※この記事は2014年12月26日にBLOGOSで公開されたものです

『アナと雪の女王』が社会現象となり、流行語大賞に「レリゴー」がノミネートされるなど、久しぶりに“映画”がその年を象徴するもののひとつになった。本国に遅れること約3ヶ月、2014年の3月に日本で公開されロングラン。上映中の間にDVDが発売されたが、それでも圧倒的な本数を売り上げ、しかも劇場の客足が遠のくことはなかった。いかにスクリーンで体感したいという人が多かったかが伺える。最終的に日本だけで254億円というウルトラメガヒットを記録し、サントラも売れに売れた。

もちろん『アナ雪』以外にもメガヒットを飛ばした作品はいくつかあった。特に『永遠の0』と『STAND BY ME ドラえもん』は両方とも80億円を超える興行成績を叩き出した(『永遠の0』は2013年12月公開)。

しかし、その一方で映画館に足を運ぶ人が減り続けているという現実がある。年間公開される映画の本数は増えに増え、今では1000本を超える作品が公開されているが、現在日本人が平均して映画館に足を運ぶのは年に1、2回程度だと言われている。つまり先ほどあげた3本以外はほとんどが死屍累々たるありさまになっているといっても過言ではないのだ。実際『アナ雪』しか観ていないという人も少なくないはずである。

そこで、数多く公開されている作品の中からどれを観たらいいかわからない人や『アナ雪』で映画を観ることに目覚めた人のために、手前勝手ながら年末年始にゆったりと自宅/実家で観てほしい10本を選出した。すべて2014年に日本で公開され、ある意味で『アナ雪』に隠れる形になってしまった作品群である。え?これよりもおもしろい映画あるじゃん?バカじゃないの?と言いたくなるだろうが、テーマとして「何が起こるかわからない世の中でどう生きていくべきなのか?人間とは何か?について考える映画」にさせてもらった。コメディからアクション、ドラマ、ドキュメンタリー、ホラーとジャンルはバラバラだが、そこにはさまざまな人生が凝縮されており、観てもらうとなるほどなと少しは納得していただけるのではないかと。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

監督:マーティン・スコセッシ 出演:レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル
とある証券会社に入社したディカプリオ。面接で一発かましたことにより、あるブローカーに気に入られ、株の売り買いのノウハウを教わる。しかし大暴落によって職を失い、街の小さな小さな証券会社に再就職。コンピューターもなく、のほほんとした雰囲気に一抹の不安を覚えるが、今度はそこでバカに適当な株を売りつけて、その半額を手数料としてもらうというやり方を教わった。そのふたつのできごとによって一気に才能を開花させたデカプーは同じマンションに住む男と偶然出会い、ふたりで証券会社を設立。証券詐欺でもって金を荒稼ぎするが、当然のごとくFBIに目をつけられ………というのが主なあらすじ。

日本でも与沢翼の会社が経営破綻状態にあると話題になったが、彼の顛末をそのまんま映画化したような作品で実話である。成り上がった男が大金を手に入れて繰り広げる「セックス、ドラッグ、ロックンロール」な三時間。欲と金をテーマにした『時計じかけのオレンジ』(71)であり、ヤクではなく株を売りつける『スカーフェイス』(83)のようでもある。カメラワークは抑えめであるが、マーティン・スコセッシのフィルモグラフィでは『グッド・フェローズ』(90)以来の傑作とも評される。R-18を勝ち取っただけあって下品極まりないが(劇中で「FUCK」という回数は世界一である)、仲間内で酒を飲みながら鑑賞すると楽しめること必至。ツタヤに行けばBDが1500円で売ってたりもする。

『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』

監督:エドガー・ライト、出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト
ミドルエイジクライシス知らずの男がかつての同級生を誘って20年ぶりに地元へ戻り、若い時に出来なかった12件のパブクロール(パブをはしごする行為)を達成しようとするが……というのが主なあらすじだが、これ以上ストーリーを説明するとおもしろさが半減する。

おっさんがキャッキャしてたら中盤にガラっと話が変わり、事態は予期せぬ方向へ……というのはスティーブン・キング原作の『ドリーム・キャッチャー』(03)を彷彿とさせるが、かつての友人たちの風景はそれこそ『スタンド・バイ・ミー』(86)のようでもある。『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04) 、『ホット・ファズ』(07)に続くエドガー・ライト監督×サイモン・ペグ主演コンビの第三弾。アクションのキレ味も編集のかっこよさもスケールのでかさも過去最高。ビールを飲みながら鑑賞すべし。

