※この記事は2015年01月14日にBLOGOSで公開されたものです

海老原嗣生(雇用ジャーナリスト)

私は30年近く、人材ビジネスに身を置き、企業、学生の両方を見てきました。
ただ、何年経っても、学生と企業の溝は埋まっていません。
そろそろ、企業は何を考えているか、手の内をしっかり見せたほうが良いのではないか、と思い、拙稿をしたためています。現実を知れば、「なんだ簡単だな」とホッとできる部分もあり、逆に「そういうエゲツない世界なのか」と殺伐とした気持ちになるかもしれません。
それでも、全く的はずれな噂に恐れおののくよりはいいでしょう。それでは、学歴フィルターの真相について。

まず最初に結論から書いておきます。少数の例外はあるとはいえ、大手人気企業は明らかに大学名で採用を絞っています。 しかし、採用ホームページの応募受付コーナーに、学歴フィルターがあり、指定大学以外だと自動的にはじかれて、お断りメールが送信される、などということはありません。逆に、ほとんどの就職ナビサイトでは、学歴差別につながる表記や、応募絞込みを禁止しています。

現実的にもこの仕組みがないことは、以下の事実からわかると思います。

まず、採用説明会の会場を見渡すと、無名校の生徒もそれなりに参加しています。そこで開催されるグループディスカッションなどを、よく見てほしいのです。少数ながら必ず、いろいろな大学の学生が参加しています。

同様に、インターンシップの参加者もそうです。
前質問のとおり、採用実績でも、多くはないのですが、いろいろな大学の学生がいるのです。 そうした事実を見れば、学歴フィルターで指定以外の大学生を、自動お断りしていないことがわかるでしょう。

では、どうして少数ながらいろいろな学生が入っているののか、種明かしすることにしましょう。
たとえば、1回400名定員の会場で10回説明会を開くと、そこに招かれるのはトータル4000名です。とすると、2~3万もプレエントリー(企業の採用広告にあるエントリーボタンを押して、興味を示す)している学生を、企業はなんとか4000名にまで絞り込まなければなりません。

そのために、企業は学生を説明会に呼び込むためのメールに工夫を凝らします。(説明会を終わって本当の選考場面では、エントリーシートで大学スクリーニングが行われています。エントリーシートについては、著書の中で詳しく書いているので、ここでは説明会について書くことにしましょう)。

それは、大学レベルによって、説明会への呼び込みメールを送る順番を変える、という方法です。たとえば、説明会の総定員が4000名だったとしましょう。ここで、まず、旧帝大クラスのエントリー学生をメールで呼び込みます。その結果、申し込みが500名くらい集まったとしましょう。

続いて、早慶上智、ICU、同志社、一橋、東工大、東京外語大などに呼び込みメールを出します。これで一気に、申し込みは2000まで来ました。
さあ、次は、MARCHや関関同立、一般国公立大学あたりに呼び込みをかける番です。このあたりで、申し込みは3500くらいに達するはずです。
そして、残り500になったところで、全エントリー者に一斉メールを送信します。たった500席に対して、何万ものエントリー者が奪い合いをするから、「なかなかアクセスできない」、「すぐ埋まった」、という事態になるのです。テレビなどで放送される説明会のプラチナチケット化という話はこういうメカニズムになっているのですね。

類似するような手口はいくらでもありえます。
たとえば、大学ランク別に説明会会場を用意しておいて、会場ごとに呼び込む大学を変えるというパターン。A会場は東大京大用、BC会場は旧帝大、DEF会場は早慶、といった感じです。そこでも、最後のJ会場はフリー枠などとしておきます。

結果、企業は、この最後の500席とか、フリー枠分だけ、いろいろな大学の学生たちに門戸を開放します。これにより、多様性の確保も、学歴差別批判を受け流すこともできる。

ただ、この少数ワクに入り込み、説明会に進めたとしても、そのあとは、本当に厳しい選考となるはずです。企業側も、採用実績の少ない大学の学生を採用するのは慎重になり、ブランド大学出身の学生よりもよほど厳しい面接や試験がなされることでしょう。 そうして内定までに至るのは、本当にピカピカの、非の打ちどころのない学生となります。よく、近頃は難関化している、とか、ハイパーメリトクラシー化しているというのは、こうしたケースで採用された学生が、その噂の出所になっているのではないでしょうか。

さてここまでを復習したうえで、最後に、一般大学生がこの仕組みを逆利用する方法をお教えしします。

■説明会の呼び込みは、ブランド大学の学生から行われる。だから、普通の大学の学生にメールが送られてくる頃には、残席数はごく少数となっている■

ならば、どうしても説明会に行きたいなら、ブランド大学の学生と仲良くなり、彼らに呼び込みメールが送られて来たら、それを転送してもらえるようにすること。これで、説明会に行ける確率は高くなるはずです。

こんな感じで、企業の現実を知れば、無駄な努力もしなくなるはずです。
そういう、「企業は何を思っているか」「どうしてそんなことをするのか」ということの裏事情をもっと知りたくなったなら、以下の拙著を参考にしていただけると幸いです。

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プロフィール

(えびはら つぐお)経済産業研究所労働市場制度改革プロジェクトメンバー、広島県雇用推進アドバイザー、京都精華大学非常勤講師。1964年生まれ。

リクルートグループで20年間以上、雇用の現場を見てきた経験から、雇用・労働の分野には驚くほど多くのウソがまかり通っていることを指摘し、本来扱うべき“本当の問題”とその解決策を提言し続けている「人事・雇用のカリスマ」。リクルートキャリア社のフェロー(特別研究員)第1号としても活躍し、同社発行の人事・経営専門誌「HRmics」の編集長を務める。 ロングセラーの就職活動本『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』『2社で迷ったらぜひ、5社落ちたら絶対読むべき就活本』(共にプレジデント社)の他、雇用・労働分野の著書多数。