婦関係を続けたい思いがあったものの、これ以上、苦しめたくない思いから離婚届を送った。
この種の裁判では、公判前に賠償金を支払うケースもあるが、まだ被告人は支払ってない。検察官が反対尋問で聞いた。
被告人:示談という思いはあった。被害者や保護者には示したい。
検察官:実行性はあるのか?
被告人:自分自身の貯蓄もあるし、母とも相談している。
被告人は母親の証言を聴きながら涙を流し、また被害者の母親の証言でも、汗をハンカチで拭いながら聞いていた。傍聴席からは遮蔽されていので見えないが、被告人席からは見えている。きちんと表情まで見ることができたのだろうか。
また、逮捕後から反省を表すために日記を書いているというが、真摯に反省をしているかどうか。また、治療によって、ストレス・コントロールができるようになり、弱い女児への性犯罪に向かうことを避けるように行動を変えられるのか。まだ道半ばではある。刑務所内でも、性犯罪者には、再犯防止のための更生プログラムがある。しかし、刑務所を出た後でも、再犯防止の取り組みとの接点を持てるかどうかも問われることになる。
判決では検察官による起訴事実を認めた上で、「白昼堂々と犯行を重ねたことは、卑劣で悪質。規範意識が鈍磨している」「女児(8歳)の母親の証言で、通学ができないほど、健康は成長に悪影響を与えた」とした。
一方、量刑の理由について、綿引裁判長は、「いずれの犯行も短時間であること、事実を認めて反省していること、初犯であること、母親が監督すると言っていること、さらに、更生のための内省プログラムを行なっている団体に通うことを約束していること、そして再犯をしないようにしていることを『酌むべき事情』として考慮した」と説明した。
最後に「二度と繰り返さないように」と綿引裁判長が言うと、被告人はまっすぐ裁判長を見つめていた。判決言い渡しが終わり、裁判長が退席した後でも、証言台から離れなかった被告人は、しばらく経ってから一礼をした。その後、傍聴席側を振り返って、深く、ゆっくりと頭を下げた。