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン 出演:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン
61年ニューヨーク、ディラン・ショック前夜。無名のシンガー、ルーウィン・デイヴィスは家も持たず、知り合いの家を転々とし、ソファで寝る生活を送っていた。そんなある日預かっていたネコが逃げ出し、それに導かれるように彼は一週間の旅に出る……

生演奏にこだわり、音楽にもこだわりぬいて、丁寧に描いたわりに、当時のフォークシーンにいた人からは「その時代が描けてない」と批判された。ところがこの作品、実はギリシャ神話の『オデッセイア』※を下敷きにしており、前にコーエン兄弟が撮った『オー!ブラザー』(2000)とまったく同じアプローチで作られていることが終盤になり明らかになる。全体的に派手な見せ場はなく、詩的なダイアローグだけで展開されていくが、それこそ年末年始のゆったりとした時間の中で観てほしい一本。ネコがすごくかわいい。

※古代ギリシャの吟遊詩人ホメロス作とされる長編叙事詩。ギリシャの英雄、オデュッセイアがトロイア戦争に勝利した後、故郷イタケへ帰還するまでの10年間の漂流が語られる。

『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』

監督:アレクサンダー・ペイン 出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ
アメリカの中西部に暮らすウディは「よくある詐欺」として送られてきた宝くじの通知を信じ、大金を受け取るため、受取所があるネブラスカまで徒歩で向かおうとする。見かねた息子はこれも親孝行とウディを車でネブラスカまで旅行を兼ねて連れて行こうとするのだが……というのがあらすじ。

いままで知らなかった両親の過去が明かされるという意味ではNHKの『ファミリーヒストリー』を観ているような感覚に陥る。何気ないロングショットに込められた情報量の多さは完璧な画面構成によって生まれたものだが、監督が小津安二郎を敬愛しており、まさにそれをアメリカでやっているような印象がある。かわいらしいおばあちゃんがムカつく親戚に向かって「Fuck Yourself」と絶妙な間でいうシーンは本年度ベスト。これこそお正月に家族で観ていただきたい作品。

『ダラス・バイヤーズクラブ』

監督:ジャン=マルク・ヴァレ 出演:マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト
酒もドラッグもやり放題、毎日女も抱き放題、そんな風に好き勝手暮らしてきたカーボーイ気取りのロンがある日、HIVウィルスに感染してることを知らされ、余命30日と宣告される。アメリカでは認可されてない薬がテキサスで手に入ると知ったロンは無許可でその薬を大量に買い、安く売りさばき、大勢の命を救うが……そこに司法の手が……

あらすじだけ聞くとかなり重そうに聞こえるかもしれないが、テキサスという風土もあいまってドライに撮っており、感動するシーンはひとつもなく、むしろやや下品に野蛮に描かれる。この演技でアカデミー主演男優賞を獲得したマシュー・マコノヒーだが、彼の演技に目を奪われないように突き放して演出しているあたりもニクい。同じ題材を日本でやったら観れたものではないと思う。

『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』

監督:マイケル・ベイ 出演:マーク・ウォールバーグ、ドウェイン・ジョンソン
ジムでトレーナーとして働く前科者ダニエルが仲間と共に、裕福な常連客を誘拐して全財産を奪うことを計画。一度は成功するもコカインに溺れた仲間の暴走により新たな事件が発生していく……

80年代エクスペンダブル映画を復活させた『バッドボーイズ2バッド』(2003)から10年。その手法を実録犯罪モノに結びつけたマイケル・ベイ会心の一作。『トランスフォーマー』は公開されたのに、こちらは見事にDVDスルー※として今年の3月に発売された。悪趣味で野蛮で脳みそまで筋肉な男たちの『ファーゴ』(96)って感じで誘拐事件が陰惨な方向に転がっていく。無駄にかっこいいカメラワークとスローモーションを多用しているが、なんてことないシーンで使っているので非常に滑稽。本当に撮りたかったのはこういう映画だったのかと逆に感動すら覚える。ダーティワードしかボキャブラリーがないのか!といいたくなるダイアローグも無駄にスタイリッシュな映像もなにもかもマイケル・ベイの世界だが、その反面これが劇場未公開になったのもなんとなく頷ける……

