※この記事は2010年07月04日にBLOGOSで公開されたものです

　経済学者の池田信夫氏がゲストに堀江貴文氏を迎え、6月30日にUstreamで生中継された対談で、「参院選で政治は変わるのか」をテーマに議論を繰り広げた。7月11日に迫った参議院議員選挙に向けて各党のマニフェストを検証したほか、堀江氏が総選挙に出馬したさいのエピソードや、明治時代から続くという日本の官僚機構の歴史など、テレビや新聞ではまず語らなれないであろう真実も続々と飛び出した。独自の視点を持つ両氏による、日本の政治を語り尽くした対談の模様をレポートする。（後編はこちら）



池田:今日は堀江貴文さんにお越しいただきました。堀江さんがライブドアのお仕事をするのは…、4年ぶり?

堀江:ですね。ぼちぼちちょっと絡んではいたけど、親会社の都合とかあって自粛していたみたいで。別に僕はどっちでもよかったんですけど。親会社がNHNという韓国の会社になったんで大丈夫になりました。本当は会見のときに僕が特別ゲストで呼ばれるっていう話もあったんですけど、「さすがにそれだけはやめてくれ」といったことを言われたらしく、それはダメになってしまったみたいです。今後は「いろいろコラボしましょう」という話はしています。

池田:堀江さん自身は5年前に選挙に出たこともあるし、その頃は「もう少し世の中がよくなるのかな?」という感じが僕にはあった気がするんだけど、ここ5年を見ているとあんまりうまくいっていなかったりしますよね。

堀江:僕はまたこうやっていろいろ仕事をし始めたんですけど、(5年前と比べて)全然進化してなくて。もっと時代から取り残されて、どうしようもないことになっているのかなあと思ったら、意外と付いていけてて。なんか大したことないなと(笑)。

池田:堀江さんの本やメールマガジンもものすごく人気あるんでしょ? どうもやっぱり、いまの堀江さん以下の世代の持っているフラストレーションみたいなものが相当大きくなってて、それを政治とかのオフィシャルな部分を担う人たちがうまく受け止めきれてなくて、それが堀江さんに対する人気になって表れているのかなという気がするんだけど。

堀江:受け止められてないというか、取り残されてるというか…。(発展を続ける)中国の話とかインドの話とかを聞くと、なんか「日本村」みたいな感じがしていて、もうみんな世界に出ていったほうがいいんじゃないかという気もすごくしているんですよ。

池田:さて、今日のテーマは「選挙」ということなんですけどね。本来だったら選挙というのは、少なくとも若者というか、現状に不満を持つ人々が不満を集めてきて、(選挙に立つ側が)それに対して挑戦するみたいな構図が普通はあるんだけど、どうも今度の参議院議員選挙を見ていると「一体誰と誰が何をしようとしているの?」というのがいまひとつわからないような感じがするんですよね。

堀江:ただ民主党と自民党って、おそらくほとんど一緒で、要はバラマキをしたいんですよ。その意味ではものすごく一致しているんだけど、ただバラマキのやり方が違うだけ。基本は一緒ですよね。

池田:昨年、政権が民主党に代わったときに、一時は「もっと政治が変わるのかな」と期待したんだろうけど…。

堀江:僕はまったく期待してなかったですけどね。民主党にも入れてないですから。政権交代しただけでもすごいと言われていましたけど、全然そんな感じじゃないと思っていました。

池田:僕はしないよりはましだと思うけどね。

堀江:どうだろうなあ。あんなに圧勝する必要もないと思うんですけど。あれはすごく異常だなと僕は思っているので。今回の参院選でも、たぶんみんなの党くらいしか対抗勢力というのはないはずなんですよ。各党のマニフェストを見ても、民主党、自民党、社民党…、社民党はより"バラマキ系"だし、公明党は色がないといえば色がないし、共産党にいたっては評価すべきこともないという状況ですよね。僕としてはみんなの党くらいしかちゃんとしたことは言っていないような気がします。

池田:一時期は新党がいくつかできたじゃないですか。新党改革とか国民新党とか。

堀江:たちあがれ日本なんて、評価するべき価値もないんじゃないですか?

池田:そういった新党ができるのも、もうちょっとポジティブな意味で新党ができるといいんだけど…。

堀江:こういう話をするとまた「政治とカネ」みたいなことになってしまうけど、結局のところ新党を作る人というのは、必ず誰かスポンサーがいるんですよ。たとえば新党改革のスポンサーは鳩山邦夫さんじゃないですか。(長男の)鳩山太郎さんが立候補していて、そこへ鳩山邦夫マネーが入っているわけで。舛添さん自身はケチだし…ケチらしいんですよ(笑)、自分のためには使うけど。政党の親玉というのは、本当は自分の子分たちに金をばら撒かないといけないんですよね。選挙をすれば、ずっと選挙活動ばかりしている間に1億円とかかかるわけで、そうするとどうしても親玉が金を払わないといけなくなってしまう。民主党が政権を取ったのも鳩山ブラザーズのおかげじゃないですか。お金を持ってて、政治にお金を使うことを良しとするようなファミリーの存在というのは貴重ですよ。

池田:堀江さん自身は5年前の衆院選に自分のお金で出馬され、将来は首相になるということも思っていたわけでしょ? その頃は堀江さんみたいな、どちらかと言うと若者の本音の部分を代弁している人々が、政治みたいな建前の世界に入ろうという時期が、わりと珍しい状況があったと思うんですよね。

