※この記事は2014年12月13日にBLOGOSで公開されたものです

 選挙を目前に、多くの人が自分たちが支持する政党に有利なことをネットで発言しているようですが、その中でも特に不思議な書き込みを見つけました。

 それは「民主党時代、株価は7,000円台だったが、安倍政権になって14,000円になった。あの時代に戻りたくなどない」という類の書き込みです。  中には「7,000円」と書いているものもあって、7,000円と7,000円台じゃ大きく違うなぁと、思ったりしていました。

 僕は株に明るくはありませんが、おぼろげな記憶だと、民主党政権下での株価はおおよそ8,000円台後半を推移していたような気がします。「7,000円台なんてあったかな?」と疑問に思ったわけです。

 発言しているのは決してネット上の匿名だけではありません。例えばBLOGOSでは、元アナウンサーの長谷川豊さんが、このように発言しています。

「民主党時代も十分経済格差はありました。別に3年以上あった民主党政権時代に驚くほどに格差が是正されることなんて全くありませんでした。なのにあの3年で、とにかく、日経平均株価は下がりまくり7,000円台というとんでもない数字に」(*1)

 まぁ、民主党時代に経済格差があったことは当然なのでいいとして、日経平均が下がりまくったとか、7,000円台になったというのは、自分の記憶と食い違っています。

 そこで、日本経済新聞社が提供する「日経プロフィル」の日経平均資料室(*2)で調べてみました。ここを見れば簡単に日経平均株価のおおよその変化やその時期の最安値を調べることができます。民主党が政権を担ったのは2009年から2012年までなので、この間の日経平均の最安値を調べればいいわけです。

 年次データを見ると、最近の方から最安値は2012年は8,295円。2011年は8,160円。2010年は8,824円。2009年は7,054円です(分かりやすくするために、1円未満切り捨て)。

 確かに7,000円台の時代が2009年にあったようですね。でも早合点をしてはいけません。2009年は政権が自民党から民主党に移った年です。この株価がどちらの政権下での数値だったのかを、ちゃんと見極める必要があります。というわけで月次データを見ます。

 すると2009年の3月に、この7,054円という株価を記録していることが分かります。2009年に衆議院選挙が行われたのは8月30日です。民主党の勝利を受けて、鳩山内閣が発足したのはその後9月16日です。ということで、この7,054円というのは、麻生政権下での数値です。

 そして、2009年4月以降、現在に至るまで日経平均は1度も7,000円台を記録していません。
 つまり、民主党政権下で日経平均が7,000円台だったことは、一度もないのです。

 長谷川豊さんは「あの3年で、とにかく、日経平均株価は下がりまくり7,000円台というとんでもない数字に」とおっしゃいますが、それはいつのことですかね?

 事象的には麻生政権時代にリーマンショックによって起こった話ではありますが、麻生政権は民主党政権ではありません。

 日経平均の記録に残らなくても、長谷川さんの記憶には、民主党時代に日経平均が7,000円台だった記憶が残っているのでしょうか?
 記録に残らなくても記憶に残る。まるでスポーツの試合のようでかっこいいですが、嘘は嘘です。

 同じことを言っているのは長谷川さんだけではありません。ネットで多くの人たちが「株価が7,000円台だった民主党政権時代を忘れない!!」と主張しております。中には、自民党の候補が街頭演説でそんな主張をしていたらしいというツイートもあります。

 忘れないも何も、そんな時代はなかったのですが、なぜかどこにもなかった時代を、多くの人が覚えているようです。彼らが覚えている民主党政権時代とは、いったいどこの世界線上にあったのでしょうか?

 少なくとも僕の生きている世界線ではありません。彼らは別の世界戦からタイムリープしてきた、シュタインズゲートの選択……

 さて、彼らをいじめるのも、読んでいる人に通じないであろう冗談も、このへんにしておきましょう。
 確かに民主党政権では、リーマンショックから立ち直り、景気が回復していった世界経済の流れに上手く乗ることはできませんでした。そのことを批判するのは真っ当です。

 また、安倍政権下で株価が大きく上がったことも事実です。そのことを誇るのもいいでしょう。
 しかしながら、わざわざ「民主党政権では株価は7,000円台だった」という、調べればすぐに分かるレベルの嘘を吹聴する意味ありません。別に「民主党政権下では8,000円台だった株価が、アベノミクスによって17,000円台まで上がった!」でも十分ではないですか。

 ちょっとハクをつけたいがために、たかだか1,000円分のつまらない嘘をつく必要はないはずです。ましてやそれを「覚えているぞ!」などと主張する必要はどこにあるのでしょうか?
 少なくとも僕は、自分の支持する集団が勝つためであっても、姑息な嘘をつくような人間にはなりたくないですね。くわばらくわばら。

*1:僕が第2次安倍政権を支持する訳(BLOGOS)
*2:日経平均資料室(日経平均プロフィル)