※この記事は2015年04月18日にBLOGOSで公開されたものです

 今月15日に、渋谷でファーストフード店で働く店員の時給を1500円にしろと主張するデモが行われた。(*1)

 本来であれば、特に注目することもない、よくあるデモである。ところが、このデモに過剰に反発する人達がいた。彼らいわく「デモなんかやってないで、努力しろ」「お前らに時給1500円の価値なんかない」(*2)、さらには「時給1500円も払ったら日本が滅ぶ」(*3)とのことだ。

 ネットではこれを「正論」などとしている人を何人か見かけた。

 アーハハ。

 あまりの馬鹿馬鹿しさに、本当に声を上げて笑ってしまった。

 なんだろう。こうしたことを主張する人達の性根にまでこびりついたデフレマインドは。

 時給1500円で日本滅ぶ? あまりにもケチ臭い。

 ちょっとした計算をしてみよう。時給1500円の仕事を8時間20日のフルタイムでしたとして、月額は24万円だ。しかもこれは手取りではなく、税金や社会保障を引く前の収入である。

 1人の労働者が1ヶ月働いて24万円の収入を得る。それを実現しただけで日本が滅びるなら、いっその事今すぐさっさと滅んでくれ。その程度の国が実際に1500円以上としている国(*4)と国際競争で戦って、勝てるはずもなかろう。

 そもそも、デモを批判しているような人達の言によれば、日本はアベノミクスによって景気が回復し、ゆるやかなインフレに向かっているはずではなかったのか?

 世の中がインフレに向かっているのであれば、たとえ先にアルバイトの時給を1500円にしたところで、それに伴う形で物価もちゃんと上昇する。物価が上昇すれば金銭の価値は目減りしていくから、貯金は自ずと投資に向かい、国内における金銭の好循環が成立し、更に景気を押し上げるはずだ。

 持続的なインフレのためには良好な消費マインドが湧き上がることが必須であり、そのためには十分な原資が必要となる。原資である賃金が増えないのに、消費マインドが上がるはずもないだろう。

 また、「時給1500円」そのものの価値は、物価の変動によって変わるのであり、結果として労働の賃金は、めんどくさいことを抜きにすれば、需要と供給のバランスのとれたところに、自然と着地するのである。景気が良ければ、それが1500円になることだって十分にありえることだ。

 つまり、時給1500円を「高いもの」と考える事自体が、ここ20年以上もお金の価値がほとんど変わらない時代に染み付いてしまったデフレマインドたっぷりの決め付けに他ならないのだ。

 いくら口先で「アベノミクスで景気回復」と空疎な言葉を呻いても、実際に景気は回復などしておらず、経済の循環など望むべくもないということを、意図的にか無意識にかは知らないが、経済屋も実感しているのだろう。だからこそ痛いところを突かれたと感じ、批判の言葉も辛辣になるに違いない。

 株価の上昇には諸手を上げて大歓迎の経済屋も、時給などといった生活に密着した経済変化には、デフレ前提の体たらくだ。情けない。

 心ある経済の専門家は「時給1,500円が当たり前になるくらいに、景気を良くしよう。そのためにはどうするべきか」ということをちゃんと考えてみてはくれないだろうか?

 景気が良くなることは決して悪いことではないはずだ。時給1500円程度にビビってデフレマインドに苛まれて「日本が滅んじゃう」なんていう自縛に陥るよりは、そうした意図を組み入れた上で、あるべき産業構造や、再分配の是非を考えることこそ、日本のためになる経済の考え方ではないだろうか。

*1:アルバイトの時給を1500円に引き上げろ! 東京・渋谷センター街で「ファストフード世界同時アクション」(BLOGOS)
*2:ファストフード時給1500円アピールの頭の悪さに絶句~だからおまえらに価値がない(ブロガーかさこの「好きを仕事に」)
*3:マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ。(BLOGOS)
*4:マクドナルドの時給1,500円で日本は滅ぶ? すでに30年実施してるオーストラリアは滅んでませんが?(Yahoo!ニュース)