堀江:ただ、それにはいくつか条件が必要なんです。まず選挙に強いということと、資金力があること、知名度があること。「ジバン」「カンバン」「カバン」でしたっけ? そういうのが必要なんだけど、それをたまたま当時の僕が持っていて、ただし選挙に強いことだけは証明しなければいけないじゃないですか。そのために、たぶん亀井(静香)さんに勝つと誰しもが認めるだろうと。ああいう状況というのはなかなか生まれないですよね。あともうひとつは、企業経営をしていると「日本村」というのをすごく感じてしまうんです。(総選挙に出馬するのは)「日本村」の村会議員選挙に立候補するようなレベルの話。でも、たとえば楽天の三木谷さんやソフトバンクの孫さんはなかなか立候補しないじゃないですか。なぜしないかと言うと、やはり事業をやっていたほうがいいんじゃないかと思っちゃうんですよね。

池田:あの頃は郵政選挙だったわけだけど、その後の5年くらいを見ていると、最近も菅さんが所信表明で「行きすぎた市場原理」だとか言っているし、自民党でさえ、堀江さんが出馬した頃のあの状況は「よくなかった。間違っていた」とずっと言い続けてきています。どうもそこが、日本がうまくいかなくなっているひとつの原因のような気がするんですよね。まあ言ってみれば、自分たちの温情主義的な政策を正当化するために「小泉政権のときはみんなが貧乏になった」と言うんだけど、実際は貧乏になってなかったんですね。失業率はあの時期が一番低かったし、平均株価も高かったし、成長率も一番高かった。経済的にはむしろ少し豊かになり始めていて、僕も「ようやくトンネルを抜けたかな」と、それこそ堀江さんが郵政選挙に出た頃はそう思っていたんです。まさに堀江さんを仕掛けてきたときには「これで日本も、これから一人前の資本主義国になるのか」という感じがあったんですよ。それが2006年以来、結局また元に戻ってしまいました。まあ自民党政権が元に戻るのはしかたないと思いますよ。小泉さん自身が特異な政治家でしたから。ただ、せめて民主党政権になったときに、自民党のバラマキ的な体質を改めるような雰囲気になっていけばよかったのに…。民主党の中にはそういう人はいるんでしょうけど。

堀江:若手はみんなそうなんですよ。でも若手にガッツがないんですよ。この間、民主党の代表選があったときも、誰も立候補しないじゃないですか。樽床さんという人が出て、「あれは小沢一派じゃないか」「小沢の後押しを受けているじゃないか」とすごくネガティブなことも言われていましたよね。でも僕は、ああいう人が出てくることはいいことだと思っているんです。できればもっと若いやつに出てきてほしいなと。世界の趨勢を見てみると、オバマ大統領だって40代だし、イギリスの首相も…G8のトップがどんどん若返っているんですよ。日本だけお父さんみたいな人が首相をやっていて、それにも僕は違和感を覚えるので。もっと若返ってもいいんじゃないかと思っているんですけど、そういう雰囲気が出てこないし、とにかく若手にガッツがない。若手がトップになればもっと大きく変わると思うんですけど、菅さんとか鳩山さんくらいの年齢の人って、日本がすごく豊かだった頃のことを錯覚しているのかもしれないんですけど、ちょっとずれてるところはありますよね。昔の感覚が頭にあるから、ずれた政策しか出てこないのかも。

池田:でも各党のマニフェストを見ていると、日本の大部分の政党が、世界的な基準で言うと「社民党から左」くらいなんですよね。自民党にしたって、世界の基準から見れば社民に近いような政策なんですよ。

堀江:民主も自民も、全部(世界的に見れば)社民党みたいなものだと思いますけどね。

池田:日本にはアメリカで言うところの共和党みたいなタイプの政党は昔からないんですよ。小沢さんが一時期やっていた自由党とかがごくわずかにあったかもしれないけど。ある意味で日本には根づかないのかなって気もするんですね。

堀江:僕はそんなことないと思いますよ。要は根づかせ方なんですよ。

池田:どうも日本は、ぽこっと出てはくるんだけど短く終わっちゃうでしょ? 小沢一郎さんなんて90年代前半に少しがんばったけど、結局は政権交代しても何にもならなかったし。小泉さんは5年くらい首相をやって、あれが近年では最長くらいだったけど、その後またすぐに元に戻ってしまって。日本人はああいうのがちょっと嫌いなんでしょうね。

堀江:小泉さんが唯一間違えたことって、安倍(晋三)さんを後継にしたことだと思うんです。

池田:この間、片山さつきさんともお話したんだけど、「小泉さんがやったようなことって、取りかかってから効果が出てくるまでに10年くらいかかる。それを5年半で辞めてもらったら後の人が困りますよ」と彼女も言っていました。

堀江:でも僕は、小泉さんはあのくらいで辞めると思っていましたよ。

池田:もっと強力な後継者がいたらよかったんだよね。

堀江:小泉さんがあそこで辞めて、逆に僕は立派だと思ったんですよ。あれ以上いたら老害になるなと思って。そのことをわかった上で潔く引いたところまでは、すごく評価できるんですよ。でも何で、その後に安倍さんだったのか。僕が選挙に出て、小泉さんにも会ったときに、小泉さんの前にやって来たのが安倍さんで、握手もしたんだけど、「この人が後継者と言われているけど…、何でこの人なんだろうな?」と思ったんですよ。そういう意味では、自民党政権というのは保守的な部分もあるわけじゃないですか。明治維新以来の保守だし、(安倍元首相の家系は)長州山口の出身だからという論理もはたらいているんじゃないかなと思ったのですが。

<後編へ続く>

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