※この記事は2015年02月14日にBLOGOSで公開されたものです

 2009年に、滋賀県の町立中学校で、柔道部の活動中に発生した死亡事故。

 これに対して生徒の母親が、元顧問の男性に損害賠償を求めて上告していたが、最高裁第一小法廷の金築誠志裁判長は、これを退けた。

 訴訟では一審で町に対して約3700万円の支払いを命じたが、元顧問に対する請求については「公務員個人は責任を負わない」と判断したという。(*1)

 この事故の問題を訴えるブログによると、蒸し暑い体育館の中でぶっ続けで練習している際に、被害児童が練習中に頭を打ち、ふらふらとした状態になったていたかかわらず、適切な処置を行わないどころか、「声を出していない」という理由で、しごきのような練習を続けた。

 最後に元顧問自らによる受け身を取りにくい技を被害児童にかけて投げ飛ばした事により、急性硬膜下血腫を発症し死亡したとされている。(*2)

 これが本当なら、本来であれば元顧問当人の責任が問われて然るべきである。にもかかわらず、今回のような「公務員個人は責任を負わない」という判決が出た根拠は「国家賠償法」の第一条にある。
第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

○2  前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。(*3)
 つまり、職務上で発生した事故などにおける賠償義務は行政が負うのであり、公務員個人が負うものではないという意味である。だから今回の事件も町に対する損賠賠償の支払いのみが認められ、元顧問個人への請求が却下されたということだ。

 確かに、公務員の仕事には、警察や消防や救急といった、事故や生命に直接絡むような仕事もあり、その責任に個人が晒されるのは、あまりに不利だろう。こうした法律をもって公務員を守ることの意味は十分にある。

 しかし一方で、僕が疑問に思う点は「そもそも、部活動って公務なの?」という点である。

 学校での様々なリスク事案を研究している、名古屋大学の内田良准教授によると、部活動に支払われている教員への手当というのは、土日の手当として高くても日給3000円くらいしかないのだという。(*4)

 さらに、平日の部活動は完全に「業務外の自主的な活動」扱いで、半ば強制的に部活動の顧問を割り当てられるにもかかわらず、当然のように残業代など出ていないという。こうした中で「せめてもの、やりがい」を求めて、必要以上に部活動指導にのめり込み、生徒を追い込んでしまう教師も多いのだろう。

 こうしたことから僕としては、部活動はボランティア活動に過ぎず、公務の体を成していないにもかかわらず、どうして判決では公務扱いになっているのだろうかという、疑問を持たざるを得ないのだ。

 この疑問は、ともすると、今ですら半ば強制的に部活動顧問を押し付けられてきた学校の先生たちに対して「指導上の事故も自己責任だ!」と糾弾しているように見えるかもしれない。しかし、そうではない。

 あまりにむちゃくちゃな部活動の顧問制度に潜む問題点を、教師たちがその職業上の責任において、しっかり洗い出し、問題を提起して公に訴えて行かなければ、いつか「半ば業務として命じられながら、負担も責任も教師個人にという状況に陥ってもおかしくないぞ」という警告である。

 ここ近年は、個人が何かの問題を公に訴えることに対して「自分勝手」とか「決まってるんだから文句を言うな」などと非難する傾向が強まっている。しかし、社会が真っ当に運営されるためには、こうしたむちゃくちゃな状況に対してしっかり反論していく必要がある。それが社会人としての当然の責任だ。

 ましてや教師は子供の鑑なのだ。
 我が身可愛さに部活動というサービス残業をホイホイと受け入れていては、子供たちもブラック企業で残業代も無しに長時間労働を行うのがあたりまえだと思い込んでしまうだろう。

 まずは自らの労働環境を改善し、子供たちに真っ当な労働環境を自ら開拓してくことの重要さを、胸を張って教えられる教師であって欲しい。
 少なくとも、部活動で生徒をしごいて、日常の憂さを晴らすような教師は不要である。

*1:柔道部活で死亡、顧問賠償認めず 最高裁、親の上告棄却(朝日新聞)
*2:滋賀県愛荘町立 秦荘中学校 柔道部事件(個人のブログ)
*3:国家賠償法(e-Gov)
*4:部活動の負担感が大きいワケ――土日の部活動は日額3000円 未経験でも顧問(内田良)