※劇場公開されないまま、直接DVDやブルーレイとして販売されること。

『LIFE!』

監督:ベン・スティラー 出演:ベン・スティラー、クリステン・ウィグ
LIFE誌を発行する会社で長年ネガの管理や現像を担当していた男が主人公。インターネットの普及に伴いデジタル化するという理由にて休刊が発表され、そのラストの表紙を飾るにふさわしい写真が写真家から届いた。ところが指定された番号のネガが紛失。こんなことは今までになかったことだと、その写真家を探すため、主人公は旅に出る……

『虹を掴む男』(47)のリメイクでありながら、予告編はおろか、そのように宣伝されていなかったので気づかなかった。妄想癖のある主人公の考えていることが近いかたちで現実になり、それを自らの意志で乗り越えることである種の「大人」になっていくという、いわゆる「通過儀礼」の物語。伏線のはり方が見事でそれがどんどん回収されていく気持ちよさがこの映画のキモだろう。もちろんベン・スティラー注5らしいギャグやパロディはあるもののいくぶん抑えめになっている。リーマンショック以降、夢を追うことよりも現実を生きなければならないという風潮のなか、何が大切なのかを改めて教えてくれるような、そんな映画。是非ご家族揃ってお楽しみください。

『アクト・オブ・キリング』

監督:ジョシュア・オッペンハイマー 
1965年、クーデターにより当時の大統領だったスカルノが失脚。その後「共産主義者狩り」と称し、100万人が大虐殺された9月30日事件についてのドキュメンタリー。しかし、本作が他のドキュメンタリー映画と一線を画すのは、虐殺に関わった人たちにそれを再現した映画を撮らせてみるというところ。しかもこれがあまりにも滑稽すぎるため、観ている側はどういう気持ちになればいいのかまったく分からなくなる。めでたい気分のときに鑑賞すべきではないだろうが、逆に時間に追われているときはそう簡単に観れるような映画ではない。DVDレンタルは2時間に編集された「劇場公開版」。

『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!史上最恐の劇場版』

監督:白石晃士 出演:大迫茂生、久保山智夏
本物の幽霊や都市伝説として広まってる怪奇現象を映像に収め、「コワすぎ」というDVDにして売っているというフェイクドキュメンタリー※シリーズの第6弾。

おすすめしておいて何なのだが、この「劇場版」はあくまでシリーズの6作目であり、できることならば頭から通して観ていただきたいくらいの傑作。一本が70分しかないのも魅力的で、基本的にはPOV※※によるフェイクドキュメンタリーの作り。しかし四作目からジャンル映画を再構築するという手法に切り替わり、五作目は細分化されたホラー映画のごった煮、そしてこの「劇場版」では『もののけ姫』(97)ばりのスケールと神話的な領域にまで踏み込む。『コワすぎ!』というタイトルだが、そこまで恐怖に徹したわけではないので、オールナイトでぶっ通して仲間内でワイワイやりながら観ることをおすすめ。

※架空の事件や出来事(フィクション)を実際に起こったこと(ノンフィクション)として、ドキュメンタリー風に撮影する手法。
※※「Point of View」の略。人物の目線上にカメラを置き、「主観」として撮影する技法。

『テレクラキャノンボール2013』

監督:カンパニー松尾
AVでありながら、今年「劇場版」としてスクリーンで公開され、目下全国ロードショー中という変わった作品。 「めちゃイケ」ナンパ企画として、そのフォーマットがパロディ化されるなど、実は人気のシリーズ。出場者は全員AV監督でまず最初に車とバイクで普通に公道でレースを行い、目的地まで誰がいちばん早く着けるかを競う。その後、レースをファーストステージとして、セカンドステージは素人をナンパしてAVに出てもらい、その順番とプレイでもって得点を争う。男はいつまで経っても少年のままとは常套句のように言われるが、老いていく悲しさ、いつまでもバカやってられないという現実が押し寄せてきて、最終的にメロドラマのような展開になり、涙を誘う。観る人を選ぶが大人版水曜どうでしょうとして観ることをおすすめ。


実家に帰って家族で過ごす人も多いだろうが、基本的には家族みんなで観れるような映画はひとつもなく、その辺はご了承いただきたい。逆にいえば、そういった作品はレンタル店でも面出しされているので、その他に時間のあるときにゆっくりと一人で観るような作品をなるべく選ぶようにした。なんとなく手に取って、おもしろかったな、なんだったら人生についてちょっと考えさせられたな、なんて思っていただければ幸いである。


■著者プロフィール カトキチ
映画と音楽について主に書いてます。最近はAKBにも興味あり。
ブログ:くりごはんが嫌い